19 パペルの塔より
・まえの回のあらすじです。
『【霊樹の苗木】がなくなる』
〇
砂塵の荒野をぬけて、荒れ地に建つ塔へいたる。
不用意に世界の【さけめ】に触れたため、よじれて破壊された手は、回復のちからを秘めた【魔石】をつかうと、またたくまに修繕された。
暗い空のしたから、階段をのぼって塔のいりぐちに立つ。
かつて、【精霊の巫女】によってあけられた扉は、門番をうしなったためかひらいたままになっていた。なかに巣食っていたモンスターたちもいない。
もう幾年もなにものもおらず、わすれさられてしまった廃墟のように、天を突くばかりに高い塔――【パペルの塔】は、森閑とたたずんでいた。
円筒形の建物の、内壁にそって這うおんぼろの階段を、ユノはあるいた。
上へ。上へ。
らせん状の石段を、ふみぬいてしまわないように。慎重にのぼっていく。
道はながい。
塔に来たときには午前だったのが、昼となり、上階の朽ち果てたホールで食事と休憩を取った。
ふたたび頂きめざして移動する。そこに妖精の郷へつながる【柱】はある。
穴ぼこだらけの塔をのぼり、てっぺんへと着いたのは、その日の夕刻だった。
もう夜もちかいのは、やぶれた外壁のそとにせまる東の群青からわかる。
頂上の間にただよう、あえかなほたる火のあかりに、ユノは視線をめぐらせた。
扉のあいた広間から、ちいさな光輝はながれてきている。
光の柱が、祭壇の中心から上空へとのびている。
(このさきに、セレンさんたちの住む世界がある)
一歩。足をユノは踏みだした。ズボンのポケットのなかで、【ファブール】からもらった黄金のかざりを握りしめる。
つかいかたはわからないし、この宝玉がなんなのか正体も不明だった。だがユノにはなにか神聖な、「おまもり」のようなものに思えた。
祭壇へとのぼる。
光の柱に、飛びこむ。
ふっ。
と全身が浮きあがる感覚。
ここちよいぬくもりにつつまれる。
白い輝きのなかで、ユノの全身は消失した。
なにごともなかったように、光の柱はあいかわらず静謐にたたずんで、塔はやがて、夜をむかえた。