17 しっちゃかめっちゃか
・まえの回のあらすじです。
『ユノが三頭の【サラマンデル】を【魔界】にかえす』
「ハルっ。ハルッ」
少女のわめく声がする。
「ハああルーーーー!!」
森のみどりと原始的な高床式の住居群にかこまれた、【妖精】たちの住む場所――【霊樹の里】。
中央にそびえる、天をつらぬくばかりに巨大な【樹】は、善良のちからをつかさどる【ドラゴン】の家であり、城である。
一年をとおして晴れわたり、昼は太陽の黄金、夜は月の白銀にあかるい天然木の集落は、なにも知らぬ住民たちできょうもへいわだった。
さわいでいるのは、少女ひとりである。
銀色のおかっぱに、やすっぽい花の髪かざりをつけた、あどけないおもざしの少女。シルクの長衣と木のつると皮で編んだ『グラディウスサンダル』といった質素な服装は、小柄でほそみの彼女のすがたを浮世ばなれした可憐さに見せてくれる。
もとより愛らしい少女であり、青い瞳は気丈であると同時に『わがまま』な輝きをともすものの、しぐさのひとつひとつには、王侯貴族特有の、一朝一夕では身につかない、染みついた気品がただよっている。
【ペンドラゴン王家】の第二王女、【フローラ・エル・ペンドラゴン】である。彼女は大樹のウロで、さがしものをしていた。
ドラゴンのねどこであるクッションはしっちゃかめっちゃか。
中わたがわりの羽毛が、土の地面にばかみたいに散らばっている。引きだしやタンスもあらかたひっくりかえり、奥の間へつづく扉はあけはなたれて、プランプランと蝶つがいをきしませていた。
少女――フローラは、ジャガイモやニンジンを保存しているカゴをさかさまにした。
だれもかくれていないのをみとめると、またさけんだ。
「ハルーーーーっ!!!」
「なにをさっきからさわいでいるの。フローラ」
つるのとばりをくぐって、ひとりの女がはいってくる。
みどり系統のながい髪に、同色の双眸。うつくしい顔をしているが、それは生命のあるものに見られる『愛嬌』をまとったものではなく、理想だけをつめこんだような、石の像めいた『つめたさ』と『無機質さ』で構成されている。
なんのこだわりか、衣装のドレスも若葉の色で統一したこのうつくしくわかい見た目の女妖精は、ここ【霊樹の里】をおさめる族長、セレンであった。