16 空間を裂く
・まえの回のあらすじです。
『ユノが失敗することをしんぱいする』
「……はあっ!」
気合いを吐いて、ユノは【エクスカリバー】を振るった。
果たしてこれでよいのかわからなかったが、いつもモンスターを切りはらう要領で、ユノはファブールの埋まっている空間のややうえを一文字に薙いだ。
ばかんッ!!
あっけないほどにぱっくりと、山の景色に眼窩めいた穴がひらく。
それは横向きに切れながのかたちから、上下にくるりと大きく見ひらいて、ファブールの胴体へと達した。
穴の奥に見えるのは、黒と白のモノトーンの世界。ぐにゃりとゆがんだ間のふちの向こうと人間界側が、なにかのトリックのようにつながっていた。
境界の幅がひろがったことで、ファブールの身体が解放される。
魔界側に宙ぶらりんになっていた胴体からうえ――ひょうきんな顔をくっつけたトカゲの体躯が、どさりと曇天の山のほうにかたむいて落ちた。
つまりは、【人間界】側に。
「やったあ、一時はどうなるかと思ったぜ!」
ファブールは快哉をさけぶ。
が、ヨルムンとニドヘーグはそれどころではなかった。
仲間がたすかったのはうれしいだろうが、彼らにはほかにも『すべきこと』があったのだ。
「よし! じゃあこのまま帰るぞ! いそげ!」
解放されたばかりのファブールをせっついて、跳びこえて、ヨルムンはすばやく【魔界】側にすりぬけた。
「待ってよー!」
とあわててニドヘーグがあとにつづく。
二頭がくぐると、ヘイゼルナッツのかたちにあいていた【穴】は、徐々に円周をちいさくしていった。
「うおーい! 待て待て! ひとりおいてけぼりなんてごめんだぞ!!」
ファブールもまたぴょいと境界を飛びこえた。
穴の幅が加速度的にせばまっていく。ファブールは向こう側から、ユノを最後に振りかえった。
ぱッと、鎧のベルトにつけたポーチから、ひょうきんなトカゲ男は投げてよこす。
なにかの攻撃か――と身がまえたユノの足もとに、それは落ちた。金色の、目だまのような宝石細工。
「それ、やる」
ファブールのみじかい言葉が終わった直後、世界の【さかい目】は閉じた。
閉じる寸前、ユノはうすい切れ目となった魔界の景色に触れようとせんばかり、手をのばした。
ばしん!
青白い閃光が飛んだ。
境界は閉じた。
世界をまたごうとしたユノの右手は、巨人にひねられたかのようにねじれて、ひしゃげた指から骨が飛びだしていた。
(第1話 おわり)
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