最終話
結局。
今僕は空港のロビーで立ち尽くしている。あれから数週間、二つの葛藤に揺れに揺れたのだがー目覚ましはフツーに作動し、パスポートは懐に、空港行きのバスは渋滞にもかからず、登場予定の飛行機は目の前でボーディングを待っている。
パパは出張が入り、一昨日別れの盃を交わしたーまあ生きてさえいれば、何時でも会えるさ。パパは弱気な顔で呟いた。孫の顔、見たいしよ。落ち着いたら、遊びに行くわー
あれから葛藤する僕に、肯定も否定もせず、僕自身に今後の人生を決めさせたつもりらしい。コレはある意味、凄い事だと思う。きっと僕なら殴り倒しロープで縛り監禁していただろう。息子の生き末を心配しつつも自分で決めさせ歩かせる。責任は自分で背負わせる。一見ただの放任にしか思えないのだが、一昨日の晩の真っ赤な目を僕は生涯忘れないだろう。
息子が窮地に立ちに行くのを歯を食いしばり容認する。今後失うであろう、最後の自由を親として認めたのだ。そして歯を食いしばり目に涙を溜めながら見届けるのだ。息子が望む道の道標になれない己を悔やみつつ。
今の心境。
其処まで酷い所では無い気がする。もし本当にそんな国ならば、もっとえげつないやり方、例えば問答無用の拉致監禁だとかすると思う。
来る、来ないを自由意志で決定させるーこの一点に僕はあの国の、アイツの意思を感じる。
僕は僕の意思で向かう。
例え其処がどんな茨の道であろうと。
ユートンがそばにいるのならば、全てを乗り越えてみせる。
そう言えば、娘の名前を聞いていないし教えてくれない。
広州空港に着いたら、まず其処からだな。ここは強気に行こう。娘の名前を父親に教えないとは何事だ、ふざけるなと叫んでやろう。
えっと、中国語で言うとー
「ご登場の案内です。中国南方航空、4447便、広州国際空港行きは間もなくご登場時間となりますー」




