第4章 第7話
四年前の出来事が回転木馬の様に僕の頭の中でグルグル回る。
ユートン。
お前、今、何処で、何を?
この子は、誰? まさかお前が産んだ?
と言うことは、父親は、誰? まさか、僕?
それより何より、何故今頃になって、僕に連絡を?
あの別離の日。僕はユートンに連絡先を欲した。それまで使っていたスマホは解約し、ラインその他の連絡手段が無かったからだ。だがユートンは、
「帰ったら、すぐにミツルに連絡する」
と言って教えてくれなかったのだ。それから待てど暮らせど連絡は来ず、一方こちらからは全く連絡の手段が無く、そうしている内にママの騒動が起こり、バタバタしている間に次第にユートンの事は思い出さなくなり…
嘘である。大嘘である。
僕は今日まで一日たりとも彼女の事を想わなかった日はない。これは断言できる。この四年間かなえちゃんを始め、数々の素晴らしい女子に巡り合ってきた。だが、友人関係より先に進むことは皆無であった。僕、かなえちゃんと手繋いだ事、なかったんだわ。
タワマンの学友の曰うことは事実なんだ。実は僕はなかなかモテる。入学してとあるサークルに参加しようと思ったのだが、主に三年生の女子同士で僕の争奪戦からの罵り合いを経た新歓コンパ大乱闘事件が勃発してしまい、そのサークルに二度と近づくことはなかったし、サークルの男子から何故か出禁を食らってしまった。
授業後、ノートを貸して欲しいと言われるのは茶飯事。それでも僕が特定の彼女を作ろうとしない事に、今では半ば、秋田L G B T説が有力視されていると言う。
そう。ユートンの事が全く頭から離れないので、周りの女子に全く関心を持てない。これが以来僕の心境なのだ。
勿論この事は仲の良い友人には話半分で伝えてあるので、
「ご、ごめん、秋田、俺、そっちじゃないんだわ」
なんて言われることは、まあ無い。
ただ。流石、人の親たるパパはある程度僕とユートンの関係を薄々感知していた様で、
「面白いもんだよなあ、俺にお前の半分でも絶倫だったらさ、ママは去らなかったろーな」
「…ハア? な、何の話ですかお父さん…」
「だってお前ら。酷い時は晩から朝までヤってたもんなー」
「え… 何故それを…」
「だってあの子。声凄かったから〜」
「マジか…」
「俺はすぐ寝ちゃってたけど、ママは結構アレで興奮してたみたいだぞお。そーだよ、ママがああなったの、お前のせいだ。」
「そんなあ…」
「俺の代わりにお前がママの相手してくれてたら、今頃我が家は平和だったk…おい、親を殴るとはどう言う了見だ!」
「その前に人前で話していいことと悪いことの分別をつけろよ、部長」
「オマエ… ホントに大人になったよなあ。」
「アンタ… ホントに管理職ちゃんとやってんのかよ…」
つまり。筒抜けのバレバレの垂れ流し状態だったことに当時の僕は気づかず… まあ、黒歴史と言われればそうなのかも知れない。
そんなユートンから。
四年も経って、しかもこんな意味有り気な写真と共に
僕に連絡をしてくるなんて…
その思いの丈を思いっきりぶつけたメールを書いて返信した。僕史上、いや僕の知ってる限りでこれ程の長さのメールを打った人間はいない。
其処にはあの日から今日までの事を詳細に綴り、添付写真について僕の推察を述べ、そして僕の変わらぬ愛をその倍の長さで綴ってしまった。
フツーの女子で最後まで読み切れる者はいないだろう、と言うほどの長さである。
ユートンは思いっきしフツーじゃないから、きっと最後まで読んでくれたであろう。そう信じていたのだが…
返事が来たのは、翌月であった。




