第4章 第5話
そんなやり取りが続くうちに、日曜の夜となってしまう。
身体も心も疲れ果てた僕はベッドに横たわっている。その横にはユートン、いや彼女が同様に横たわっている。
このコロナ禍の真っ最中にーあろう事か、パパとママは知り合いの秘密ホームパーティーに出かけてしまった。バーベキューだから移らないさ、なんて甘く考える両親に心底呆れ果てるも、ひょっとしたら最後の夜を僕と彼女に気を遣ってくれていたのかも知れない。
何方にせよ、明日の朝に帰宅し、ユートンを羽田空港まで送って行くと言う。
僕と彼女は両親が出かけてから今まで、ずっと一体と化している。
結局。僕と彼女の関係は何だったのだろう。
僕は彼女を好きだったのか。否。然しながら、明日を迎えることに相当臆病になっており、また明日という日が来る事を未だ信じられないでいる。
彼女は僕のことを好きだったのだろうか。否。それはこれ迄の言動が指し示している。むしろ僕とかなえちゃんを応援してくれているかに思えた程だ。
その辺りの事はちゃんと聞いておこうと思い、
「なあ。オマエはなんで、僕と…こんな事をしたんだ?」
「ん? セックスか?」
僕は軽く吹きながら、
「まあ、そう」
「それは… オマエとセックスしたかったから、だな」
スゲーな中国娘。直球人生かよ? 嘘ばかりついて来たこの一年。然しこの状況でこの言葉に嘘はあるまい。
「それは、何故? どうして僕とセックスしたかったの?」
彼女は無言になる。そこは直球投げないのか?
「アレか? 僕とじゃ無くても、兎に角セックスが大好きだから、なn―痛ってえー」
脇腹に肘鉄が入る。
「じゃ、じゃあ何でだったんだよ。これも仕事の内だったのk―痛えって!」
脇腹を鋭くツネられる。
「最後にさ、教えておくれよ。どうして、僕と、こんなにも?」
「電気、消してくれ」
僕は枕元の調光スイッチを操作し部屋を真っ暗にする。
「で。何でだったんだよ?」
鼻を啜る音が不意に聞こえてくる。
「言わなきゃ、わからないのか?」
「ああ、全然わからん。サッパリわからん」
「やっぱ、ミツルは頭悪いな。バカだな」
僕は初めて、彼女に手を上げる。と言っても頭を軽く叩いただけなのだが。
「一回二回ならともかく」
暫くの沈黙の後。彼女はゆっくり話し始める。
「これだけいっぱい。する訳ないだろ」
また沈黙。そして、
「好きじゃなければ」
脳天に雷が落ちた気がする。事実、身体が宙に2センチほど浮いたかも知れない。
彼女が、ユートンが、僕のことを好きだった?
「嘘、つけ」
「嘘で、これだけセックスできるか? オマエは好きでもない子と出来るみたいだけど、私には、出来ない…よ…」
鼻水を啜る音がする。
これも嘘? 演技?
「ミツルは変な奴だよな、大好きなかなえとはセックスしないくせに… 好きでもない私とこんなに…」
それは… と言いかけて口を結ぶ。
「オマエは本物の、変態だよ」
鼻声で突き放すように呟く。
ちょっと待て。
僕は、僕は…
何故、ユートンと…これほどまでに…
初めて交わって以来、貪欲に貪るように飽く事もなく、それこそ数える事すらできない程に… 好きでもない子に? そんな事が出来るのか、男って? 僕って?
彼女の言う通り、僕は本当に変態なのか。好きでもない子に膨大な精を注入することの出来る真正の変態野郎なのだろうか。
否。
彼女との出会いからの出来事が走馬灯のように僕の脳裏を流れ始める。
出会った時からすぐに喧嘩になった。と言うよりも一方的にやられていた。
初めての二人きりのデートでラブホに行った。
彼女とどれだけアニメや漫画について語り合っただろう。
彼女のコスプレ癖に何度吹き出したことだろう。
彼女の作る中華料理は今だから言う、どんな中華料理屋にも負けない絶品だった。
彼女の水着姿は実はかなえちゃんよりもスレンダーで素敵だった。
彼女が何某を葬ってくれたお陰で、どれだけ学校生活のストレスが軽減された事だろう。
そして
彼女の温かさは、どれほど僕を癒してくれた事だろう。
可。
そうか。僕はあまりにも自分を知らなさ過ぎた。
僕はユートンを
僕は彼女を
心の底から愛していたんだ…
好きだったんじゃない。
愛していたんだ。愛だったんだ。彼女への思いは。愛だったんだ、彼女との行為は。
愛しているからこそ、こうして今この瞬間、硬くいきりたっている訳なんだ。
僕はそれを無言で彼女に埋め込む。
彼女は無言でそれを迎え入れる。
時間の概念を放棄し
両親が帰宅する音までそれは続く…




