表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Honey Trap  作者: 悠鬼由宇
40/46

第4章 第4話

 正直。全くの想定外であった。


 彼女がスパイであったなら尚更。


 何故この時期に本国に戻されるのだろう。家族が、と言ったのは多分嘘だ。本国の命令でユートンは帰国させられるのだ。


 食後、自室でベッドに寝転び、天井を見上げながら考える。何故なんだ。ひょっとして何か重大な事が日本で起きるのか? それとも中国で起きるのか? それは戦争? 其れとも新種のウイルスの流行?


 悶々と考えていると、久しぶりにーそれこそ一月ぶり以上かも知れない、ユートンが音もなくドアを開けて入ってくる。


「何があったんだ?」


 僕はユートンがベッドに座るのを待ちきれずに聞く。ユートンはヨイショと言いながらベッドに腰掛け、


「上の命令。それだけ。」

「理由は?」

「知らない。わからない。聞くことも許されない。帰国しろと言われたら、するしかない。それが私。来週の月曜日、羽田空港から臨時便が出る。それで帰る事になった。それ以上でも以下でもない。」


 僕に質問を許さないかの如く、一気呵成に吐き捨てる。


「それで… コロナが治ったら、また帰って来るんだろ?」


 ユートンは静かに首を振る。


「もうここでの仕事はコレで終わり。帰ったら別の仕事をする。」

「ここでの仕事って… パパから情報を得て本国に流す仕事か?」


 ユートンはキョトンとした顔をし、それから、本当に久しぶりにちょっと微笑む。


「フッ まあ、それで良い」

「え? 違ったのか? お前、産業スパイじゃなかったのか?」

「ミツルはちょっと頭が良い。」


 急に褒められた。あれ? 初めて褒められた?


「でも、違う。産業スパイではない」


 僕は唖然となる。この一年間、てっきりそうだと…


「じゃあ、じゃあ何のスパイだったんだよ」


 ユートンは口角を上げ、


「お前に言う訳ないだろ」

「なんだよ、教えておくれよ」

「五十年後、な」

「バカか! 今教えろよ」


 ハーーとユートンは大きな溜息をつく。そして僕の肩に体を預ける。久しぶりのユートンの体温にまだ17歳の僕の身体は如実にオスの反応を示してしまう。

 引き籠りが長引き、ストレスも溜まっていたのは言い訳なのだが。かなえちゃんとも全く会えず。溜まりに溜まった青年の欲望が暴発したのは、今思っても無理は無かったのだ。

 

 僕はユートンにむしゃぶりつき、服を剥ぎ取り、、、


 僕はユートンで大人になった。


 不思議に思ったのは、意外にユートンは協力的で、初めての体験だった僕を実によくサポートし、思いの外上手くことを成し遂げられたのだった。


「コレも、あと四日だな…」


 今日は週末、金曜日。らしい。すっかり曜日感覚が鈍ってしまった。


「それまで、せいぜいやっとくか、きゃは」


 クスッと笑った筈のユートンの瞳から、スーッと一本の涙が流れる。


 その涙の意味を考えるいとまは無い。覚えたての僕はそれから際限なく彼女に迫り、それに彼女も旺盛に応えてくれ、僕達はまるで獣のように貪り合う。


「本当に、これでお終いなのか? また日本に来ることはないのか?」

「ああ。来るとしても「李雨桐」では無い、他の誰かとなってだな」


 僕はガバッと身体を起こす。


「オマエ… 本当の名前… 李雨桐じゃ…ないとでも…」

「違うよ」


 あっさりユートンは言い切る。


「何だって… じゃあ、実家が上海って…」

「上海は二度、行った事がある。」


 僕は全裸のまま立ち上がり、


「オマエ、何しに日本に… いや、ホントのオマエ… 誰なんだよ!」


 ユートンは悲しそうに微笑みながらそっと首を振る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ