第1章 第4話
この様に筆舌しがたい高校生活における僕の唯一の癒しは、自宅の自室で過ごす時間だ。好きなゲームをし、好きな漫画やアニメを見る。そして何より、図書館で借りて来た本をゆっくりと読む。僕のこの時間は何人も犯すことの出来ない賢者タイムなのである。
学校で何を言われようと、何をされようとー 仕方なく貸したノートに怪しげな毛が挟まっていても、体育の授業中に味方のパスが僕の背中を直撃しようとー 家に帰り自分の部屋に戻れば全てを忘れることが出来る。
今日起きた、科学の実験中の事件― なんでもプライムビデオで歴史物のドラマを観た山崎某と言う生徒が、水銀中毒の歌舞伎役者の動きに深く感銘を受け、是非あの動きを再現させるべく僕に水銀を飲ませようとし、停学になった事案があったのだが、多くの同級生が彼に同情しいつか僕がその動きを見せてくれるものと期待しているらしい。
家に帰り、自室でそのドラマを観てみたのだが。別に水銀中毒にならなくても出来そうな動きであると思い、試しに鏡の前で演じてみると楽勝で出来たし。僕は彼の罪を許すことにした。
いかんいかん。
僕の大事な読書の時間が。彼はきっと発達障害で、現実とドラマの世界が混沌となっているのだ。厨二病が重症化し高児病を発症したのだろう。仕方ないことなのだ。
いかんいかん。もう彼のことは忘れてこの借りてきた本を読まなければ。
そう、この借りてきた本。我が家は小遣い制度を導入しており、毎月親から4000円が支給されている。そしてその中から飲食代、本代などを抽出しなければならない。顔見知りの同級生は本代は親が全額出資していると聞き、放課後彼の上履きを片方ひっくり返してやった。
そんななけなしの小遣いから本代を出すのは非常に厳しい。従って公共の福祉を大いに利用してやっているのだ。
そんな高二の四月も後半になり、G Wが迫ってきたある日。夕食の場でパパが突如奇怪なことを言い出したのには参った。