第4章 第1話
と言っても、女子二人と僕に三人で寝るので、まあそこに性的な何かが起こる確率なんて、来年の春夏の甲子園が中止になる確率以下だ。
何もそんなに気にしなくても…
「だって、私、男の子と同じ部屋で寝るなんて、初めてなんだよ。あれ? 秋田くんは?」
ユートンの肩がビクリと動く。
(わかってんな、余計なこと言うなや)
(ったりメーだろ、言うわけねーだろ)
「まさかー、この僕がある筈ないじゃん」
「えー、そんな事、ないでしょ」
布団に入ったかなえちゃんが、意外そうな声で呟く。
「だって、秋田くんさ、ちょっと人気あるじゃん、女子から」
「「ハアーーー?」」
僕とユートンは真顔で大声で叫ぶ!
「えー、知らなかった? 中学の時、ちょっと可愛い顔してるよねー小柄でちっちゃくて可愛いよねー そんでメチャ賢いしー って。何回か告られなかった?」
これまで生きてきた中で、最大級の衝撃を受けるー恐るべし、夏休みのお泊まり女子とのピロートーク大会! こんなにもあっさり今までの自分の概念が崩壊するとは… はあ?この僕が女子に少し人気があった?
「ユートンちゃんにはー話したよね、私と秋田くんのー因縁と言うか、あの出来事―」
ええええー あの話、他人にしちゃう? お、恐るべき女子トーク… 男子なら永遠に未来永劫、秘密の部屋の賢者の石の更に奥に埋めてしまうレベルの事件かと…
「え? 私結構話してるよ、中学の時から。この話聞いて、秋田くん顔は可愛いけど男前って言ってるよ、みんな」
ユートンも首を傾げながらかなえちゃんの話に聞き入っている。
「だからだと思うよ、去年とか、秋田くん結構男子の中でハブられてたって。それ全部女子ウケ良い秋田くんへのやっかみだと思うよ」
呼吸を忘れる。万が一かなえちゃんの話が34%でも事実があったのならー僕はその34%分、己を誤解して生きてきたと言うのか…
ふと、何某の事を思い出す。今は冷たい水の中で腐敗しているであろう、何某の言葉を。
『オメー如きに彼女ができる訳ねーよなー』
そう言いながらも僕に暴行した。あの時は何故、と思ったのだがー 今かなえちゃんの話を聞いて、少し合点がいく。
僕如きが女子に少し人気があるのが、許せない
そして、僕に彼女が出来たら殺すとまで言う、その狂気。彼にとって容姿も頭脳も、そして女子からの評価も全てこんな僕より低い自分を正当化させるために、暴力で僕を抑え屈服させ満足するしかなかったのか…
「ミツルみたいなのは、中国では人気ないね、絶対。」
「ウッソ。なんで?」
「よわっちいし。なよなよしてるし。男としての押しが弱いし。勉強虫だし」
おいおい。一体いつの時代のアニメ観てたんだよ…なんだよ勉強虫って… 呪術廻戦に出てきそうじゃないか
「寧ろ、あの田沢とか言う奴の方が人気あるだろーな」
「「マジ?」」
「じゃあ、かなえちゃんみたいな女子は中国でも男子に人気あるだろ?」
「あるな。大人しくて可愛い。メチャクチャモテるぞ。かなえ、私と一緒に中国行くか?」
「絶対行きたい! そんでメッチャモテてみたい!」
「えーーそんな…」
「ミツル。そんなに落ち込むな」
「いや、別に…」
「ミツルはかなえ推しだからなあ」
「えっ 何それっ え? え?」
「ユートン、何言ってんだ! かなえちゃんが困ってんだろ!」
「で。かなえは惚れた男子、いるのか?」
「え… いる、んだ…?」
「い、いないよおー」
「い… いない… んだ…」
「ちょっとー。この話、おしまい!」
時計の針がとっくに十二時を過ぎているのにも気づかず、僕達のアオハルな夏の夜はすっかり更けていくのであった。




