第3章 第8話
なんて、僕がアオハルを満喫し始めた頃。僕とユートンの関係は実に微妙な間柄となってくる。
それは…まあ…何と言えば良いのか…
実の兄妹? 従兄弟? 若しくは長年連れ添った夫婦? な感じなのである。
ママのボルダリング熱は想定外に白熱しだし、週三でスポーツクラブに行くのは良い。のだが、その時間帯が夕方〜夜になってしまう。
ママは初めはちゃんと夕飯をこさえてから家を飛び出していったのだが、この数回は夕食をユートンに全面委任し、しかも帰りにボルダリング仲間と一杯やってくるようになった。
すると僕らの生活はどう変化したかー 僕が五時頃塾から帰宅する。ユートンは夕飯を作って待っている。一緒に食べる。入浴する。部屋に戻る、まだ七時前。
ユートンが部屋に入ってくる。パパもママもいない。
どちらともなく体を擦り寄せ、今夜は何を観るかで少し揉める。
観始める。途中、喉が渇いたと言うと、仕方ねえなと言いながら麦茶を持って来てくれる。
アニメが終わる、時計を見上げると九時過ぎ。
九時半頃、漸くママが帰宅する。十時過ぎ、遅れてパパも帰宅。
以上が、平日の月、水、金のデフォルトとなってしまう。
ある週末なぞ、パパとママが友人の別荘にお呼ばれし、僕とユートンが二人きりに。アニメを見終わり、そろそろ寝るかと歯を磨きに洗面所へ行き、部屋に戻るとユートンは僕のベットで爆睡。仕方なくその横で僕は身体を一直線にしながら寝に入る。
朝目が覚めるとユートンは既に起き出して、それは美味な朝粥を作っていたりして。
この関係性、一体何と呼べばよいのだろう。
昼間、清純正統派アオハルを楽しんだ後に、夜は家で身体をくっつけながらのアニメ鑑賞会。更に朝まで同じベッドで同衾…… なーんか、かなえちゃんに申し訳なくて…
だが、昼も夜も充実した生活を送り、僕の成績はグングンと上昇気流に乗って行く。
しかし、この頃僕は毎晩夢にうなされるようになるー そう、あの田沢何某が毎晩夢に出てくるようになったのだ。白蠟化した彼が、
(テメーだけ、上がって行くんじゃねえぞー)
と叫びながら僕の足を掴んで離さない、そんな悪夢に眠りが浅くなっていく。
朝起きて鏡を見ると、目の下にクマがある疲れ切った僕がいる…… そんな僕にかなえちゃんは、
「秋田くん、勉強頑張り過ぎなんじゃない… 土日はしっかり休まないと…」
僕を心配してくれるかなえちゃんに心で号泣しながら、僕達は公園のベンチに向かっている。
「ねえ、明日さ、ジャグジー付きのプール行かない?」
汗を拭きながら、冷たいレモンソーダを飲んでいた僕は咽せ返る。
マジか! キターーー アオハル夏休み定番、あの子とプールイベントおーーー!
「秋田くん、勉強疲れをジャグジーでしっかり取るといいよ、ね?」
「いいね! 行こう行こう!」
「じゃあ、ユートンちゃんには私からも連絡しておくから、今日帰ったら、伝えておいてね」
…ユートン付きジャグジー付きプールなのか……
ま、いっか。
「分かった。何時にする?」
「お昼は食べてから、一時に待ち合わせでどお?」
えーーー 朝から行きた〜い
「ごめーん、午前中は、ちょっとアレなんだ…」
わーーー、そんな悲しい顔しないで! 一緒にプール行けるなら、何時からだって…
「じゃ、そゆことで ^_−☆」
可愛い。可愛すぎる、そのウインク。
どうしてこんな可愛くていい子に、彼氏いないんだろう…
「えーーー、私、コミュ障気味だしー、男の子と話すなんて…秋田くんとだけだし…」
はい。どーも。今日も感動をありがとう!
ママから、飲み会遅くなりそーと連絡が入っていたので、あと一本夏アニメを観るかと言うこととなり。
ふと、隣で大欠伸をしているユートンに、
「明日、お前水着持ってたっけ?」
「んー、持ってない」
「午前中に買いに行くか?」
「かなえに借りる」
「いやいやいや。(胸の)サイズ合わないだろうが」
「最近、デカくなってきたから、大丈夫」
確かに。そう言えば。気のせいかと思っていたが。照明に照らされたユートンの胸は、確かに春先よりも大きくなっている。
一瞬、ユートンに女子を感じてドキッとしかけるも、いやいやと頭を振りつつ、よっぽど日本の食事が合うのだろ? と意識を矯正させ、
「今後はヨハネのようなペチャパイと言うのはやめにするよ」
するとユートンは僕を小馬鹿にした顔で、
「推しを貶めるとはオタクの名に恥ずる行為だな、この粗チン野郎め」
……もはや、日本語は僕より上手いのかも知れないね……




