第3章 第7話
さあ。夏休みだ。
アオハルだ。
夏期講習は意外と長期に渡り組まれており、パパにはマジ感謝せねばならない。きっと僕の夏期講習代の為にゴルフを月二回は減らさねばならないだろう。
僕はてっきり夏休みはユートンは実家に帰るものと思い込んでいたのだが、
「帰らないよ。ずっとここに居るよ」
「…そうなの? ママ知ってた?」
「勿論知ってたわよお。ゆーとんちゃん、家事を少し手伝ってくれるって。ママ助かるわ〜」
僕は溜息をつく。彼女に家事なんてさせたら… 益々パパの情報、相手に筒抜けじゃないか… まいっか。僕の知ったことでは無い。間抜けなパパがいけないのだ。
だが。最近ふと考える。
ユートンの本当の目的は何なのだろうかー
よくよく考えて、こんな冴えないパパを誰が凋落させるだろうか。きっとパパの同期や上司はパパなんて眼中にないと思われる。
とするとー彼女の目的は…
パパを通じてパパの会社の情報を中国の然るべき組織に流す。
これしか考えられない。
本来ならば、独身男性社員に取り込み、情報を得る方が簡単だと思うんだけど。わざわざこんなファミリー世帯に入り込むよりも、ずっと容易な気がするのだが。
ま、これはあくまでも想像の範疇であり、其れにパパの会社の情報の漏洩なんて僕には関係ない。もし発覚しても間抜けなパパが減給処分になるくらいだろう。
そんな事よりも、夏休みもユートンと暮らす事に、48%程憂鬱となる。
まあ、精々パパの部屋を荒らし、情報を本国に流せば良い。一日中家探ししていれば良い。僕はその間に、かなえちゃんと二度と来ない高一の夏を楽しむのだから。
あっという間に、一週間が過ぎた。夏期講習は月〜金の週五回、朝九時から夕方三時までという、結構ガチなヤツなのだ。其れでも僕には一秒も苦痛に感じる事はなく、寧ろこのまま夜まで講義が続けば良いのに、なんて考えている。
お互いバイトをしていないから中々の金欠なので、帰りにカフェやファミレスなんて贅沢は出来ずに、自販機で買った飲み物を持って公園の日陰のベンチに座るか、市立図書館へ行く感じの日々であった。
中学の頃は僕の方が成績は良かったのだが、現時点ではかなえちゃんの方が良く出来るので、当面の目標としては何とかかなえちゃんの学力に追いつく、その一点に絞っている。
勉強とは不思議なものでー何か明確なモチベーションがあれば、その成果は如実に現れるのだ。たった一週間共に勉強しただけで、週末の確認テストで僕はクラスで八位の成績だった!
因みに僕らのクラスは中の上、一クラス三十人である。
「凄いね、秋田くん… やっぱやれば出来るじゃん!」
クラスで三位のかなえちゃんに言われると、益々頑張ろうという気になる。
「夏休みの終わりには、私追い越されちゃうかな〜」
いや、終わりと言わず、お盆明け位に…
「そうなったら、勉強いっぱい教えて、ね」
喜んぶ! などと思わず噛んでしまう。
ああ、アオハル。何と美しい青春の儚き時よ…




