第3章 第5話
ただ、最愛の息子が女子を殴打したという事実…じゃないけどね、に両親はショックを隠せない様子であったので、ケーキを食べ終えた後ユートンと手を繋いでダイニングを出ると、別の意味でショックを受けた様だったのにはウケた。
手を繋いだまま僕の部屋に入り、そのままベッドに並んで腰掛ける。
「どーして、僕とパパがヨハネ推しって知ってたんd… あっ」
そうだった! 『人類補姦計画』において『堕天使ヨハネ』は重要なファクターだったわ…
「ホントは、私も善子が大好きなんだわ」
僕は思わずユートンを抱きしめてしまう。シャンプーの匂いに僕はクラクラしてしまう。ユートンが僕の肩に顎を乗せ、クスッと笑う。かつてない幸福感が僕を満たす。
そんな事よりも。
「で… 殴られ、たのか…」
ユートンは俯き、そっと頷く。
「身体は…その…大丈夫か…」
ユートンは僕の肩にもたれ、
「大丈夫だよ。何もされていない」
「本当か? 頼む、隠さずに本当のことを言っておくれ…」
「本当だ。セックスしていない。大丈夫だ」
嘘? 本当? まだ彼女の言葉や仕草から事実を導き出す術を僕は会得していない。
そんな不安を払拭させるべく。ユートンは優しく僕をベットに押し倒し、僕の左胸に顔を埋める。彼女の温もりが僕に伝導し、僕の不安は徐々に霧散していくー
「一体、どうやって?」
「ミツルは知らなくていい。奴の事は忘れなさい」
「そんな事は… だって、これからもアイツは…」
「もう大丈夫。ミツルが殴られる事は、二度とないから」
彼女の心音が伝わる。ゆっくりとしたテンポだ。
「ミツルの前に、アイツが現れることも、二度とないから…」
少し、ゾッとする。
まさか…
僕は彼女に向き直り…近っ 目と鼻の先に彼女の顔が…
その目は少し潤んでいる。そして、優しく僕の目を捉えている。
「まさか、お前… アイツを…」
鼻と鼻がくっつく。これ以上話すと、上唇が接触しそうだ… 其れなのに彼女は…
「いいから。忘れて。アイツのことも、今日の事も…」
これは接吻と言うべき行為なのだろうか… 彼女が話すたびに僕達の上唇が触れ合っている! この淫雛な行為とその話す内容のギャップに戸惑いながらも僕は口を開く。
「そうはいかないよ。頼む、ちゃんと話してくれ。まさか、お前、アイツを…」
潤んだ目がニヤリと笑った。
「そう。もう二度とアイツが私達の前に現れることは、出来ない」
「それって、まさか…」
「ああ。殺したよ。タ・ザ・ワを」
僕は激しく勃起した。
「死体は…どうしたんだ」
「沈めた。河口に」
「見つかる事は、ないかな…」
「大丈夫だろう。あと三年くらいは…」
「三年って… もし三年後に発見されたら?」
「その頃には私は中国さ」
「ぼ、僕は、どうしたら… 絶対、警察は僕に事情聴取に来るよ…」
「知らない、と言い通せ」
「で、出来るかな…」
「それなら、」
彼女が起き上がり、真顔で
「私と一緒に、中国に来るといい」
思考回路停止。僕は天井を見上げる。
何という夜なんだろう。どうやらユートンは本当に何某を殺害したらしい。そして遺体を隠蔽したようだ。
非日常。この言葉が僕の脳裏に降りてくる。人殺しが、今僕の胸に頭を乗せて寛いでいる。それも軽い寝息と共に。
僕は照明のコントローラーを使い、部屋を暗くする。そして目を閉じる。
余りに濃密な一日だった。
僕の意識はすぐに遠のいていく。
目を覚ますと、窓の外は明るく、隣にはユートンが安らかな寝息を立てているー




