第1章 第12話
こんなついていない僕にとって、彼女との暮らしは何なのだろう。日曜日まで間、其ればかり考えていた。家でのミッチとの会話を禁止された故、学校の往復の時間、其れも口に出す訳にはいかないので心の中でのミッチとの議論は思うように進まず。
あれだけ可愛い女子と同じ屋根の下で暮らす事。これは誰がどう考えてもラッキーである。やっと僕にもラッキーが巡ってきたのだろうか。
総武台高校に通う中学の同窓から突然連絡が入り、ユートンちゃんがお前の家にホームステイしているのは事実かどうか、と尋ねられ「そうだ」と返事すると、今度遊びに行くから、と言われた。中学時代は殆ど喋らなかった奴が、である。
其れくらい、彼女と暮らすことは特別ラッキーな事象と言えるだろう、フツーなら。
否。
僕たちは二人きりになるや、彼女は表情も態度も氷点下となり、かつ完全に僕を見下している。そして怪しげな日本語を少しずつ正す為だけに僕と会話をする。その過程で不条理な暴行を受ける事も少なくない。
彼女はスカート内部に対する防御力が非常に低く、座る時にはほぼ毎回中身が見えてしまう。初めは中国人の女子は下着を見られる事に恥を覚えないのか、と疑う程にだらしない座り方であった。
女子の生パンなんて、小学生以来見たことのない僕は思わず欲情する。当然だ。
だが。なんか違う。
これならまだ学校で風が吹いた時にチラリと見える下着の方がよっぽどエロい。
これだけ当たり前に堂々と見せられると、其れがまるで日常的な習慣というか、ありふれた光景の様な気がして、言うなら「醒めた」気分にさせられるのだ。
少しカチンときて、
「おい。女の子ならもう少し恥じらえよ。下着丸見えで座ってんじゃねーよ。みっともないだろうが!」
彼女はちょっとビックリした表情を見せたがすぐにキッとなり、
「何故ですか。何が悪いのですか」
「だからー女子はパンツを男子に見せるもんじゃねーっつーの」
「なるほど。パンツを見せてはいけない、あなたはそう言うのですね」
大きく溜息をつきながら大きく頷く。
「男子は女子のパンツを見るとどう思いますか」
「それは… エロい気持ちになるんだよ」
彼女はハッとなる。ほう、エロと言う単語はご承知らしい。
「それを、早く教えろよ、このボケナスが!」
唖然とする僕の頭を脳が揺れるほどはたき、彼女は部屋を飛び出して行く。
この様に、彼女との生活は寧ろ未だかつてないアンラッキーとも思える。
其れにしても。
女子の下着は男子の永遠の憧れである。パパみたいなオッさんにとってもそうであろう。然しながら、その下着を彼女が特段隠そうともしない状況が続くと、憧れが慣れと変化し、遂に日常となってしまったのには我ながら驚いたものだ。
先日、彼女が僕の部屋で突如、
「ミツルの制服が着たいです」
と言い、唖然とする僕を他所目にいきなり服を脱ぎだしたのだ。その脱ぎっぷりはビックリするほど男らしく、下着姿を今で言う『密』な距離で眺めても何ら性的なものを感じることはなかった。
彼女はまるでアイスクリームを目の前にした様な表情で僕の制服を着始め、ネクタイを結ぶ段になると、
「ネクタイを締めてください」
と言うのであいよっとばかりに締めてやると、
「似合いますか、似合いますね」
と、其れはもう完全なコスプレイヤーと化した様子が堪らなく可愛かった。
暫く日本の男子学生の制服を堪能した後、同様に男らしく脱ぎ捨て、再度下着姿となる。
そして自分の服を着て、
「また楽しみます」
と謎の言葉を残し部屋を出て行った。僕は脱ぎ捨てられた制服を拾い上げ、ハンガーにかけようとすると、制服から女子の匂いが漂ってきた。その匂いに僕は突如発情し、ベッドの上で己の制服に顔を埋め、ダイソンの掃除機さながらその匂いを吸い取ったものだった。
これは、ラッキーなのか? 間違いなくラッキーだ。女子の移香を堪能出来る。やはり彼女との同居は幸運なのかも知れない。