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メイドさんはおつよい 2

オーラン…若様の父親

話は進み、いよいよボス戦間近。勇者一行を送り出した後、切望的な戦況とオリヴィア達のもとに知らせが届いた。帰還用の魔法陣は壊され、行くことも戻ることも不可能に。同じころ、上級の回復薬がようやく完成したとオーランの元に届いた所から話は続きます。

オーランは手元の薬達を見て唸った。


「いまさらっ、こんなものが何の役に立つ!!!」

父としての、本音だった。


「使える場所もない薬などいらぬっ!」


持ち上げられた薬箱に周囲は息を呑んだ。


が、


振り落とされる筈の薬箱はオーランの頭上でビクともしなかった。


「オリヴィア・・・何をやっている」

「いえ、特には」


 あっけらかんと発言したオリヴィアは、領主ににっこり笑った。

オーランが持つ薬箱を、後ろから抑えながら。


「オリー!?」


 人ごみから顔を出したシャーロットに黙っていてと言わんばかりに目を細めたオリヴィアはオーランから力付くで薬箱を奪い取るとそれを床に置き、片足を乗せた。王からの支援物である薬箱に。


 同僚たちはオリヴィアの暴挙に息を呑んだ。

 黙っているオーランも怒気を孕んだまま出方を伺っている。


「領主様。これは今、割れました」

「は・・・?」

「割れたのです。領主様の手によって」

「割れてはいない。お前が止めた」

「いいえ割れました。私は今、破片の上に立っているのです」


 勇者が死んだせいでトチ狂ったと、その場にいた誰もが思った。

 怒りで頭が鈍っていたのもあるが、オーランすらも反応に困ったように口を開いては、閉じた。


「なら、お前はその割れた薬を、どうする気だ?」


執事長が伺うように問いかける。

 オリヴィアはこともなぜに続けた。


「あるべき場所に、捨ててきます。廃棄物を捨てるのは力持ちの私の役目、なんら問題はないでしょう?」


 執事長と領主はじっくりとオリヴィアの表情を見つめた。

 落ち着いた表情で、そこには周囲が思うような狂気も動揺も隠れてはいない。


「どこに捨てる?」

「そうですね、この器はかなり高度な精製をされたもの。一般の焼却炉ではもしかしたら焼ききれない可能性があります・・・辺境の、それこそ魔力が一等高い場所に捨てるのが一番でしょう」


 ようやく意図に気づいた領主は瞳を輝かせるが、すぐに瞼を伏せた。


「!しかし、無理だ・・・君がいくら強くとも、あちらの陣は既に壊されている」

「もとより、それを使う気はありません」

「ならっ」

「これを使います」


 オリヴィアはチリンと軽い音を立てた鈴を見せた。


※渡り鈴・・・一般的な魔方陣とは違い、移動先を特定の人物に指定する移動アイテム。

    移動できるのは予め契約した血縁者のみ。魔法陣との併用は出来ない。


「それがなんになる?お前の親族が村に住んでいるとでも言うのか?」

「・・・私の父はデル・アンドレ。行商人をしている男です。母とは15年前に離縁し、そこらの街で手に入るようなアイテムを10倍で売りつけるような人に誇れぬ生活しております。人からは、「悪徳アンデット」と――悪意を持ってそう呼ばれております」


 悪徳アンデット。まさしく、勇者一行が忌々しく苦言を呈していた男の名前だった。


「なっ、あの神出鬼没の」

「そう”あの男”は私の父です。あれのアイテムの補充は私が定期的にこれを使い実際に行って供給おりました。あの男のことですので、ご子息の亡骸からアイテムを回収する為、今は魔王城の前に店を構えているでしょう。近くの村からよりずっと早く移動できます。」

「とんだ父親だな」

「ごもっともで」


 オリヴィアは執事長や周りの白い目線を外すように宙を見た。



「・・・そうか、それなら」

「しかしっ!魔王の元に行くのは予言どおりの4人だけです、部外者は立ち入れないのでは!?」


 1人、気弱そうな男が弱弱しく声を上げた。

 伝説などただの通説だと考えるオリヴィアはくだらないと考えたが周りの人間はそうではなく、皆深刻そうに顔を伏せた。


 執事長が考えこみながらつぶやいた。


「いや、あくまでオリヴィアは仕事として破片を捨てに行くだけだ。なんら問題はないだろう」

「そもそも、もとより私は魔王城に行くつもりはありません。進路に障害があった場合は速やかに退ける可能性はありますが、それだけです。」

「仕事中の魔法の使用は領主の承認がなければ、いかなる理由でも禁じられている」

「さて、こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎています。いかがなされますが領主様」


 オリヴィアの視線に、領主が弱弱しく笑った。

 


「感謝しよう。息子を頼む」

「何のことかは分かりませんが、たまたま会った際にはご挨拶いたしましょう。」


 オリヴィアはスカートの裾を少しだけ持ち上げ、流れるように頭を下げた。


「・・・あ。申し訳ございません。ついでに同行させたいものが1人いるのですが」


 その人物に、否を唱えるものはその場にはいなかった。





※※






もうだめだと思った。

薬草やポーションは底を尽き、回復役の僧侶のMPも残っていない。


仲間は皆、地に伏し満身創痍にも関わらず魔王は未だ余裕の笑みを浮かべている。

戦えるのは自分1人、しかし仲間を守りながらだとそれも満足には出来ない。


「先ほどの行商人からっ、ぼったくりでも買っておくべきでしたね・・・」


 騎士である一人が苦し紛れに漏らした言葉。

 悪徳アンデット、そう呼ばれた男は何も購入しない勇者達に舌打ちをしていた。

 あの時はいい気味だと思ったが、今になって思えば腹が立っても買えばよかった。



「そうだね。定価の15倍だが、城に戻れたら問題なく払えた金額だった」


 勇者の同意に、僧侶は倒れながらも苦々しく笑う。


「死んでしまっては、意味がない・・」

「その通りだな・・・」


 魔王が高らかに笑う。


「ハハハハハ!他愛もない人間共よ!!安心しろ、俺は非常に優しい。貴様らの首だけは人間共に返してやろう」


 全員の瞳が絶望に染まったそのとき


澄んだ、女の声が聞こえた。


「それは困りますね」


騎士でも

僧侶でも

勿論勇者でも、魔王でもない声


 勇者にとっては、酷く懐かしい声



 魔王は酷く驚愕した顔で正面を見つめていた。

 勇者ではなく、その後ろ。


「若様は、五体満足で返して頂かなければ」


 振り向く余裕すらなく見開いた瞳に



 暗闇の中、勇者はキラリと光る一点の輝きを見る。

 放たれたのは、弓矢だった。


 手から離れた弓矢に炎が纏い、目にも止まらぬ速さで避けようとした魔王の胸元に届き、黒く濁ったアクセサリーを破壊した。


「なっ!」


 魔王が作ったドーム状の魔力は消え、薄暗い洞窟が姿を現す。

 シールドが破壊されたということだ。


 弓矢から手を離した女は即座に勇者達の上にビンを投げた。


それはキラキラと光りながら勇者達の頭上で降り注ぎ、魔力、体力を共に回復していく。


「若様、私常々疑問に思っていたのですが」


 いつもと変わらない、抑揚のない声。

 こんな状況だというのに。いや、こんな状況だからこそ力が抜けた。


「なんだい?」


 勇者の口角があがる、心が冷静さを取り戻す。


「勇者、騎士、僧侶とくれば」


 淡々とした声は続くかと思った

 結界を破壊され、苛立った魔王が女に向かって魔法を放つ


「魔王の前でちんたら話すな!そういう所がこいつそっくりなんだ!」


 突如現れ、魔王の魔法を盾で防いだダミ声男の怒鳴り声が聞こえる。


「偉そうに話すところはあなたにそっくりですよ!!」


 ローブを着た女は勇者一行を水の魔法で守りながら怒鳴り返している。


「弓矢使いはいれるべきです。あと傭兵、魔法使いもいれてもよいかと。あ、あの男は商人と呼ぶべきでしょうか」


「実の父親に向かってあの男とはどういう口の利き方だ馬鹿娘!!」

「うるさいですよゾンビ商人」



 いつもと変わらぬメイド服に弓矢を担いだオリヴィアが、悪徳商人と淡々と話していた。

 ここが館と錯覚してしまうくらい、いつも通りなオリヴィア。


「・・・ははっ!君はいつも私を驚かせる。どうしてここに?」


 オリヴィアが目を細めて笑った。


「瓶を捨てにきました。ゴミ捨て場にここ、最適なんです」


「「いいからさっさといなさい馬鹿娘!!」」


 両親に面倒そうに頷いたオリヴィアは勇者に向かって手を差し出した。

 これではどちらが勇者か分からない。


「若様、もう少しだけがんばりましょう」

「ああ!勿論だ」


 この後は形勢が逆転し、勇者側に有利な闘いとなった。


騎士、勇者、傭兵と前衛の火力がました勇者一行。魔王が隙を見て仲間を呼んでも後方支援の弓矢と魔法によって攻撃は阻まれ、回復を行う僧侶に手を出すこともできない。

 やっと体力を削れたと思えばオリヴィアが持ってきた回復薬によって全回復するパーティー。魔王は雄たけびを上げながら再び封印された。


 全員が大喜びするなか、魔王が封印された石を見つめていたクラウスはそれとなく隣にいたオリヴィアに目を向けた。視線に気づいたオリヴィアは分かっていますとばかりに頷く。


「戻ったら結婚式です。忙しくなりますね」

「え、誰と誰のだい?」


 クラウスを指した後、自分の胸元にひとさし指を向けたオリヴィアは続ける。


「私と、若様のです。想い合う2人を引き裂く邪魔者、別名魔王は既におりません」

「何の話?」

「双方に合意があり、若様の命の恩人である私にご主人様も否とは言えないでしょう」


 唇の端を上げたオリヴィアは自信があるようだ。


「合意、あるっけ?」

「まんざらでもないのは存じております」


 うっ、と頬を赤くしたクラウス。確かにオリヴィアのことが好きだ。

 いずれ結婚したいとも思っていた。が、こんな棚からぼたもちどころかぼたもちonぼたもちの状態になるとは思っていなかった。


 いつだ。一体いつのまにそんな話になったのだろう。

 クラウスはオリヴィアにプロポーズどころか告白すらもしていない。


「そんな話をしたかな・・・?」


 意味深に笑ったオリヴィアは応えない。

 疲れ果てて座り込む父と母を担ぐとクラウスに向き合った。


「さて、私共は一足早く帰ります。もともと仕事中、たまたま父の職場近くに用事があったため、たまたま居合わせた母と向かい。たまたま魔王に襲い掛かられてしかたなく回避しただけですので」

「たまたま・・・」

「ええたまたま。ですので、仕事に戻ります」


「クラウス様」

「なんだい?」


 そっとクラウス近寄ったオリヴィアは。


「あなたが、生きていてよかった」

 

 一筋だけ涙を流したオリヴィアはそう言って微笑んだ。


 クラウスは感極まったようにオリヴィアを抱きしめた。

 抱きしめられたオリヴィアもそっとクラウスに手をまわし返した。



勿論担がれていた両親は地面に落ちた。





途中の部分で挫折しました。

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