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夢の中の人


広い部屋だった。

真っ白い壁に囲まれた四角い部屋の境界線は酷く曖昧で、三角にも丸にも見える。


ろくに調べることもせず、ふわふわした足取りのまま部屋の中央だろうという所まで歩き、黒く、鈍く輝く複数の棒の一本に手を当てた。冷たいと思って触った棒の温度はよく分からない、私の腕だと一回りできない大きさの柱であることは分かる。


その黒い棒は何本も中心に向かって高く、高く伸びており、それが全て中央で集結して籠になる。大きい鳥籠といえばいいのだろうか、もしくは鳥籠の形をもした牢屋かもしれない。しかし牢屋にしては清潔で、中に置いてある家具も綺麗だ。ただ、牢屋独特の殺伐とした雰囲気も、それは兼ね備えていた。


鳥籠の中、その男はいた。



男は体格のよい体をゆったりと椅子に沈めている。


私には寝ているのか、目を閉じているだけなのか分からなかった。




□□□□□□□□


私は幸せだった。


サラリーマンの父、専業主婦の母、生意気な弟の4人家族。すごく仲がいいということもなかったが悪くもなかった。心の友と書いて心友と呼べる相手はいないが、普通に友人はいた。残念ながら彼氏はいなかったけど。


・・・・


いや、いなかったわけではなく作らなかっただけだし、作ろうと思えば作れたし。そんな可愛くないけど愛嬌だけはあったし・・と、自分で自分に言い訳してもむなしいので割愛しておく。


とにかく私は幸せだった。いつも通り仕事に行って、ご飯を食べて、お風呂に入って寝た筈だ。重ねて言うが、普通だ。



だから


今現在、間違っても若い女性に呼び掛けられ、グワングワンと吐きそうなほど揺さぶられるような状況にはならない。


友達は家に呼ばない主義だし。親戚に若い女の子はいない、弟にも彼女はいない、姉弟揃って相手がいなくて両親には随分と心配されたっけ。そういえば、両親はどんな顔をしていただろう、弟の顔もぼんやりとしか思い出せない。記憶力なさすぎなんじゃないか、私。

目を閉じたままつらつらと現実逃避にどうでもいいことを考えていると。


「いい加減起きてよ!」

「うぐっ!」


 女性の声は泣きそうからついに涙声に変わり、次いでとばかりにお腹に酷い圧力を感じ思わずうめき声ご上げた。どうやら力任せに私のお腹に手刀を入れたらしい。

一点集中型の痛みと圧迫感から私は体を丸め、ゲホゲホと咳をして少量の水を吐きだした。それを見た女性は安心したように、今度は私の背中をゆっくりとさすってくれている。優しいのか厳しいのかどっちだよと思っていたが、息を吸い、脳に酸素がいきわたると自分が置かれている状況が理解できた。


全身にぺったりとくっつく衣服、濡れた髪、ついでに私の背中をさすってくれている彼女もびしょびしょだ。多分だけど、私が溺れているのを助けてくれたんだ。


分からないのは顔にかかる自分の髪が赤く、手は血管が浮き出そうなほど透き通るように白く、着ている服もコルセのようなヨーロッパ調であること。ちなみに私にコスプレの趣味はない。そして――ちらっと視線を下げ、右手で自分の胸をそっと包み込んだ。ふにっと柔らかに、母が子を包み込む包容力の塊が右手を通して伝わってくる。新鮮というよりも未知な物体XのサイズはおそらくF。




くそがっ!!!


悪態を心の中でつきながら私はその場に崩れ落ちた。地面の土で服が汚れたって構うものか、それより嘆き悲しまなければいけない事実が私にはあるのだ!

お気づきの通り私の胸はこんなに大きくはない。つまり、この体は私のものではないということになる。もう一度言っておきたい。


くそがっっ!!!!



「大丈夫?まだ苦しい?ああ、でもよかったエリーナが息を吹き返してくれて。」


 地にひれ伏す私を、苦しがっていると女性は判断したのか、心配そうに背中を先ほどより強くさすってくれる。が、女性の手は尋常じゃない速さで上下に動いて痛い、このまま行くと摩擦で焦げそうだ。燃やされちゃたまらないと慌てて顔を上げた私は息を止めた


ハッとするようなエキゾチックな美人!


今の私より2つぐらい大きいサイズの物が胸元でたゆんたゆんとしている。その反面クビレがありまさにボンキュッボン!小麦肌に濡れて張り付く黒髪がなんともいえずセクシィー。かの有名な「綺麗なお姉さんは好きですか」のフレーズが頭に浮かぶ、ええ大好きです、私は自信を持って答えよう。褒めたらきりがないのでまた割愛。


少し物事を整理したい。


彼女の口ぶりから察するにエリーナは私のことだろう、名前を知っているということは知り合いかもしれない。フレンドリーに話しかけてみようか、しかし彼女は目上かもしれない、それに親しくない仲なら敬語なしはリスクが高すぎる。結果、私は普通に話しかけることにした。


「あなたが助けてくれたんですか?」

「えーと、そうね。助けたわ!」

 

 なんだ今の間。

突っ込む前にお礼が先だと、座ったままの状態から姿勢を直し、地面に手をついて頭を下げた。


「本当にありがとうございます、あなたは命の恩人です。ところでここって――」

「やだぁ!本当に気にしないで。さっきは成り行きとはいえ川に突き飛ばしてごめんね。」

「え?川に突き飛ばされたんですか、あなたに?」

「えぇ。さっき突き飛ばしたけど、まさか覚えてないの?」

「え?」

「え?」


・・・



え?

 



 エキゾチック美人の名前はリラ。正式にはリユラエラという名前らしいが噛みそうだし(というか既に噛んだ)、本人もリラでいいということなのでリラさんと呼ぶことにした。


先程の経緯はこうだ。まず、私が行き倒れていたところに声をかけてくれたはいいが。起きた私は支離滅裂で、なんとか名前を聞き出したものの混乱はいつまでたっても治らず、なんとかしようと後頭部目がけてパーンと一発叩いたらしい。運悪く私は前方へとぶっとび、叩かれた勢いのまま近くの岩に頭が当たり、その反動で川にスルリと落ち、どんぶらこーどんぶらこーと下方へと流れていったそうな。  リラさんはそこからなんとか私を助けだし、ずっと声をかけても反応がないため腹に一発当てて今に至ると。


 リラさんは申し訳なさそうに豊満なボディをギュッと小さくして、川の近くの草むらに座り私と向き合っていた。


「あの、なんと言えばいいか分かりませんが。」


 しいていうなら脳筋だわこの人、絶対テレビ叩いて治そうとする派だよ。そもそも私が反応しなかったのがいけないのだが、記憶がある限りそんなに呼びかけてない、2分もたってなかった。

 どーりで腹の他に後頭部も痛い訳ですわ。そもそも後頭部叩かれただけで運悪く前方には吹っ飛ばないのではないだろう。なんて、言いたくても言えない。証拠のためにもう一回実践しそうだものこの人。


「本当にごめんなさい・・信じられないかもしれないけどね、軽く叩いただけでポーンと飛んで行ってしまったの、こんな感じで。」


 スパッ


 リラさんが先ほどの再現をするように、立ち上がって木の側で腕を目視出来ないスピードで振ると枝が切れた。

 唖然としたまま落ちた枝を拾った。断面図は木目がはっきりと分かるくらい、綺麗に切れている。空いた口もそのままにリラさんを見つめる。リラさんもリラさんで目を見開いたまま私を見つめていた。


「あの、ほんと、わざとじゃないの。こうやっ」

「いいです!!実践しなくていいです!そういうこともありますよね!!」


 今度こそはと腕を振り上げたリラさんに必死に静止の声をかけた。


夢の中でだんだん仲良くさせたいって考えていたんだと思いますが会う前に飽きたのだと思います。

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