第九話「魔法少女 グリーン」
「どうやら二人目の魔法少女を味方につけたらしいクマね」
主人公の前に現れたのは一匹の熊。
しかし、デフォルメ化されており、手足は極端に短い。所謂、妖精だ。
「紹介するウサ!三人目の魔法少女担当、〝ララ〟ウサ!」
同じく妖精から紹介を受けたミント色の小熊ことララは野太い声が特徴的なキャラクターだ。
「ララは僕らの後輩イッヌ!雑用にしていいイッヌ」
すると、二番目の魔法少女…美菱の膝元から顔を出し、トマトすら入らないような小さな口を動かす。
「んーそれはやめてくださいクマァ〜」
放課後、ただの空き教室が三体の妖精により、異世界と化している。
魔法少女の世界を展開するべく、三人目の魔法少女「イエロー」を探す作戦をたてているのだが、俺・ヒロイン・櫻子・響蕾・ヒーローと性格も教室での立ち位置も違う五人が同じ教室に顔を揃えた。非転移者である一般人がこの光景を見たら、不思議に思うだろう。
「で、三人目はまだ見つかってないのか?」
「それが…」
俺の言葉に妖精ララは言葉を濁す。
空気がぐっと重くなったが、それを押しのけ、言葉が発された。
「学園長が仕切る『斬鉄武団に奪われたクマ!』」
「…!『斬鉄武団』学園長が…何で!?」
ヒロインがぎょっと驚きの瞳を見せながら、妖精に尋ねた。
「斬鉄武団は三人目の成績不良が原因で放課後も勉強により中々合わせてもらえないクマ!」
「な、何だ…成績不良が原因ですか…私はてっきり今後の展開を邪魔されたと思いました…」
ホッと胸を撫で下ろす魔法少女ピンク。続けて「そんな悪の組織じゃないですもんね!名前は怖いですけど」
斬鉄武団を擁護する発言は響蕾だけではなかった。学園長と関係のある生徒会長…美菱も不安交じりに言葉を並べる。
「私も学園長を疑いたくないです…」
と、言い切ると、太ももに座る妖精の頭を撫でた。
「そう言えば、櫻子は初めて出会った時、学園長の部屋に居たよな?何か繋がりがあるのか?」
思い出すのは二週間ほど前の記憶、転生し、目覚めた初日、櫻子は学園長の部屋で年齢に見合わない難しい本を読んでいたのだ。
それを思い出した俺は高校生用の椅子に座り、足をぶらぶらさせている幼女に問うた。
「…学園長は危険人物ですよ」
「…!」
予想していなかった発言に俺とヒロイン、響蕾やヒーローは目を白黒させる。確かに斬鉄武団は悪役のような物騒な名前だ。しかし、高校生が多く在籍する学園の責任者が悪者だとは思いたくない。だが、櫻子の証言も無視することはできなくて…
「斬鉄武団とは物語を強制的に〝打ち切る〟という目的から名付けられました。この世界をも打ち切ろうとしている可能性は高いですね」
顎に手を当てて考え込むような素振りを見せる櫻子は「三人目(重要人物)が中々登場せず、物語が長引けば打ち切られる可能性はありますからね」と言葉を続けた。
「でも、何故、学園長はこの物語を打ち切ろうとしているんだ?」
ヒーローの議論に言葉を返したのは櫻子ではなくヒロインだった。
「ライバルが減るからじゃない?物語が終われば転移者も減る…母数が減れば自分が活躍出来る場面も増えるからじゃないかしら」
ヒロインに続き、妖精ラビじんも口を開く。
「ん〜まいったウサねぇ。三人目は物語に欠かせない人物。五人揃わないとカラフルランドも救えないウサから」
お手上げだと言うように妖精ははぁ…と肩を落とした。
「じゃあ、三人目を飛ばして四人目・五人目から創作するのはどうだ?」
一人目は響蕾こと魔法少女ピンク
二人目は美菱こと魔法少女ブルー
後、三人。その内の一人は学園長の監視下に置かれており、下手に動くと学園長に打ち切られる危険があるからな。俺達転移者も守るという名目で口頭での加入はしているが、妖精の話を聞く限り、油断はできない。
すると、俺が回転させている思考を止めるほどの言葉が空間に飛び出した。
「四人目?四人目ならここにいるクマよ?」
「え?」
そう言うエメラルド色の小熊はニコリと笑った。
人間の親指ほどしかない妖精が魔法少女だと言われても説得力がない。そもそも、妖精とは少女を魔法少女に引き出すため造られたキャラクターであり、彼ら自身が変身できないだろう。
そんなことを並べると、小熊は何やら不思議そうな顔で論より証拠見せるんだった。
ぼふんっ!と咳の出ない煙を発すると、机の上に小熊…ではなく一人の少女が現れた。歳は俺と同じ十六、七ぐらいで、アイロンを使ったのか、ゆるく巻かれた髪は鮮やかなミント色をしており、折れてしまいそうな程細い腰を包むスカートからは真っ白な足が覗いていた。卵型の美しい顔立ちだが、頭に小熊の名残である耳が生えている。人間と小熊…計四つの耳を持つ、不思議な少女だ。
「な、何だ…」
「嘘…!熊が人間になった」
驚きを隠せないのは俺やヒロインだけではない。ヒーローや当事者であるはずの魔法少女響蕾・美菱も驚きのあまり手足が凍りついていた。
熊こと四人目の魔法少女…秋川来々(ララ)は野太い声ではなく美しい中性的な声で言葉を紡ぐ。
「私が四人目の魔法少女『グリーン』だクマよ?」
当然のように吐かれた言葉
秋川来々(ララ) (ララ)
設定…『魔法少女になれる妖精』
説明…魔法少女グリーンに変身できる魔法少女イエローの妖精
「へ、変身できるんですかっ!?」
同胞である響蕾に来々はコクリと頷き、制服ポケットに入っていたリップ型の変身アイテムを見せつける。
「因みに、私には妖精がいないクマ!でも、変身できるんクマよぉ〜」
長く美しい四肢を動かし、机から降りる小熊妖精ララを横目に美菱は自分の妖精にこう尋ねた。
「し、知ってたんですか!?」
「ま、まぁ、本当はもっと後の方で出てくる予定だったイッヌからね…」
額に汗を浮かばせるのはブキいぬだけでなくラビじんもだ。
「で、でも、これで魔法少女は三人集まりました!後…二人で…
ここで響蕾の頭にとあることが浮かぶ。
「ま、待って、美菱ちゃんは元々魔法少女の素質はなかった…」
「残る魔法少女は後、三人!?」
数時間後
「…俺に何のようだ」
ここは学園長室。転移者の秘書の隣にいるのは悪役のキーパーソンこと狩墓レオンだ。
橙色の夕日が差し込み…と描写されているが、黒色だからか、不気味な印象を感じる。
「彼の《設定》を使うとこの世界は打ち切られます」
秘書の言葉は窓外から黒い夕焼けを眺めている学園長…プロフェッサーにかけられた。
狩墓レオン (キーパーソン)
設定…即死回避
説明…大量の血や肉片を飛び出すわりに中々死なない。
「彼の《設定》は残虐表現を好まない魔法少女の世界を〝打ち切る〟鍵となります」
淡々とした声色で話す秘書に学園長はニヤりと口角を上昇させた。
「正にキーパーソンね」
彼女はさらに続けて
「幼女が好んで見る(よむ)この物語の天敵となる転移者ね」
と、目に文字よりも暗い黒色を浮かばせ、そう紡いだ。