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最終話になります。
一年後、ロベリアは姉のヴァイオレットと王太子ジークフリードの結婚式を見届けた後、帝国に向かった。
馬車十台にたくさんの嫁入り道具を積んだ華やかな車列を、多くの国民が見送る。
王家の養女となったロベリアは淑女の笑みを浮かべながら、沿道に集まった人々に手を振った。そこにはかつてのわがまま娘の姿はどこにもなかった。
ヴァイオレットと王城の人々は、王太子の結婚式という国事が迫っている中にもかかわらず、ロベリアの教育に全力を注いでくれた。
ロベリアもまたこれまでの甘えを捨て、歯を食いしばって厳しい教育に食らいついていった。
その姿に人々の心情は変わっていき、多くの事を教えてくれ、ロベリアもまた自分から進んで教えを乞うようになった。
ヴァイオレットが十四年かかって身に付けた教養の半分ほどを、ロベリアはわずか一年で身に付けたのだった。
まだ満足のいくレベルではなかったが、これまでの彼女を鑑みれば充分と言える成長ぶりだった。
両陛下と王太子、宰相をはじめとする廷臣たちの信頼を勝ち取ったロベリアは、ヴァイオレットの結婚式で花嫁介添人に選ばれるほどに成長していた。
甘えと傲慢が消えた末娘の成長に、スクロ公爵夫妻と兄のスクワードは感無量だった。同時に近くに訪れる別れを心から惜しんだ。
帝国に到着したロベリアはすぐさま皇帝一家と謁見することを許された。
本来は現皇帝の後宮に入る予定だったが、美しく輝く金の髪と宝石と見紛うばかりのエメラルドの瞳、何よりも優雅で堂々とした美しい彼女を気に入った皇太子に熱望され、彼の後宮に入った。
国民の多くが黒目黒髪の中、ロベリアの容姿は良くも悪くも人目を引いた。
千人以上の女達がひしめく皇太子の後宮で差別を受け、集団での虐めや嫌がらせ、命の危機に何度も遭ったが、ロベリアは毅然とした態度でそれらを撥ねのけていった。
特に帝国で大きな権力を持っていた名門貴族家の娘が放った暗殺者を素手で倒し、その悪事を暴いた雄姿に国民は大いに喜び、彼女をモデルにした冒険活劇本が多く出版されたという。そんなロベリアを慕う人々が次第に増えていき、後宮だけではなく皇城で、帝国内で徐々にその存在感を強めていった。
祖国の王城の人々や姉のヴァイオレットに仕込まれた教養の深さと、洗練された仕草に皇太子の寵愛は深くなるばかりで、ロベリアは多くの妃達に先んじて皇子を産んだ。
初めての男児の誕生に皇太子は大いに喜び、国中が慶びに包まれたという。その後も立て続けに三人の皇子を産み、ロベリアは皇太子の第一妃の座を掴み取った。
名実ともに皇太子妃となったロベリアの存在は、帝国内で大きくなっていった。
四ヶ国語を自在に操るロベリアの存在は外交にとってなくてはならない者とされ、皇帝と皇后からも大きな信頼を寄せられるまでになった。
祖国でジークフリードが王位に就いたのとほぼ時を同じくして、帝国も皇太子が皇帝になった。
ロベリアは嫁いだ後も姉のヴァイオレットと頻繁に手紙のやり取りをしており、そこから新王と新皇帝の会談がもたらされ、二国は悲願の同盟を結ぶことに成功した。
六人もの子供を産んだロベリアは年を経ても変わらぬ美しさを保っており、新皇帝の寵愛も変わらずに深い。
彼女は今や帝国の皇后として揺るぎない立場にいる。
「ヴァイオレットお姉様!!」
同盟締結を記念した交流行事で久しぶりに祖国の地を踏んだロベリアは、四人の子供を産んだヴァイオレットとの再会を泣いて喜んだ。
ロベリアは四人の皇子と二人の皇女に祖国を見せたいと連れてきており、彼らはヴァイオレットの二人の王子と双子の王女ともすぐに打ち解けて仲良くなった。
後にこの出会いがきっかけとなり、ヴァイオレットの長男の元にロベリアの長女が嫁ぎ、二国は盤石な関係を築くことになる。
その後も二国は良好な関係を保ち続け、やがて大陸に名を轟かせる大国になった。
ジークフリードが命じた帝国との橋渡しを見事に成し遂げたロベリアは、姉のヴァイオレット共に歴史に燦然と名を残すことになる。
~完~
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