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姉を妬んだ妹の顛末  作者: 乙茂内カズラ
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姉ちゃん狡い系妹を書いてみたくて作りました。


楽しんでもらえたら幸いです。




ロベリアはスクロ公爵家の次女として生まれた。子供達と公平に接する優しい両親と五歳違いの兄スクワード、二歳年上の姉ヴァイオレットがいる。


 姉のヴァイオレットは王太子ジークフリードの婚約者だった。

だがその婚約は姉が生まれてすぐに王家と両親の間で決められたものであり、ロベリアはそれが不満だった。


 ロベリアは鮮やかな金髪にぱっちりとしたエメラルドグリーンの瞳を持つ美少女だ。

 現在、花の十六歳。

 社交界デビューを果たしたばかりで、あちこちの家から茶会やパーティーのお誘いがひっきりなしに届く。それらに出席するたびに新しいドレスやアクセサリーを新調するのだが、スクロ公爵家は国内有数の資産家であるため、両親からも跡継ぎの兄からも何も言われることはなかった。

 茶会やパーティーで新しい衣装を披露するたびに令嬢や婦人達から褒められ、令息達からは途切れることなくダンスを申し込まれる。

彼らはロベリアが「喉が渇いたわ」と言えば我先に飲み物を取りに行き、「疲れた」と言えばバルコニーに連れ出して休ませてくれる。紅茶や茶菓子、軽食なども次々と運んできてくれるので、まるでお姫様になったようで有頂天だった。


 そんなロベリアの心に暗い影を落とすのは、決まって姉のヴァイオレットだった。

 祖母譲りのくすんだ金髪と名前の通りに紫色の瞳をした美人である。

 二人は背格好こそ似ているが顔立ちはまるで違う。大きな目をクリクリとさせた可憐なロベリアと、やや切れ長の目をした知性的なヴァイオレット。

 姉の元には男女を問わず多くの人が集まるが、年配者が多い。若い人と言えば護衛騎士に王太子の側近数名と、ヴァイオレットが個人的に親しくしている友人の令嬢が数名ばかりだ。


 対するロベリアには多くの令嬢や社交界で有名な令息達ばかりではなく、十五歳から通っている学園の友人達やその縁戚関係にある人々が集まっている。

 若人が集まるそこは、自然と華やかになるものだ。

そんな彼らはロベリアを「妖精姫」と褒め称えてくれた。それが嬉しいロベリアは彼らと交流を深め、互いの家を行き来して茶会に参加し、パーティーでは誘われるまま代わる代わるダンスを踊った。


姉のヴァイオレットは貴族学園に入学してからあまり家に帰ってこなくなった。学園での勉学と佳境に入った王太子妃教育のために、王城に与えられた部屋で過ごすことが多くなっていた。

 久しぶりに見た姉のヴァイオレットは、いつものようにジークフリードの隣に立って老年の男性と言葉を交わしている。その会話に相槌を打っていたジークフリードと、ターンをした瞬間に目が合った。ロベリアが微笑むと、ジークフリードも微笑み返してくれた。


 ―――お姉様はまた小難しい話をしているのね。ジークフリード様はきっと飽きていらっしゃるんだわ。だってたくさんの人々の中から私を見つけて微笑みかけてくださったもの。


 ロベリアが見るヴァイオレットは、いつも本ばかり読んでいた。

スクロ公爵邸の三階にある自室ではなく、二階の奥まった薄暗い図書室の隣の部屋にいる事が多い。ヴァイオレットがそこに籠りきりになることも珍しくなく、同じ屋敷内にいても姿を見かけないなど日常茶飯事だった。

本ばかり読んでいる姉の婚約者はさぞつまらないだろう。

ダンスパートナーの肩越しに見えるジークフリードは、無表情でヴァイオレットと初老の男性の話に耳を傾けている――振りをしているようだ。

自分ならもっと楽しい話をして差し上げるのに、と踊りながら姉のヴァイオレットを睨んだ。


ヴァイオレットとの会話に苦痛を感じているのは、ロベリアも同じだ。

 いつもは自室か図書室隣の学習室で食事を済ませるヴァイオレットだが、たまに食堂で家族五人が揃うこともある。そんな時は両親も兄も、ヴァイオレットが話す難しい話題に真剣に耳を傾けている。

 行った事すらない外国の話を知ったかぶりように話す姉にうんざりしていた。ヴァイオレットの話に一切の興味がないロベリアはいつもそれを聞き流していた。

 そんな時ロベリアは黙って食事を終わらせ、先に部屋に下がっていた。


「あんな堅苦しい話の何が面白いのかしらね」


 お気に入りの香油を垂らした風呂に早めに入り、侍女たちの手でつま先から髪まで全身に美容オイルを塗られながら、ため息交じりに呟いたのだった。






 デビューから半年が過ぎた頃、ロベリアは父の執務室に呼ばれた。そこには優しい大好きな母もいて、二人でロベリアを待っていた。

 しかしいつもは笑いかけてくれる母が難しい顔をしていることに、ロベリアは「何かあったのかしら?」と首を傾げた。父は母以上に厳しい表情で、両膝に肘を置いて組んだ手に額を押し付けている。二人はロベリアが来たことにすら気付かないようだった。


「お呼びでしょうか、お父様、お母様」


「…ああ、来たか。お前に大事な話がある。そこに座りなさい」


 両親が座るソファとはテーブルを挟んだそれにロベリアが座ると、すかさずメイドが紅茶を出した。ロベリアはそれに砂糖とミルクを入れながら、父の隣に立つ執事を見た。彼の手には大量の冊子が抱えられている。父はそれを指さし、言った。


「ロベリア。これはお前に来た釣書だ。この中から婚約者を決めなさい」


「婚約者、ですか?」


「ええ、そうよ。遅くなってしまってごめんなさいね、ロベリア。

スクワードの縁談やヴァイオレットの結婚準備で忙しくて、貴女の婚約者選びを先延ばしにしてしまって……申し訳なかったわ。

 でも貴女も今年デビューして、一人前の淑女になったのですもの。わたくしとお父様で素敵な殿方を選びました。どの方も由緒ある家のご令息で、人柄も優れていらっしゃる方ばかりよ。きっと貴女を幸せにしてくれるわ」


 兄のスクワードは前の婚約者を事故で亡くしており、最近になってようやく新しい婚約者が決まった。

 姉のヴァイオレットはまだ学園に通っているが数ヶ月後には卒業し、その一年後に結婚式を挙げることが決まっている。二つの慶事が重なったことで両親は忙しく、ロベリアの婚約者探しは後回しにされたままだった。


 母が目配せすると、執事は抱えていた冊子をロベリアの前に置く。ロベリアは一番上にあった一冊を手に取り、革張りの立派な表紙をめくる。中には本人と思われる人物の肖像画と経歴、家族構成などが書かれていた。


「お前の事を忘れていたわけではないのだが、ようやく準備が整った。この中からお前の好きな人を選びなさい。そして幸せになってくれ」


 両親の優しい笑顔を見て、ロベリアは思った。


 ―――本当に好きな方を選んでいいの?…………それなら、わたくしは……


 脳裏によみがえるのは、王太子ジークフリードの姿だった。

 美しい金髪をなびかせ、泉のように透き通った淡い水色の瞳を持つ美貌の王子。ロベリアは幼い頃から彼の事が好きだった。





お読みいただきありがとうございました。

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