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自ら口にした毒リンゴの味 ③

 ゴールデンウィークも折り返しというころ。


「こんにちわー」

「お邪魔します」


 渡瀬とシイナの二人が玄関で扉を開けながら挨拶をしているのが聞こえた。来客がその二人だということをマンションのエントランスから鳴らしたインターホンで知っていた来未は扉の前で待ち構えていた。


「二人ともいらっしゃーい。マユお姉ちゃんは久しぶり!」

「うん。来未ちゃん、久しぶりだねえ」


 そのまま来未に絡みつかれた渡瀬とそれを見ながらどこか羨ましそうな表情をしたシイナがリビングにやってきた。

 今日、二人が来たのは少し前に約束をしたというのもあるが、メインは例のアンケートの取材のお疲れ会と、それに協力して尽力してくれた渡瀬へのお礼を兼ねてのお茶会だった。

 二人の姿をキッチンから確認して、なんて声を掛けようと思っていたら、同じくキッチンにいた母さんが先に、


「二人ともいらっしゃい。今日は少し暑いし、冷たいお茶でいいかな?」


 と、声を掛ける。シイナは「ありがとうございます」と頭を下げているが、前回に引き続き母さんの前では表情が硬いのが気になる。もしかすると中学時代のことを知っている母さんのことを警戒しているのかもしれないが、母さんはそういう触れていいかどうかの見極めは教師生活がそれなりに長いだけあって上手いものだし、きっとすぐに警戒を解くことになるだろう。

 渡瀬はもう慣れたもので、「おばさん、こんにちわ。お茶いただきます」と来未と手を繋いだまま挨拶を返している。そのまま来未に促され、手洗いをしに行き、リビングに三人で腰を下ろした。


「二人ともいらっしゃい」


 そう口にしながら、冷たいお茶を二人の前に出す。


「お兄ちゃん、私のは?」

「来未も欲しいのか? ジュースはダメだぞ。これからお菓子食べるんだからな」

「分かってるよ。じゃあ、牛乳ならいいよね?」

「いいよ。でも、お客さんじゃないんだから、自分で取ってきな」

「はーい」


 来未はいい返事をして、キッチンに取りに行った。渡瀬はそれを見ながら、「それで白崎君。今日は何を作ってくれたの?」と、あえて名前を呼ばないように気遣いながら尋ねてくる。普段からその気遣いをしてほしいのだが、今も気を抜いたりすると普段の呼び方が出そうな気がして冷や冷やしてしまう。


「今日はケーキに挑戦してみた。さいわい、今日は母さんが家にいたから、監督お願いしたし、味も大丈夫だと思うよ」

「へえー、すごいね。なんのケーキ?」

「ベイクドチーズケーキ」

「まじで? なんかすぐにでも食べたくなっちゃった。楽しみだね、椎名さん」


 シイナはその言葉にうんうんと頷いている。そこに牛乳の入ったコップを手に戻ってきて、「私も混ぜるのとか手伝ったんだよー」とどこか自慢げに話に入ってくる。


「そうだな。来未もいっぱい手伝ってくれて、ありがとな」


 来未の頭を撫でながら褒めると、嬉しそうに目を細める。来未は同級生の目がないとまだまだ甘えんぼうだ。


「それですぐに食べるか? 食べるならコーヒーれて、ケーキを切り分けるんだけど」

「どうする? 椎名さん」


 渡瀬の問いかけにシイナが答えるより先に、来未が「私は今すぐにでも食べたーい!」と口にするので、シイナと渡瀬は来未の楽しそうな表情を見て、顔を見合わせて笑い合う。そして、シイナが「じゃあ、来未ちゃんも楽しみにしてるみたいだし、すぐに食べようか?」と柔らかな笑顔を浮かべた。

 コーヒーメーカーをセットして、リビングに顔を向けると、渡瀬が来未の長い髪の毛をクシでかしながら、シイナを入れて三人で楽しそうに話している。話の中心は来未で、「ほとんど毎日、お兄ちゃんが髪の毛やってくれるんだよ」と自慢げに話しながら、自撮りや俺が撮ってあげた写真を二人に見せているようだった。


「白崎君ってさ、私よりこういうのもしかして上手い?」


 渡瀬の恨めしそうな視線が一瞬こちらに向き、すぐに来未の持っているスマホの画面に視線を戻す。他にも来未はいろんな写真を二人に見せているようで、渡瀬とシイナは時々感嘆の声をあげている。

 そんな三人を横目に、ズボンのポケットから自分のスマホを取り出すと、佑二から、この休みの間に暇があったら、自主練付き合ってくれとメッセージが届いていて、それにオーケーと返事をした。俺は今は部活には入っていないが、朝の走り込みや夜寝る前にしている体幹を鍛えるためのストレッチなどの自主トレは継続しているので、体力的には問題もないはずだ。そのままスマホでニュースを眺めているとコーヒーが出来たので、スマホをポケットにしまい、来未を除く四人分のカップにコーヒーをそそいでいく。それから、冷蔵庫からチーズケーキを取り出すと、それにつられて来未とシイナ、渡瀬がキッチンに顔を出し、期待を隠し切れないという表情を浮かべる。


「おいしそう」

「これ手作りって、マジ?」


 素直な反応のシイナと、驚きの声をあげる渡瀬。そして、その二人を見つめながら俺よりも胸を張って誇らしげな来未に、そんな全てを無言でニヤニヤと楽しそうに眺める母さん。俺は迂闊うかつにリアクションを取ることすらできず、できるだけ表情を変えないように意識しながらケーキを六等分にして小皿に取り分けた。

 そして、母さんだけをキッチンに残し、四人でリビングのテーブルを囲んだ。来未はいつもの記念撮影を終えると、「いただきます」と手を合わせる。その来未の言葉を皮切りにチーズケーキにそれぞれが口をつけ始めた。しかし、俺は自分の作ったものに対してどういう反応をするのか気になって、すぐにはケーキに手を付けれなかった。


「わあ、おいしい! さすがお兄ちゃん!」

「ほんとにおいしい。柔らかさといい、しっとり感といい、これ、お金取れるレベルじゃない?」


 来未と渡瀬は口々に感想を口にする。シイナに目をやると、明らかに表情を緩ませて嬉しそうにしているので、感想は聞かなくても分かる。それを見て安心して、自分でもひとくち食べてみると、たしかにいい出来で今度はボトム生地のあるタイプやアレンジを調べて再挑戦してみようかなと思った。

 あっという間に食べ終え、コーヒーを飲みながら余韻を楽しんでいると、ポケットの中でスマホが数度振動する。同じタイミングでテーブルの上に置かれた渡瀬のスマホも通知音が鳴り、シイナもすっと自分の服のポケットに目を落とした。


「なんだろ?」


 渡瀬がスマホを手にした瞬間、再度、自分のスマホが振動して、渡瀬のスマホが通知音を鳴らす。これは何かあると、自分もポケットからスマホを取り出す。


「ええっ! まじ? どういうこと?」


 渡瀬が驚きの声を上げるので、自分も急いでスマホを確認すると、クラスで作ったグループにメッセージが山のように書き込まれていた。さらに個別に何件か届いていて、内容はどれも同じだった。


 ウェブの特集見た。

 姫と王子、まじでやばすぎ。

 姫のかわいさはマジ天使。


 だいたいがこの三つだった。その盛り上がりの原因の貼られていたURLを開くと、ウェブ版の学校新聞の特設ページで、例のアンケートの取材を元にした記事が掲載されていた。

 特集記事のバナーとトップは俺とシイナのツーショット写真が使われていた。そして、チラッと他のクラスの記事も流し読みしたが、明らかに文量と写真の量と質が違っていた。

 この謎の特別扱いに、めまいを起こしそうだった――。

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