アイザックの街探索②
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「はい……“黄金の旋風”にこの見取り図を見せて、これに類似した場所の探索に協力してもらいます」
僕がそう告げると、ハンナさんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ライラ様は右の瞳でジッと僕を見つめる。
「アデル様……本当に、よろしいのですか?」
そして、ソフィア様は気遣うように僕に尋ねた。
昨日この街に到着した時の一件を考えれば、ソフィア様が心配するのも頷けるけど。
「ええ……とはいえ、僕達からあの連中と話をしようとは思わないので、申し訳ないのですがソフィア様からアイツ等に伝えてもらえますでしょうか……」
「そ、それは構いませんが……」
「では、お願いします。恐らく、大通りの宿屋を利用している筈ですので、今からみんなで向かいましょう」
僕がそう伝えると、三人が頷く。
とはいえ、ライラ様とハンナさんは渋々といった様子だけど。
そして、僕達はその宿屋へと足を運ぶ。
その宿屋は、“黄金の旋風”がこの街では定宿としているところで、僕がまだパーティーにいた頃は朝になるといつもアイツ等を起こしに行ったのが懐かしい。
「あ、あの……アデル様もその宿屋を利用されていたのですか?」
「あはは、僕が利用していたのはもっと安い宿ですね」
おずおずと尋ねるライラ様に、僕は苦笑しながら答えた。
あの時は働きが足らないからといって、僕だけあの宿を利用させてもらえなかったんだよな……。
「そうですか……これでますますあの連中を断罪する材料が増えましたね」
「そうですね、お嬢様」
あ、二人が察したみたいだ。
とりあえず、『天使への階段』の場所が見つかるまでは、大人しくしましょうね?
で、大通りまで僕達は来た訳だけど、あれ程賑わっていたこの通りは、今では閑散としていて人の姿も見られない。
いよいよこの街も人がいなくなったかな……。
少し寂しさを覚えながら、大通りを進むと。
「あ、ここです」
僕達は目的の宿屋にたどり着いた。
中に入ると……とりあえず、宿屋の主人が仏頂面で座っていた。
「すいません……ここに“黄金の旋風”が泊っていると思うんですが……」
主人に声を掛けると、ギロリ、とこちらを睨んだ。
そして、クイ、と顎で階段を示す。
「……どうやら上にいるみたいですね」
僕が肩を竦めながらそう言うと。
「あ、で、でしたら、私が呼びに行きましょうか……?」
ソフィア様が少し遠慮がちに提案する。
……正直、連中とは顔も合わせたくないけど、アイツ等に協力させると言い出したのは僕だし、ソフィア様一人に行かせる訳にはいかないだろう。
「……僕も一緒に行きますよ」
「よろしいのですか?」
「は、はい……」
すると、ソフィア様が嬉しそうに微笑み、僕にズイ、と顔を近づけた。
昨夜のこともあるから、ちょ、ちょっと遠慮したい……。
「む……私も一緒に……「お嬢様は重量の関係で無理ですよ」……むううううううううう!」
ライラ様が僕達と一緒に行くと提案したが、ハンナさんに指摘されて頬を膨らませてしまった……。
ま、まあ、わざわざアイツ等を呼びに行くために階段を補強しても仕方ないしね……。
ということで。
「では、行きましょうか」
「はい!」
僕はソフィア様と一緒に階段を上る。
まあ、アイツ等はどうせいつも通り一番奥の部屋だろうし。
そう思って足を進めると。
「……………………あ……ああ……!」
ア、アイツ等あああああああああ!
「ソ、ソフィア様! 一旦下に行きましょう!」
「? どうしてですか?」
奥の部屋から漏れてきた喘ぎ声に、僕は慌ててソフィア様にそう提案するけど、彼女はキョトンとしながら首を傾げた。
「え、ええと……その、ですね……」
「? ですが、どうもあの方達の誰かが苦しそうな声をされてますが……」
そう言って、ソフィア様が扉に手を掛けた!?
——ギイ。
「…………………………え?」
「「「「…………………………え!?」」」」
ソフィア様が扉を開けてしまうと、案の定、中ではエリアルがレジーナ達とお楽しみの最中だった。
そして、それを見たソフィア様の身体が固まってしまった。
……あーあ。
◇
「……ということで、“黄金の旋風”の皆さんにも協力していただきたいのです」
顔を真っ赤にしたソフィア様が、気まずそうにする“黄金の旋風”の連中に説明する。
僕はといえば、そんな連中を見るのも嫌で、ずっと顔を背けていた。
だけど……。
「…………………………」
……カルラは、あの中には加わっていなかった。
恋人同士だから、エリアルにとってカルラは特別って意味なのかな……って、そんなの僕には関係ないだろ。
もう……恋人でも、幼馴染でもないんだから。
「……分かりました。報酬も受け取っていることですし、俺達は[聖女]様のお力になります」
エリアルは快諾し、微笑む。
だけど、ソフィア様はそんなエリアルを見ながら乾いた笑顔を見せた。
まあ、さっきの行為もあるからなあ。
むしろ、あんなことがあったのに平気な顔ができるコイツの神経を疑う。
「では、今から『天国への階段』を見つけるため、この街の探索を行いますので、一階へ……」
そう言って、ソフィア様が席を立つと。
「……ところで、その『天国への階段』を見つけたら、[聖女]様はどうされるのですか?」
「私ですか?」
突然、エリアルがそんなことを尋ねた。
ソフィア様はしばらく考える仕草を見せると、何故か僕をチラリ、と見た。
そして。
「そうですね……私は、私の崇める神の元へと行こうと考えております」
そっと胸に手を当て、ソフィア様は瞳を閉じた。
「で、でしたら! その時はこの俺もあなたの傍に……!」
「「「「「はあ!?」」」」」
何をとち狂ったのか、エリアルがとんでもないことを宣った。
お蔭でカルラを含めた他の連中ばかりか、この僕まで叫んでしまったじゃないか。
「ふふ……申し訳ありません。神に仕える身として、それはお受けしかねます」
「そ、そうですか……」
そう言うと、ソフィア様は深々と頭を下げた。
一方のエリアルは、非常に残念そうな表情を浮かべる。いや、そんなの当然だろ……。
僕達は今度こそライラ様とハンナさんが待つ一階へと降りる。
その時。
「……あなたのことですよ?」
「え……?」
僕の横をすり抜け様に、ソフィア様が僕の耳元でそっとささやいた。
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