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機械仕掛けの殲滅少女  作者: サンボン
第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット
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私は、否定する

ご覧いただき、ありがとうございます!

「……あれ?」


 僕は目を開けると、見慣れない天井がそこにあった。


 というか……僕は死んだ筈。

 だとすると、ここは元居た世界とは別の……天国か地獄、ってことかな……。


 むくり、と身体を起こし、辺りを見回す。


 うん……ここは天国だな。

 でなければこんな貴族が住むような部屋に、僕がいる筈がない。


 ベッドから起き上がり、僕は部屋の扉へと向かう。


 すると。


 ——ガチャ。


 突然、扉が開く。


 そこには。


「あ、あれ? ハンナさん!?」


 どうしてハンナさんが!?

 ここはいわゆるあの世って場所の筈……ひょっとして……って!?


 突然、僕はハンナさんに抱き締められた。


「あ、あの……」

「よくぞ……よくぞお目覚めになられました……!」

「は、はあ……」


 僕は状況が理解できず、気の抜けた返事をした。


「そ、そうだ! こうしてはいられません!」


 そう言うと、ハンナさんが勢いよく部屋を飛び出した。


 い、一体何なんだ……。


 すると今度は、ガチャガチャ、と金属音が近づいてきた。


 ——バアン!


 勢いよく扉が開け……って、吹き飛んだ!?


 そして、そこには……。


「あ……」

「あ……あああ……!」


 僕の目の前に、少女……ライラ=カートレットがいた。

 その右の瞳に、涙を浮かべながら。


「あああああああああああ……!」


 そして、その場に崩れ落ち、彼女は大声を上げて泣き叫んだ。


「あ、あの、これは……」


 僕は同じく涙ぐんでいるハンナさんに尋ねる。


「グス……アデル様はお嬢様をお救いになられた後、一か月もの間お眠りになられていたのです……」

「ええ!?」


 一か月寝ていたっていうのも驚きだけど、それよりも……!


「僕、死んでないのか……?」


 僕は自分の両手を見つめ、握ったり開いたりしてみる。


「は、はい……あの後、お倒れになったアデル様にポーションや回復魔法、ありとあらゆるものを使った結果、何とか一命をとりとめました……ただ、このまま一生お目覚めにならないのかと、お嬢様も私も、それは心配した次第です……」

「そ、そうだったんですか……」


 何だ……結局、僕は死に損ねたんだな……。


「はは……何だか締まらない、ですね……」


 僕は自嘲気味に笑うと。


「そんな……こと……ない……」


 少女が見上げながら僕に向かって呟いた。


「はは……それより、無事に動いているようですね」


 まあ、僕の[技術者(エンジニア)]で作ったものが、失敗するなんてことは絶対にないんだけど……それでも、命を懸けて作った訳だから、ね。


 じゃあ、僕の役割はここまで、かな。


「うん……それじゃ、伯爵様の想いが成就するよう、祈っています」


 そう言って、僕はここから立ち去ろうとして。


「ま、待って……!」


 少女に服をつかまれてしまった。


「ま、まだ何のお礼もしていない! 何も……お返ししていない!」


 表情は一切変わらないものの、少女の右の瞳は懇願するような色を見せた。


「あ、あはは……別にお礼なんていいですよ。だって……」


 だって……僕は死ぬつもりで、あなたのその身体を作ったんだから。


「……はは、とにかくお礼とかいりませんから。それじゃ、今度こそ……って」


 やっぱり彼女は僕の服を離してはくれなかった。

 しかも、僕の作った鋼の腕は、僕ごときの力で振りほどけるものでもないし……。


「そうですね。お礼についてはともかく、一か月眠られたままだったんです。まずはお食事をご用意いたしますね」


 そう言ってニコリ、と微笑むとハンナさんが部屋を出て行った。

 ま、まあ、確かにお腹は減っているみたいだ……。


 僕はポリポリと頭を掻きながら、少女の様子を(うかが)うと……うう、ジッと僕を見てる。


「あ、あはは……それじゃ、ご馳走になりますね……」

「っ! は、はい!」


 僕がそう言うと、少女の表情は一切変わらないけど、その声と瞳はとても嬉しそうだった。


 ◇


「な、何だこれは……!」


 僕はテーブルに並べられた料理の数々に驚愕の声を上げた。


 い、いや、こんな量の料理、一体誰が食べるんだ!?


「ふふ……存分にお召し上がりください」


 そう言って、椅子を下げて僕に座るように促す。

 僕は恐縮しながら椅子に腰かけると。


「足りなければ、すぐに言ってください!」


 無表情のまま、少女が瞳をキラキラさせてそんなことを言うけど……うん、むしろ余るから。


「は、はは……いただきます……」


 僕は苦笑しつつも、その料理の数々に舌鼓を打った。

 いや、ハッキリ言って味は最高の一言だった。

 こんな美味い料理、生まれて初めて食べたよ……。


「アデル様」


 すると少女が、居住まいを正して僕に声を掛けた。


「アデル様のお蔭で、私はこのように誰にも負けない翼を得ることができました。まずはお礼を述べさせてください」

「あ、い、いえ……そんな……」


 真正面から向けられた感謝の言葉に、僕は思わず恐縮する。


「その上で……実はアデル様にお願いしたいことがございます」

「お願い……?」


 お願いって……何だ?

 もうこれ以上、僕にできることなんてないんだけど……。


「その……私が復讐を果たすその時まで、アデル様に私の傍にいて欲しいのです……」

「はあ!?」


 ど、どうして……?

 僕なんかが傍にいても、邪魔にしかならないぞ!?


「む、無理ですよ! 僕なんかが伯爵様の傍にいたところで、何の役にも……!」

「そんなことはありません! アデル様が傍にいてくだされば、私の想いは必ず成就します! ですから!」


 そ、そう言われても……。


「や、やっぱり無理ですよ……だって、僕は“役立たず”ですから……」


 そう言って僕は視線を落とす。

 だって、僕はカルラにそうハッキリと言われたんだから。


 だけど。


「そんなことはあり得ません」


 彼女は俺の瞳を見つめ、そう言い切った。


「はは……自分のことは自分が分かってますよ。僕は“役立たず”なんです。伯爵様のそのお身体だって、僕のちっぽけな命の全てを懸けて、やっとできた代物な訳ですし……」


 そう言って僕は、彼女の視線を避けるように顔を背けた。

 これ以上、彼女の瞳が耐えられそうにないから。


 すると彼女は立ち上がり、僕の傍にやって来て。


「いいえ……あなたは素晴らしいお方です。あなたは私に希望をくれた。生きる勇気をくれた。あのまま……ただ物言わぬ人形のように生き続けるしかなかったこの私に」


 僕の顔にその鋼の手を添え、そうささやいた。


「だ、だけど! 僕はハッキリと言われた! 『ガラクタや“役立たず”なんていらない』って! だから……だから僕は……!」


 僕は彼女の肩をつかみ、そう叫ぶ。

 もう……僕は、夢を見ない。希望もない。


 あるのは……使い道のない、この“役立たず”の命だけなんだ……。


 その命だって、結局は使い切ることができなかったんだ。

 本当に……僕は“役立たず”だ。


「なら……なら! この私が否定します! あなたは“役立たず”なんかじゃない! あなたは……あなたは“役立たず”ではないと、この“ライラ=カートレット”が否定します!」


 彼女は表情を変えず、ただ訴える。

 その言葉と……その残された右の瞳で。


「なんで……」


 僕は、ポツリ、と呟く。

 その言葉に、色んな意味を込めて。


「……決まっています。それは、あなただから。その命を賭して、この私の魂を救ってくださった、あなただから」

「っ!」


 僕は……僕は……!


「僕は……“役立たず”じゃ、ないですか……?」

「はい」

「僕は……生きていても、いい……ですか……?」

「はい……生きてください。私の、傍で」

「僕は……僕は……!」


 僕は……そのまま、膝を落とした。


 そして。


「あ、ああ……あああああああああああ!」


 そのまま、泣き崩れた。


「あなたは……全てを失った私の……“全て”、です……」

「うああああああああああ……!」


 彼女の胸に縋りつき、張り裂ける程の声で。


 僕は……今日、生きてもいいんだと知った。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回は明日の夜更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 別の小説を探している時、偶然見つけて、軽い気持ちで読み始めましたが非常に面白いです。 ありそうでなかったんですよねぇ PT追放とボロボロ少女の復讐が一緒になった物語は。 まだ、読み始めたば…
2021/03/27 20:37 退会済み
管理
[一言] 彼女は幼なじみよりずっと上手です。幼なじみが更なる関係に苛立ち、彼女の決断を後悔するのを見たいと思います。それはいいですね 。もっと読むことを願っています。ありがとう仕事をありがとう。
[一言] 1ヶ月寝たきりだったのに衰弱もせず筋力の低下もしない上に普通に食事が出来るの?
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