表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/146

天国への階段

ご覧いただき、ありがとうございます!

■???視点


「お待ちしておりました」

「うむ」


 国王陛下の執務室へとやって来ると、近衛兵が身を正して敬礼した。


 そして中へと通されると、アルグレア王国が誇る二人の公爵が既に揃い踏みしていた。


「いやはや、わざわざ我々を呼んで陛下はどのようなご用件なのでしょうか……」


 苦笑しながら肩を竦めるのは“グロウスター”卿。

 王国西海岸にある港湾都市“ブラムス”を保有し、外交と貿易を一手に担う若き公爵だ。


「…………………………」


 一方、そんなグロウスター卿の言葉を無視し、(いかめ)しい面構えで腕組みをしているのが陛下の叔父に当たる“アーガイル”卿。

 かつては王国最強と謳われた程の軍事の天才だ。


「……アーガイル閣下、グロウスター閣下、ご足労いただき、ありがとうございます」


 私は二人の前に立つと、恭しく一礼した。


「! やあ、やっと来ましたね!」

「……………………………」


 微笑むグロウスター卿に対し、ジロリ、と一睨みするアーガイル卿。


 だが、二人の雰囲気が言外に告げている。

 『わざわざ呼んだ用件はなんだ』、と。


「……間もなく陛下が参られます。それまで、今しばらくお待ち下さいますよう……」

「ああそう」

「……………………………」


 私がそう告げると、二人は興味を失くしたかのように私から視線を外した。


 すると。


「待たせたな……」

「「「国王陛下!」」」


 私達は一斉にひざまずき、こうべを垂れた。


「うむ……(おもて)を上げよ」

「「「ハッ!」」」


 顔を上げると、陛下はアーガイル卿とグロウスター卿に席に座るよう促す。

 陛下から向かって右側の席にはアーガイル卿が、左側の席にはグロウスター卿が着いた。


 そして私はといえば、陛下の右後ろに控える。


「今日集まってもらったのは他でもない……これ」

「ハッ! ここからはこの私が説明いたします」


 私はス、と前に出て一礼した。


「まず、あの(・・)カートレット伯爵の一人娘であるライラ=カートレットですが、どういう訳かその腕と脚が健在でした」

「「っ!?」」


 私の言葉に、二人の公爵は驚きを隠せない。


「……どういうことだ? 手脚を失い、もはや木偶人形に成り下がっていたのではないのか?」


 たまりかねたアーガイル卿が尋ねた。


「……現在調査中ではありますが、報告では間違いなく腕と脚はあった、と。ただし、甲冑を付けているため、どのような状態なのかは目視では確認できないようです」

「むう……」


 説明を聞いたアーガイル卿が唸る。


「イヤイヤイヤイヤ、切り落とされた人間の手脚が復活するとかあり得ないでしょう」


 全く信じていないのか、グロウスター卿は即座に否定した。

 もちろん、私も否定できるならしたい。


 だが……事実なのだ。


「……次です。ゴドウィン卿の軍勢がライラ=カートレット一味とモーカムの街とアイザックの街を結ぶ街道にある湿地帯で交戦。五千の軍勢は壊滅し、ゴドウィン卿の死亡が確認されました」

「な、なんだとおっ!?」


 大声で叫びながら、アーガイル卿が乱暴に立ち上がった。


「そんな馬鹿なことがあるかっ! ゴドウィンは王国の軍務大臣だぞ!? この王国内で、(わし)以外の者から遅れを取ることなど、ある訳がないであろう!」

「アーガイル卿……ですが、事実なのです」

「く……っ!」


 アーガイル卿は悔しそうに歯噛みすると、腕組みしながらドカッと椅子に座る。


「それで、五千の軍勢を相手にしたんだから、ライラ=カートレットもそれなりの兵士を用意したのかな?」


 グロウスター卿は少しでも辻褄(つじつま)を合わせようと尋ねる。


 だが。


「……確認しましたが、アイザックの街から出兵された事実はありませんでした」

「ええ!? じゃ、じゃあ一体、その五千の軍勢は誰が、どうやって殲滅したっていうんだ!?」


 グロウスター卿が目を見開いて問い質すが、そんなもの、この私こそが知りたい。

 何故、そんなことができたのかを。


「……いずれにせよ、今回の一件でカートレット伯爵家の襲撃には王国が関与していることが、ライラ=カートレットに認識されました。もしライラ=カートレットがアレ(・・)について承知している場合、すぐに公表されてしまうおそれもあります……」


 私は説明を終えると、深く息を吐いた。


「ぬうううう! そもそもこのような事態になったのは、一体誰の責任なのだ!」

「そうですねえ、さすがにこの失態は見過ごせません」


 激昂するアーガイル卿と、薄く開いた目から冷たい瞳を覗かせるグロウスター卿。


「……今回の件については、この私が陛下に進言してゴドウィン卿を任に当たらせました……」

「ほう……つまり、貴様の責任ということか」


 アーガイル卿が私を怒りに満ちた瞳で睨みつける。

 だが、私はそうされてもおかしくない程の失態を犯したのだ。


 その時。


「エドガー陛下。それで、アレ(・・)ついてどうするのですか?」

「“ソフィア”殿……今、王国としても手を打っているところだ」


 扉を開けて、法衣に身を包んだ一人の年若い女性がこの部屋に入室してきた。

 その後ろには、飄々(ひょうひょう)とした男……王国の暗殺者ギルドの長、“ジャック”がニヤニヤしながら控えている。


「陛下……こちらの女性は……?」

「うむ、お主達も知っておろう。彼女こそ、ファルマ聖法国の誇る[聖女(セイント)]、“ソフィア=アルベルティーニ”殿だ」

「初めまして、“ソフィア”と申します」


 [聖女(セイント)]のソフィア殿が(うやうや)しく一礼すると、私達三人も思わず頭を下げた。


「そ、それで、ソフィア殿がこちらにいらっしゃる理由は……?」


 グロウスター卿がおずおずと陛下に尋ねる。


「はい。ご神託を受け、このアルグレア王国にあるとされる『天国への階段』を、ファルマ聖法国としましても確認をいたしたく……」

「「っ!? な、何故それを……?」」


 ソフィア殿の言葉に、二人の公爵が狼狽(うろた)えた。

 もちろん、この私も内心では狼狽えている。


「いずれにせよ、一刻も早くアイザックの奥深くにある『天国への階段』を手中に収めねばならん。ライラ=カートレット排除の役目、“宰相”であるお主に任せる」


 国王陛下のご指名を受け、私の心が一気に高鳴る。


 そして。


「ハッ! この“ハリー=カベンディッシュ”、必ずや、ライラ=カートレットを排除し、『天国の階段』を奪還してみせましょう。既にライラ=カートレット宛に書簡を送るなど、そのための準備も着々と進めております」

「うむ。抜かるなよ」


 満足げに頷く陛下に、私は(こうべ)を垂れる


 私の親愛なる友(・・・・・)、ジェームスを殺した罪、その身をもって償わせてやる……!

お読みいただき、ありがとうございました!


次回からいよいよ第三章スタート!

今度はハンナさんがメインとなります!

更新は明日の夜!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 仇のトップが国王ならそもそも先代カートレット伯爵に「やばいものがアイザックの街にあるから、王家で管理させてくれ」とか言って譲ってもらって代わりに褒賞でも与えれば済んだ話では? まあ先代伯爵…
[一言] 親愛なる友ジェームズを殺した罪ねぇ、そもそも国王含めたアホどもがカートレット家を潰そうとしなければあなたの親愛なる友(笑)とやらも死ななかったのにねぇ。ライラにそんなことを言ったら私の両親を…
[一言] 天国の階段・・・ねぇ? 天国の階段・・・天国に向かう道・・・死者の道って事だよな? 戦略級破壊兵器か邪神でも封印されてるのか? でもって、お嬢様と主人公の二人が揃う事で制御なり取り込む事が出…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ