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侍女の生きる意味②

ご覧いただき、ありがとうございます!

■ハンナ視点


 それから私は、ジャック……いえ、師匠に徹底的に鍛えられた。


 しかも都合が良いことに、私の職業(ジョブ)適性は[暗殺者(アサシン)]だった。

 それが分かった時の師匠ときたら。


「クハハハハ! オマエ、天職じゃねえか!」

「……笑い過ぎです、師匠」


 私はジト目で睨んでも、師匠は一向に笑うのを止めなかった。

 その時の仕方ないので私は深い溜息を吐いた後、また訓練に戻ったのを覚えている。


 そして……[暗殺者(アサシン)]としてそれなりの実力が身に着いた私は、十五歳になった今、ある伯爵邸に忍び込んでいる。


 幼かったあの日、この私を売ったかつて仲間だった孤児のアイツを殺すために。


 私は使用人の住む部屋をくまなく調べると……いた。

 アイツは今、呑気にベッドで眠っていた。


 今から、この私に殺されるとも知らないで。


 私はベッドの(かたわ)らに立つと。


「……起きなさい」


 ナイフをアイツの首元に当てながら、乱暴に起こす。


「んう……な、何……っと、キャ「静かにしろ。騒ぐと殺す」」


 アイツの口を押さえ、低い声でささやくと、アイツはコクコク、と頷いた。


「ふう……さて、私が誰だか分かりますか?」

「……っ! い、いえ……」


 一瞬間を置いた後、ハッと息を飲んでからかぶりを振った。

 うふふ、どうやら気づいたようですね。


「そう……私は今日まで、一度たりとも忘れたことはなかったんですが」


 私はわざとらしく肩を竦める。

 すると……アイツはジリ、ジリ、と扉に向け少しずつ身体をずらしていた。


 ……そんなの、何の意味もないのに。


「うふふ」


 私はニタア、と口の端を吊り上げると、おもむろにナイフを投げた。


 ——トス。


「あああああああああああ!?」

「静かになさい」

「ぐえっ……!?」


 投げたナイフがアイツの太ももに刺さり、痛みでアイツが叫ぶので、私はアイツの鳩尾(みぞおち)をつま先で蹴り上げ、声を出せないように無理やり息を止めた。


「うふふ……私はあんなに酷い目に遭ったっていうのに、オマエは幸せそうね? でも、安心して? 私を攫ったあの連中と同じように、オマエも地獄に逝かせてあげるから」

「い、いやあああ……」

「バイバイ♪」


 ——サク。


 私はアイツの頸動脈をナイフで()き切ると、おびただしい鮮血が天井目がけて吹き出した。


「うふふ……綺麗……」


 私はその様子をうっとりしながら眺めていた。


 その時。


「“ケイト”……一緒に寝よ?」


 目をこすりながら、小さな女の子が部屋の中に入ってきた。


「っ!?」

 

 我に返った私は一瞬で女の子の背後に回ると、その小さな身体を抱え込み、口元を押さえた。


「……静かにしなさい」

「……(コクコク)」


 私の言葉に、女の子は頷く。

 安堵の溜息を吐くと、私は女の子の口元を押さえていた手をそっと離した。


 すると。


「ねえねえ、ケイトはどうしたの?」

「…………………………」


 真っ赤な血に染まりながら横たわるアイツを指差しながら、女の子が無邪気に尋ねた。


「……彼女は死にました……いえ、私が殺しました」

「……そっかー」


 女の子は一言そう呟くと、こちらを向いてポスン、と私の胸に顔をうずめた。


「……じゃあ、ケイトの代わりにあなたが私を抱き締めて。私が眠るまで、ね?」

「ちょ、ちょっと!?」


 女の子はギュ、と私の身体を抱き締めた。

 だけど……女の子は、少し震えていた。


 ……本当に、聡明な子どもですね。


 こうやって私に甘える姿勢を見せることで、敵意がないことを示すと共に、心情的に殺されないように訴えかけているのだろう。


「……うふふ、ええ……あなたが眠るまで、こうやって抱き締めてあげますよ」


 私は女の子が眠りにつくまで、背中をそっと撫でていた。


 それから一刻程過ぎると、女の子が寝息をたて始めた。


「うふふ……可愛いですね……」


 幸せそうな表情で眠る女の子の顔を眺めながら、思わず顔がほころんだ。


 だけど。


「そこまでだ」

「っ!?」


 突然扉が開き、騎士達数人が部屋の中になだれ込む。

 そして、その後ろから恐らくこの館の主人であろうカートレット伯爵が入ってきた。


 伯爵はチラリ、とアイツの遺体を見やった後、私の顔を見据えた。


「……私の娘を解放してもらおう。そうすれば、命は助けてやる」

「……嫌だ、と言ったら?」


 私は不本意ながら、眠る女の子の首筋にナイフを当てる。

 だけど……これでは[暗殺者(アサシン)]失格ですね……。


 そんな自虐めいたことを考えながら、私は女の子を見て口元を緩めた。


「目的は……何かね?」

「目的? それなら達成しました」


 そう言うと、私はアイツを見やった。


「そうか……君の目的は、ケイトか……なら、なおさらここで娘を解放してくれたら、君の身柄の安全は保障しよう。どうだ?」


 両手を広げ、カートレット伯爵はそう促す。


 私も、この女の子を手に掛けようとは思っていない。

 それにアイツを殺したことで、私は復讐の全てを果たした。


 苦痛しかなかった十五年。

 もう……思い残すことはない。


 私はナイフをス、と女の子から下ろすと。


「分かりま……「ダメよ」」


 女の子がパチリ、とそのつぶらな瞳を開き、私の言葉を遮った。


「お父様があなたを見逃すなんて、そんなの分からないじゃない。だったら、あなたが安全に逃げられるところまで、私を連れて行ってちょうだい」


 私は女の子の言葉に、思わず目を見開いた。

 このままいけば、この女の子は安全に解放されるし、何の問題もない筈。


 なのに……。


「……どうして、そんなことを言うのですか? 放っておけば、あなたは無事なんですよ?」

「だって、あなたは優しいじゃない。ずっと、私の背中を優しく撫でてくれたじゃない」

「あ……」


 この女の子は、ずっと起きていたのか……。


「それに、あなたの目……すごく、悲しそうだった……」

「…………………………」


 うふふ……私の負け、ですね……。


「……この子は解放します」

「ど、どうして!?」

「うふふ……だって、私はあなたを好きになってしまったんですから……」


 私は女の子を立ち上がらせると、その背中をそっと押した。


「じゃあね」


 そして、私はナイフを自分の胸に……っ!?


「な、何をしているんですか!?」


 女の子が突然私の身体に抱きつき、慌ててナイフを放り投げた。

 あ、危うく女の子を刺してしまうところだった……。


「それは私の言葉よ! 死んじゃったらダメじゃない!」

「で、ですが! 私は……私は目的は全て果たしました……もう、ここで終わりたいんです……」

「ダメ! そんなの絶対に許さない!」


 女の子は私の身体に必死でしがみつく。

 私を、死なせまいとして。


 すると。


「……君が殺してしまったせいで、うちの使用人に一人空きができてしまって困るのだが……どうかね、うちの屋敷で働いてみないか?」


 伯爵から、まさかの提案を受け、私はますます困惑する。


「ど、どうして!? 私はこの屋敷に忍び込んだ[暗殺者(アサシン)]なのですよ!? それこそ、速やかに排除すべき存在です!」

「だが……どうやらうちの娘は君に懐いて離れそうもないようだ。それに、君の目的がケイトでしかないのなら、我々に危害が加わる訳でもないしな」


 そう言うと、伯爵が苦笑しながら肩を竦めた。


「お父様! 素晴らしいご提案です! ねえあなた、ぜひそうしなさい!」


 女の子が期待に満ちた瞳で私を見つめる。


 はあ……全く、どうしてこんなことになったんでしょうか……。


「……今すぐに、とは参りません。とにかく、少しお時間をください……」


 そう告げると、女の子はぱああ、と笑顔になった。


「ええ! 待っているわ! だから早くお願いね!」

「うふふ……ええ」


 私は女の子に頷き、女の子と伯爵以下全員に玄関まで見送られた。


 うふふ、[暗殺者(アサシン)]の私が大手を振って正面から帰るだなんて……皮肉もいいところね……。


 私はすぐに王都の暗殺者ギルドに顔を出し、師匠に脱退の意志を告げた。


「クハハ! お前の人生だ、好きに生きろや」


 師匠はいつもの調子で楽しそうに笑いながら快諾してくれた。

 ……少なからず制裁を受けると思っていたのですが……。


 その後、私は大急ぎでアイザックの街の、カートレット伯爵邸を目指した。


 そして。


「待ってたわ! ……ええと」

「うふふ……私のことは“ハンナ”とお呼びくださいませ。お嬢様」


 私は生涯仕えることとなるライラお嬢様に、笑顔でカーテシーをした。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回はこの後更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一刻って2時間寝付けなかったんかーい。その間に色々話せそうなのでちょっと不自然に感じました。 [一言] ハンナさんわりと一息で復讐するあた、若干優しさを感じました。
[良い点] ハンナさんについては、殆ど予想通りでしたので、それ程苦しくは無いです。 あぁ、苦しいなら読まなければ良いのにですね。
[一言] 攫ったやつらはやったの?
2021/04/01 19:45 退会済み
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