進軍、開始
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■ジェームズ=ゴドウィン視点
次の日の朝、執事が五人の冒険者を応接室に連れてきた。
ほう……これがジャックの言っていた……。
「やあ、よく来たね」
「あ、は、はい!」
私は社交辞令の笑顔を見せると、唯一いる男の冒険者が立ち上がって深々と頭を下げた。
「ハハハ、もっとくつろいでくれていい。ところで、君達はアイザックの冒険者、ということでいいのかな?」
「はい! 俺達はアイザック一の冒険者パーティーで、“黄金の旋風”といいます!」
「ほう、アイザック一とはすごいね」
ふむ……やはりこの連中で間違いないようだ。
「君達はカートレット卿と一緒にこのモーカムの街に来たと聞いているが……」
「はい……護衛の依頼を受けまして……」
すると、男が言い淀んだ。
……少し探りを入れてみるか。
「普段からカートレット卿と懇意にしているのではないのかい?」
「そ、そんなことありません! むしろ、サッサとこんなクエスト止めたいくらいです!」
後ろから女の一人が声を荒げた。
「ええと、君は?」
「はい! レジーナといいます!」
うむ……その様子からも、カートレット卿にかなり敵意を見せているな。
「……だったら、カートレット卿の依頼をやめて、代わりに私の依頼を受けないか? もちろん報酬はカートレット卿の倍……いや、三倍出そう」
「「「「さ、三倍!?」」」」
一人を除き、冒険者の面々が色めき立つ。
これは、意外と簡単に釣れそうだな。
「ちょっとエリアル! 勝手にクエストを止めたら信用なくすことになるわよ!」
「だ、だけど三倍だぞ! 三倍といったら金貨三百枚だ! これを見過ごす話はないだろう!」
「そうよ! あんな連中に従うのなんか、もうゴメンなの!」
他の二人も、この男女の冒険者の意見に賛成のようで、首を縦に振り、唯一反対する剣士の冒険者は、こめかみを押さえてかぶりを振った。だが、この彼女もこれ以上は反対しないようだ。
「で、どうする?」
「ぜ、ぜひ! やらせてください!」
「うん、じゃあよろしく頼むよ」
私が右手を差し出すと、男の冒険者は嬉しそうに握手をした。
「それで、こちらの依頼内容だけど……」
私は“黄金の旋風”の面々に、依頼内容を簡単に説明した。
といっても、私の目的はカートレット卿の戦力を削ぐことが目的なので、こうやって離脱させてモーカムの街に待機させるだけなんだがな。
「……そして、できればカートレット卿に関する情報について何か知っていれば教えて欲しいんだが……」
「情報、ねえ……」
男の冒険者は腕組みしながら思案する。
他の女の冒険者達も考え込んでいるが、ほぼ情報が出てこなかった。
かろうじて分かったのは、カートレット卿は特殊な形状をした甲冑を身にまとい、死神の鎌のような武器を携えていることと、侍女はククリナイフを武器として恐ろしく手練れであること、そして。
「あの男は以前はうちのパーティーで荷物持ちと雑用してたんですけどね。いやあ、戦闘に関しては全然で、使えないから追い出してやったんですよ……なのに領主……いや、小娘に気に入られたからなのか、調子に乗りやがって……」
そう言うと、男をはじめパーティーの面々が顔をしかめた。
余程その男を嫌っているのだろう。
だが……この連中、何の役にも立たなかったな。
「あ、そうそう。そういえば……」
「何かあるのかい?」
「ええ……一昨日のことなんですが、街に着いてあの小娘が前から歩いてきた男にぶつかった瞬間、急に怯えだしたんですよ」
「ほう……」
「つまり、あの小娘は男が苦手なんじゃないですかねえ……アデルのクソ以外は」
男が苦手、か……。
まあ、その原因はこの私のようなものだが。
「ありがとう。非常に助かったよ」
「い、いえ! これくらいお安い御用です!」
「それで、これは忠告。君達はこれから先アイザックの街に帰らずに、この街に残って冒険者活動を続けたほうがいいと思うよ」
「ええと、それはどういう……」
私の言葉に、“黄金の旋風”の面々は怪訝な表情を浮かべた。
「だって、アイザックの街はもうすぐ王国の地図から消えるから、ね」
◇
「……冒険者というのは、信用ならないな」
軍備を整え、この執務室へと報告に来たアダムスについ愚痴をこぼした。
「まあ、所詮は冒険者風情ですからな。連中にとって重要なのは、仁義よりも金です」
「ハハ、本当だね……それで?」
「アダムス大隊五千人、いつでも出兵できます」
「そうか……」
私は静かに目を瞑り、そして。
「騎士団長アダムス」
「ハッ!」
「都市アイザックを攻略し、住民を含め、全て殲滅するぞ!」
「お任せください!」
アダムスは胸をドン、と叩くと、意気揚々と執務室を出て行った。
「すまない……」
執務室の扉を眺めながら、私はポツリ、と呟いた。
住民を虐殺するなど、武人として不名誉なことをさせてしまうことになった、アダムスに対して。
「さて……では、私も行くか」
兜を被り、ゴドウィン家に伝わる家宝の剣を携えると、アダムスや兵士達の待つ庭へと向かう。
そして。
「では、出発!」
アダムスをはじめ居並ぶ兵士達に号令をかけると、私は胸を張って馬に跨り、アイザックの街を目指して出発した。
この王国に暗愚な侯爵として名を遺す覚悟と共に。
◇
モーカムの街を出立してから数刻、夜となる頃には湿地帯の入口へとたどり着いた。
「お館様、いよいよこの湿地帯を渡れば、アイザックの街まであと少し、ですな」
「……ああ、そうだな」
湿地帯に掛けられた橋を眺めている私に、アダムスが声を掛ける。
そして私は、そんなアダムスにただ頷いた。
……明日には、アイザックの街が滅ぶ。
この、私の手によって。
「……お館様は気に病む必要はありません。此度の汚名は、全てこのアダムスが」
「そんな訳にはいかない。むしろ、この私こそが受けるべきなのだ……」
「お館様……」
悲し気な瞳で見つめるアダムス。
だが……始めないとな。
「全軍に告ぐ! これより、この湿地帯を抜けるぞ! ここを抜ければ、目標のアイザックの街までもうすぐだ! 街で手に入れたものは、全て君達兵士のものだ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
私の鼓舞に兵士達が応え、この一帯に歓声がこだました。
「行くぞ!」
「「「「「応!」」」」」
私達は休息も取らぬまま、湿地帯に掛かる橋の上を進軍する。
一歩、また一歩と。
その音は、まるで“死神”の行進のようにも聞こえた。
アイザックの街の住民達に、死を運ぶ者として。
そして、夜が明ける直前、湿地帯の終わりを告げる橋の終点が視界に入る。
「いよいよか……」
私が呟いた、その瞬間。
「【加工】」
——若い男の声が、宵闇にこだました。
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