ダンスとワインと
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「おお……!」
僕はパーティー会場に入るなり、その雰囲気に思わず圧倒される。
会場内は絢爛で、多くの貴族達が思い思いに談笑していた。
「アデル様?」
「ああ、いえ……このような場は当然ながら初めての経験でして……き、緊張してしまいますね……」
少し心配そうな瞳で見つめるライラ様に、僕は頭を掻きながら答えた。
パーティー自体は、“黄金の旋風”にいた頃もお金持ちの商人の依頼を達成した時などにあったが、参加するのはアリエル達だけで、僕はいつも参加させてもらえなかったからなあ……。
「ふふ、それは困りました」
「あはは……」
表情は変わらないが、ライラ様が口元に手を当ててクスクスと笑い、僕もそれにつられて苦笑した。
「失礼。もしや、カートレット卿でいらっしゃいますか?」
すると、早速どこかの貴族がにこやかな笑顔でライラ様に話しかけてきた。
「はい。カートレット伯ライラでございます」
「おお! やはり! 私はケッペル伯爵家の次男で……」
そしてこれを皮切りに、ライラ様の元に次々と貴族達……というか、貴族の息子達がやって来る。
余程カートレット伯爵という肩書は魅力的らしい。
一方で、爵位を持つ本物の貴族は、ライラ様を遠巻きに眺めるだけで話しかけて来ようとしない。
多分、若干十四歳の少女であるということで下に見ているのだろう。
それと……。
「ところで、その……カートレット卿はいつぞやの事件で大怪我をなさったとか……?」
貴族の馬鹿息子の一人が、探るように尋ねてきた。
そして、それにつられて他の息子連中や遠巻きにいる貴族達も聞き耳を立てている。
「はい……今では、お陰様でこのように無事回復いたしました……」
そう言うと、ライラ様は目を伏せ、隣に控える僕の服をつまんだ。
「そ、そうですか! それは良かった!」
ライラ様のその一言で息子連中は喜色ばむが、貴族達はむしろ怪訝な表情を浮かべた。
多分、貴族達は事件の詳細を知っているからだろう。
だからこそ、健在であるライラ様のその姿が信じられないといった様子だった。
すると。
「みなさん、楽しんでいますか?」
「おお……これはこれは“ゴドウィン卿”! 本日はようこそお招きくださいました!」
三十代を超えるか超えないかといった男がパーティー会場に入ってくるなり、貴族達は一斉にその男に群がる。
「アデル様……」
「ええ……あれがゴドウィン卿、ですね……」
僕の左側に立つハンナさんの耳打ちに、静かに頷く。
そして、会場内に楽団による演奏が流れ始めると。
「カートレット卿! 私と一曲踊っていただけませんでしょうか!」
「いえ! この私と!」
息子連中が次々とダンスに誘ってくる。
ああ、この音楽はそういうものなのか。
「ふふ、申し訳ありません。実は、既に一緒に踊っていただく殿方は決まっておりまして」
そう言うと、ライラ様がス、と手を差し出した。
「アデル様……どうか一曲」
「ぼ、僕ですか!?」
ライラ様のお誘いに、僕は思わず驚きの声を上げてしまった。
だ、だって僕、ダンスなんて踊ったことないし……。
「……ダメ、ですか……?」
ライラ様が上目遣いで僕の顔を覗き込む。
うう……その瞳は反則ですよ……。
「お、踊ったこともありませんし、ご迷惑をおかけしますが……それでも、よろしいですか……?」
「っ! も、もちろんです!」
ライラ様が嬉しそうな声で僕の手をつかむ。
「で、では行きましょうか……」
「はい!」
僕とライラ様は他の貴族達も踊るホールの中央へと足を運ぶと。
「アデル様、手を私の腰に回してください」
「こ、こうですか……?」
僕は他の踊る人の見様見真似で、ライラ様の腰に手を置いた。
「では、行きますよ!」
それから、僕はライラ様のリードで一緒にダンスを踊る。
周りと比べても到底褒められたものじゃないけど、それでも、ライラ様は心から喜び、楽しんでくれた。
そして、それは僕も同じで……。
「ふふ! アデル様!」
たとえその表情は変わらなくても、ライラ様のその右の瞳が見せる様々な色がこの僕の心を魅了して。
「あ……ふふ……」
気づけば、僕はダンスが始まった時よりもライラ様の身体を強く抱き締めていた。
ライラ様も僕の胸に顔を寄せ、頬ずりをした。
曲も終わり、僕とライラ様はそっと離れ、手をつないで退場する。
「お二人共、とても素晴らしゅうございました!」
「「「「「…………………………」」」」
ハンナさんが笑顔で拍手しながら僕達を出迎えてくれ、息子連中は苦虫を噛み潰したような表情で僕を睨みつけていた。
「どうぞ」
その時、会場にいる給仕の一人がライラ様と僕にワインが注がれたグラスを差し出してくれた。
「ありがとうございます」
僕はライラ様の分も含めてグラスを受け取ると。
「……【加工】」
そう呟いた。
すると、ワインに含まれていた不純物が取り除かれ、僕の手を伝って床に零れた。
「ライラ様、どうぞ」
「ありがとうございます」
ライラ様がクイ、とグラスを傾けてワインを口に含む。
「ふふ、アデル様からいただいたワインのお味は格別ですね」
「それは良かった」
ライラ様が少し頬を染め、僕は口元を緩めて見つめ合う。
向こうに、これが無意味であることを示すために。
「やあ、素晴らしいダンスでしたね」
一人の男が拍手をしながら笑顔で僕達に近寄ってきた。
「……ありがとうございます、“ゴドウィン卿”」
そして、ライラ様は驚くほど低い声でその名を告げた。
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