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機械仕掛けの殲滅少女  作者: サンボン
第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン
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湿地帯を越えて

ご覧いただき、ありがとうございます!

 夜が明け、僕達はゴドウィン領に向けて再度出発する。


 だけど……昨日は大変だったなあ……。

 だって、まさかライラ様が宿の階段に足を掛けた瞬間、バキッという音と共に階段が抜けちゃうんだもんなあ。


 あの後、何とかライラ様の部屋までの動線を確保するために、村の金属をかき集めて宿の改築をする羽目になるなんて……。


「……本当に、アデル様がいらっしゃってよろしゅうございました……」


 隣を歩くハンナさんがしみじみとそう語る。


「な、なんですか……私のせいだとでも言いたいんですか……?」

「その通りです、お嬢様」


 ジト目で睨むライラ様に、ハンナさんは一切の躊躇(ちゅうちょ)も遠慮もなく言い放った。


「はあ……村総出で協力してもらって、あれだけの金属を集めるのも一苦労でしたし、結局アデル様が[技術者(エンジニア)]の能力をフルに使って、一軒の建物を改築していただいたんですから……」

「あはは……」


 ハンナさんの言葉に、僕は肩を竦めて苦笑するしかない。


 といっても、建物は単純な構造だし、能力を使うこと自体は大したことないからいいんですけどね。


 それよりも、僕が能力を使った時の“黄金の旋風”の面々の驚いた顔のほうが印象的だった。

 まあ、建物なんて改築するなんてクエスト、ないからなあ。


 そしてあの後エリアルの奴、家を建てろなんて厚顔無恥な頼みをしてきたんだよなあ。

 ライラ様とハンナさんに激怒されてたけど。


「あ、到着しましたね」


 少し小高い丘を抜けると、目の前には広大に広がる湿地帯と、一直線に伸びる木製の橋が掛けられていた。


「ふふ、なかなか素敵な景色ですね」

「ええ、そうですね」


 ライラ様の言葉に、僕は頷く。

 浮草や苔の緑と水面に反射する陽の光が相まった景色は、確かに壮観だった。


「では、行きましょう」


 そう言うと、ハンナさんが軽やかに橋に乗る。


 続いて、ライラ様が橋の上に乗る……んだけど……。


「……なんですか」

「「いえいえ、何でもありません」」


 ジト目で睨むライラ様に、僕とハンナさんは大きくかぶりを振った。

 うん、とりあえずこの橋はライラ様の重量には充分耐えられるみたいだ。


 僕達はこの雄大な景色を楽しみながら、半日がかりで湿地帯を踏破した。

 “黄金の旋風”の面々は、その重い荷物と照り返しを含めた強い陽射しで、かなり体力を消耗していたようだけど。


 そして。


「お疲れ様でした。では、今日はここで野営しましょう」


 ハンナさんの言葉に、“黄金の旋風”の面々はホッとした表情を見せる。

 今日はかなりのハイペースで進んだので、既に疲労困憊になっていた。


「今日と同じペースで進めば、明日の夜にはモーカムの街に到着できそうですね」


 そう言うと、ハンナさんが微笑んだ。

 だけど、そんな彼女とは対照的に“黄金の旋風”は全員顔をしかめた。


 ただでさえ疲れているのに、今日と同じペースなのだ。

 その行程の過酷さを考えると、そんな顔になるのも仕方ないだろう。


「ふふ、街に早く着けば、帰るまでの間は皆さんの自由ですよ? もちろん、その分の報酬を返せだなんて野暮なことは言いませんので」

「っ! ほ、本当ですか!」


 ライラ様の言葉に、エリアルが嬉しそうに声を上げた。


「ええ。ですので、明日も頑張ってくださいね?」

「はい! お任せください!」


 エリアルは胸を張り、笑顔でドン、と胸を叩いた。

 一方で、他のメンバーは微妙な表情を浮かべていたけど。


 それから、僕達は野営の準備に取り掛かる。


 まず、荷物の中からテント用の布を取り出すと、僕は近くにあった木に向かって手をかざす。


「【設計(デザイン)】!【加工(キャスト)】!」


 木があっという間に支柱となる木材に変わり、それを組み上げてテントの骨組みが出来上がる。

 それに、テントの布をかぶせて……。


「はい、テントの完成です」

「「素晴らしいです!」」


 完成したテントを見て、ライラ様とハンナさんが手放しで喜び、早速テントの中に入って行った。

 あはは、やっぱり二人が喜んでくれると、僕も嬉しいな。


「ねえアンタ、こっちのテントも早く作ってよ」


 すると、レジーナがこちらにやってきて居丈高に僕に指示をする。


「……僕のこの能力は、ライラ様とハンナさんのためだけにしか使う気はない。自分達で何とかすれば?」

「なっ!?」


 僕は冷たく言い放つと、二人の後を追ってテントの中に入ろうとして……。


「待ちなさいよ! アデルのくせに生意気なのよ!」


 レジーナは僕の肩をつかんで止めると、まるで脅すかのように魔法の詠唱を始めた。


 だけど。


「成程……あなた、死にたいんですね?」

「ヒッ!?」


 テントから出てきたライラ様が、レジーナの首元に鎌の刃を当てていた。


 レジーナの細くて白い首に、スウ、と一本の赤い筋ができる。


「っ! レ、レジー……っ!?」

「動くと死にますよ?」


 駆け寄ろうとしたセシルとロロに、ハンナさんがククリナイフの刃先を二人の眉間に突き付ける。


「クッ……!? 一体何が……!」


 カルラが腰の剣に手を掛け、エリアルは困惑の表情を浮かべてオロオロしている。


「『何が』? この女が、私達のアデル様に魔法で攻撃しようとしたんですよ? なら、死ぬしかありませんよね?」


 そう言うと、ライラ様の口の端が吊り上がり、そして。


「あは♪」


 ライラ様の中の“死神”が姿を現した。


「「「「「……っ!?」」」」」


 場の空気が一変する。

 特に、ライラ様の殺気を最も受けているレジーナは……既に、失禁していた。


 こ、このままじゃ……!


「ラ、ライラ様! レジーナのことなんかより、今夜ライラ様達が眠るベッドを一緒に作りましょう! 僕が腕によりをかけて作りますので!」

「ほ、本当ですか!」


 するとライラ様から放たれていた死へと導くプレッシャーは霧散し、いつものライラ様に戻った。


「ええ! ですので、テントの中に参りましょう!」

「はい!」


 そうして、僕とライラ様がテントの中へと向かう。


「……命拾いしましたね」


 すれ違いざま、ハンナさんがポツリ、と呟くと、レジーナはその場で腰を抜かしてへたり込んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回はこの後更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ゆるキャンするには、便利そうなスキル… 彼は、まさに逆鱗にあたるのかあ。
[一言] ライラが彼女を殺した後、主人公が彼のスキルを使って貧しいレジーナの墓を作ることをはっきりと想像することができます。男は女の子がすごいです。いつもお話に感謝します。
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