出発
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「あれは……“黄金の旋風”、か?」
ギルドを出た僕達の視界に入ってきたのは、昼間にもかかわらず機嫌良さそうに通りを練り歩いているカルラを除いた“黄金の旋風”の面々だった。
「あ! 領主様!」
僕達を見つけたエリアルが、嬉しそうにこちらへとやって来た。
「今日はギルドにどのような用事ですか?」
「……今日は冒険者としてクエストを受けに来たんだよ、エリアル」
「オマエには聞いてないだろう?」
明らかに拒否を示すかのようにライラ様が無表情でエリアスを見つめていたので、エリアルの質問に僕が代わりに答えると、エリアルはエリアルで露骨に顔をしかめた。
「そうか。どっちにしろ僕達は忙しいんだ。二週間後の出発の時まで、ライラ様に話しかけないでくれると助かるんだけど?」
「だから、オマエに用はないんだよ!」
僕の言葉にキレたのか、エリアルは僕の胸倉をつかんだ。
というかコイツ……酒臭いぞ?
「アデル様に何をしているのですか!」
とうとう我慢できなくなったライラ様が怒鳴ると同時に、ハンナさんがエリアルの首元にククリナイフを突きつけた。
「っ!?」
「落ち目の冒険者風情が、気安くアデル様に口をきかないでください」
凍える程の冷たい声で、ハンナさんが言い放つ。
だけど、エリアルの奴……[英雄]の職業持ちのくせに、ハンナさんの動きについて行けてないぞ……?
「「「…………………………」」」
そして、そんな僕達の様子を止めることなく、不安な表情でただ見守っている“黄金の旋風”のメンバー達。
その時。
「何をしているの!」
僕達のいざこざを見つけたカルラが、慌てて駈け寄って来た。
「……これはどういう状況?」
事態が飲み込めず、カルラが僕に尋ねる。
けど。
「あなたにアデル様と言葉を交わす資格はないでしょう?」
ライラ様が無表情でカルラに言外に告げる。
お呼びじゃない、と。
「……エリアル、何があったの?」
「い、いや、俺は領主様にご挨拶をだな……」
カルラは仕方なくエリアルに尋ねると、エリアルは少ししどろもどろになりながら言い淀む。
「というか、あなたお酒飲んでるの!?」
「い、いや……ホ、ホラ! 二週間後の護衛のクエストに向けて英気を養ってだな!」
「呆れた……」
言い訳を繰り返すエリアルに、カルラがこめかみを押さえてかぶりを振った。
「……僕達も暇じゃないんだ。これで失礼するよ」
僕は自分でも驚く程低い声で二人にそう言い放つと、ライラ様達と一緒にその場から離れた。
「ふう……これはいよいよ、あの連中を排除しないといけないようですね」
「お嬢様、こうなったら今度の護衛の際に失態をなすりつけて、捕らえてやりましょう」
「いいえ、いっそのこと事故と見せかけて……」
「ふ、二人共! アイツ等のことは放っておいて、早く森へ急ぎましょう!」
二人がますます物騒なことを言い出したので、話を逸らすために大声で二人を急かした。
「ふふ、そうですね、このままでは日が暮れてしまいます」
「うふふ……その件は屋敷に戻ってから……」
「ええ」
け、結局、“黄金の旋風”には破滅しか残されてないっぽい……。
◇
「クッ!? すばしっこい!」
森の木々を縫うように舞うキラービーに、ライラ様が思うように追い詰めることができず、イライラした様子を見せる。
「ライラ様! キラービーの動きを予測して、最短ルートを見つけ出すんです! 大丈夫、ライラ様ならできます!」
「はい!」
僕のアドバイスを聞いてそれに応えるライラ様が、“クロウ=システム”を起動させたままその場で静止する。
そして。
「っ! そこ!」
不規則に舞っていたキラービーが向かうほうへ、ライラ様は直線的に木々の間を抜けていくと。
——ザシュ。
「! アデル様、やりました!」
見事にキラービーを仕留め、ライラ様は大急ぎで僕の元へと戻って来た。
僕は、褒めて褒めて、と右の瞳で訴えてくるライラ様が可愛くて。
「はい、お見事です。ライラ様」
「あ……ふふ……」
ライラ様の頭を撫でてあげると、ライラ様は嬉しそうに首を竦めた。
「お嬢様、よろしゅうございました!」
「ハンナ! はい!」
キラービー二匹を音もなく仕留めたハンナさんが、嬉しそうにライラ様の手を握ると、二人はその場ではしゃいだ。
……というかハンナさんの強さって、超一流の冒険者並みのような気がする。
そ、それより。
「それでは訓練はこれで終了としますので、後は好きにして大丈夫ですよ」
「! はい!」
僕がそう告げると、ライラ様は嬉しそうに鎌を振り回し、舞っているキラービーに向けて一直線で突き進む。
それこそ、立ち並ぶ木々など、最初からなかったかのように鎌でなぎ倒しながら。
みるみるうちにキラービーの死体と切り倒された木々が積み上がってゆく。
そして。
「ふう……満足です」
ライラ様がグイ、と白銀の腕で汗を拭う。
その眼前には、森の木々が全て切り倒され、平地が広がっていた。
◇
それからも、ライラ様の“クロウ=システム”の訓練とゴドウィン卿のパーティーに向けた準備は続き、いよいよゴドウィン領に向けて出発する日となった。
「領主様! どうぞよろしくお願いします!」
伯爵邸にやって来たエリアルが、爽やかな笑顔を振りまきながらライラ様の元に駆け寄ってきた。
「……あなた方は、私やハンナ、そして、アデル様に指示されたことだけを黙々とこなせば良いのです。社交辞令など不要ですよ」
そう告げると、ライラ様はプイ、と顔を背けた。
「では“黄金の旋風”の皆様、こちらの荷物をお持ちください。
ニタア、と嗤うハンナさんが、優雅にカーテシーをする。
「こ、これを……です、か……」
そこには、一人が背負えるギリギリの量の荷物が五つ用意されていた。
「わ、私がこんなに持てる訳ないじゃない!」
「ボ、ボクもムリだよ!」
レジーナとロロが叫ぶ。
「……だけど、前払いで報酬も受け取った以上、運ぶ以外の選択肢はないの。止めたいなら、あなた達が好き勝手に使い込んだ分も含めて、領主様に報酬を返すのね」
「「…………………………」」
カルラの皮肉めいた言葉に、レジーナとロロは口をつぐむ。
「ホ、ホラ! 二人の荷物の一部は俺が持つから!」
「「エリアル……」」
そんなエリアルの言葉に、二人は瞳を潤ませる。
「……何言ってるの。二人の分どころか、私とセシルの分の一部もあなたが持つのよ」
「は、はあ!?」
カルラから放たれた言葉に、エリアルが思わず声を上げる。
「……当たり前でしょ? そもそも、ちゃんと管理すべきあなたが一番報酬を使い込んだのよ? なら、それに応じて仕事が多くなるのは当然じゃない」
「あ、あれは必要経費で……「昼間からお酒を浴びる程飲むのが必要経費?」…………………………」
カルラの指摘に、エリアルが無言で俯く。
「そういうことだから、他のみんなも覚悟するのね」
「「「…………………………」」」
そう言い放つと、カルラは鼻を鳴らして荷物を背負った。
「ふふ、麗しき信頼関係ですね」
「うふふ……ええ、そうですねお嬢様」
そして、ギスギスした“黄金の旋風”の様子を眺め、ライラ様は無表情で嗤い、ハンナさんがほくそ笑む。
僕はと言えば、そんな二人を見ながら、若干口の端を引きつらせていた。
……こうして、僕達の前途多難な旅が始まった。
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