新たな力
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「う……ん……」
目が覚めると、部屋の天井が視界に入る。
どうやら、今回も僕は生き永らえたようだ。
だけど、前回と違うのは……。
「アデル様!」
無表情で僕の顔を覗き込む、ライラ様の姿があったからだ。
「おはようございます、ライラ様……」
「『おはよう』じゃありません! あなたは……あなたって人は……!」
表情は変わらないが、ライラ様は明らかに怒っていた。
僕が、勝手にこんな真似をしたことに対して。
「はは……ですがこれで、ライラ様はさらにお強く……「そんなの!」」
僕の言葉を遮り、ライラ様は強く叫ぶ。
「……そんなの、嬉しく……ありません……」
そして、その綺麗な右の瞳から、大粒の涙を零した。
「申し訳……ありません……」
僕は声を絞り出し、そう答えた。
でも……僕はまた同じことを繰り返すだろう。
この、ライラ様のために。
「あっ! まだ起き上がっては!」
僕はライラ様の制止も聞かず、上体を起こした。
周りを見ると……部屋の入口で、ハンナさんが俯いて立っていた。
「ハンナさん……」
「アデル様……申し訳、ありませんでした……」
そして、ハンナさんが深々と頭を下げる。
なんで……? なんで、ハンナさんが謝るんだ……?
「……アデル様がお倒れになった後、ハンナは私の元にやって来て、全てを話してくれました。そして、今回の件について罰を受けたい、と」
「っ!? なんで! なんでハンナさんがそんなことを!」
だって、これは僕が勝手にしたことで、ハンナさんに無理やりお願いしただけなのに……!
「そして、私はハンナが罰を受けるべきと判断し、アデル様が目を覚まされたら、その沙汰を下すことにしました」
「そんな……! ハンナさんは何も悪くない! お願いです! そのようなことは止めてください!」
僕はライラ様の肩をつかんで必死に訴えるけど、ライラ様は静かにかぶりを振るのみ。
ハンナさんも、頭を下げたまま一切動こうともしない。
「……ハンナ」
「はい」
「あなたには、一切の罰を与えません」
「っ! そ、そんな……!」
ライラ様の言葉に、ハンナさんが驚愕の表情を浮かべる。
「お、お願いします! 私に……私に罰を!」
「いいえ……罰を受けて楽に逃げようだなんて、そうはいきません。今回のこと、永遠に胸に刻んでおきなさい。それが……あなたへの罰です」
二人の状況に困惑する僕。
すると……ライラ様が、キュ、と僕を優しく抱き締めた。
「アデル様……あなたは、もはや私とハンナにとって、かけがえのない存在なのです……」
「…………………………」
「ですから、あなたが傷ついたり、苦しんだりすれば、それだけで胸が張り裂けそうになってしまいます」
「ライラ様……」
ライラ様の想いが、くるおしい程伝わってくる。
それは、頭を下げたまま、床にぽたぽたと雫を落とすハンナさんからも。
「申し訳、ありませんでした……」
僕はライラ様を抱き締め返し、圧縮した魔石が埋め込まれた背中をさすった。
“役立たず”だった僕を、ここまで想ってくださるライラ様に応えるように。
ライラ様からそっと離れると、僕はベッドから降りて未だ頭を下げたままのハンナさんの元へと向かう。
「ハンナさん……」
「アデル様……」
僕はハンナさんの身体を起こすと、その顔がくしゃくしゃになっていた。
そして。
「っ! ア、アデル様……」
「ハンナさん……ありがとう、ございます……」
「はい……はい……!」
そっとハンナさんを抱き締めると、彼女は僕の肩に顔を乗せ、嗚咽を漏らした。
◇
それから僕達は食事をした後、敷地のあの壁が見える庭に来ていた。
食事中に聞いた話だと、今回僕が眠っていたのは一週間程度だったらしい。
ポーションだけで一命もとりとめたし、やっぱり僕の身体は能力への耐性ができているようだ。
そしてその間、ライラ様もハンナさんも、僕に付きっきりで見守ってくれていたらしい。
本当に……僕なんかにはもったいない。
そんなことを考えながら、僕は右手を握ったり開いたりして状態を確認した後、甲冑を身につけたライラ様に向き直った。
「では、今回僕が作ったものについて説明します」
「はい!」
ライラ様が勢いよく手を挙げて返事をする。
そんな仕草に、僕は不覚にも可愛いと思ってしまった。
「それで……」
僕は今回作った……というより、甲冑に加えた新たな機能について説明を始める。
そもそも製作のコンセプトは、ライラ様の重量過多の問題を解決し、環境に影響されずに戦闘を可能にすることだ。
だけど、軽い素材を使えば義手、義足と甲冑の防御力が落ちてしまう。
そこで、防御力を落とさずに全環境に適応する方法について僕は一つの方法にたどり着いた。
「……それが、この甲冑のふくらはぎ部分に取り付けた新機能です。これは、ライラ様の身体を浮かせるもの、と言ったほうが正しいかもですね」
「「“身体を浮かせる”、ですか?」」
ライラ様もハンナさんも、僕の言っている意味が分からずにキョトン、としている。
「あはは、まずは実際に使っていただいたほうが分かりやすいかもですね」
「は、はあ……」
「では、その左眼を通じて起動してみてください。そうですね……自分が地面の上を滑るようなイメージを思い浮かべるんです」
「地面を滑るイメージ……」
ライラ様はそっと目を閉じ、すう、と息を吸うと。
「行きます!」
その宣言とともに、甲冑のふくらはぎ部分が展開し、筒状のものが露わになる。
そして。
——キイイイイイイイイイン……!
筒状のものから青白い炎が勢いよく噴き出すと。
「キャアアアアアアアアア!」
耳をつんざく音と共に、ライラ様がものすごい速さで文字通り地面を滑る。
すると、一気に敷地の壁にまで到達……っ!?
「まずいっ!? ライラ様! その左眼を介せばライラ様の思い通りに動ける筈です! すぐに曲がってください!」
「わわ、分かりました!」
僕が慌てて叫ぶと、ライラ様が身体を傾け、それに合わせるように壁に激突する直前で急旋回した。
あ、危なかった……。
「アデル様! これ、すごいです!」
「あはは……そ、そうですか……」
それから、あっという間に操作方法を身につけたライラ様は、嬉しそうな声で楽しそうに敷地内を縦横無尽に滑った。
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