絶望がくれた希望②
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■ライラ=カートレット視点
「……僕が、あなたの望み……叶えてみせます」
「っ!?」
男が告げた信じられない言葉に、私は思わず残された右眼を見開いた。
そして、最初に私の中に浮かんだ言葉は、『世迷言』だった。
そんなことはできる筈がない。だって、私はこんな身体なのだから。
でも……男の私を見つめるその瞳には一切の嘘偽りが感じられず、ただ真剣そのものだった。
ひょっとしたら。
そんな希望めいたものが私の頭の中によぎる……けど、そんなことはあり得ない。
頭の中が混乱する中、私はハンナに連れられて応接室を後にする。
「……あの男の言葉を信じませぬよう」
ハンナは泣きそうな表情になりながら、諭すように私に告げた。
優しいハンナのことだから、私に変な希望を抱かないよう釘を刺したんだろう。
私が、これ以上絶望しないように。
私はハンナに何も答えないまま、何度もあの男の言葉だけが心の中で繰り返されていた。
◇
その後、私は自室でベッドに横たわりながら、何時間も無為に天井を眺めていた。
——コンコン。
「失礼します」
ハンナがやって来て、私を車椅子に乗せる。
ああ……もう夕食の時間だっただろうか。
チラリ、と窓の外を眺めると、辺りは暗闇に包まれていた。
あの日と同じ、暗闇に。
ハンナに車椅子を押されて向かったのは、いつもの食堂ではなく空き部屋となっていたところだった。
扉を開け、中に入ると……そこには、山のように積まれた大量の金属と大きな木箱が一つあった。
その傍らには、あのアデルという男もいた。
そして、男が告げる。
「今から……僕はあなたの両腕と両脚、そして、その左眼を作ります。少々痛い思いをするかもしれませんが、よろしいですか?」
一体何を言っているのだろう。
この世に現存するどんな魔法でも、どんな薬でも、どんな能力や技術でも、私の失われた身体の一部を取り戻すことなんて不可能だ。
なのに、この男はハッキリと言った。
私の両腕と両脚、左眼を『作る』、と。
ああ……当初の予定通り動かない義手と義足を作るということか。
そう思った私は、静かに男に頷いた。
だけど、この男は私の願いを叶えると言った。
所詮、この程度の男だったのだ。
私は納得する反面、余計に心に穴が空いた気分だった。
まあ、ほんの少しだけでも夢が見れただけでも満足……っ!?
「——【設計】!【加工】!【製作】!」
男がそう叫ぶと、ものすごい勢いで山のようにある金属が次々と変化していく。
黒鉄色の金属が輝く白銀の金属となり、灰色の金属は細く長い糸のようなものへと姿を変える。
その金属も何かの部品のようなものに作り変えられていき、細く長い糸が繋げられ、組み立てられる。
その時。
——ブシュウウウウ!
男の目から、鼻から、耳から、顔にある穴という穴から一斉に血が噴き出した。
血まみれになるも、男の手はその動きを一切止めない。
この男の持つ能力がとんでもないものであることは一目で理解できる。
だけど一番理解できないのは……どうしてこの男は、これほどの目に遭ってまで、私の腕や脚を作っているのだろうか。
しばらくすると、男は手を止めてグイ、と顔を拭う。
男の前には……白銀の両腕と両脚、黒色の眼球ができあがっていた。
「つ、次は……核となる魔石を……」
男はふらふらと木箱へと手を伸ば……!?
足元がふらつき、その場で男が倒れそうになる。
私は思わず身体を動かそうとするが、手脚のない私ではそれを助けることができない。
ハンナがすかさず男を支え、倒れずに済んだけど……この時ほど自分の身体をもどかしいと、悔しいと思ったことはなかった。
そう考えている間にも、男はハンナに支えられながら木箱に手を入れ、何かを作っていた。
男が木箱から手を引き抜くと、その右手には手の大きさ程度の、虹色に輝く円盤を持っていた。
そして、血まみれで、今にも死んでしまいそうな状態で、男は優しく私を見つめながら身体を引きずりやって来る。
「あ……ああ……」
気づけば、私は唯一残された右眼から涙を流していた。
この男の、その姿に。
「は……は……これ、で、最後……だ、から……」
男は、私の身体に両手をかざす、と……。
「【加工】……【製作】……」
ニコリ、と微笑んで、男はどさり、と私の身体にもたれかかった。
「あああああああああああああああ!」
私は叫んだ。この、私のために倒れてしまった男を想って。
私は慌てて男の身体を……!?
気づけば、私は男の身体を抱き締めていた。
その、輝く白銀の両腕で。
「ラ、ライラ……様……!」
「あ……ああ……!」
叶えてくれた。
この男は……アデル様は、私の願いを叶えてくれた。
その、生命を懸けて。
なら、私がここで呆けてどうする。
この素晴らしいお方をこのまま見殺しにしてどうする!
私は全てを諦め、壊れたままの心を無理やり奮い立たせる。
「ハンナ! 今すぐポーションを……回復魔法の使い手を! 絶対に……絶対にアデル様を死なせる訳にはいきません!」
「ライラ様……はい!」
私はアデル様を抱き締めながら、ハンナに指示を出す。
アデル様は、絶対に死なせない!
それから、私達はアデル様を救うために必死だった。
大量のポーションを身体に浴びせ、何人もの回復魔法をかけ……。
「ハンナ、そのポーションを貸しなさい!」
「はい!」
ハンナから奪うようにポーションを受け取ると、それを口に含んでアデル様に口移しをする。
外からふりかけても効かないのであれば、身体の中から……!
あれ程男共に穢され、男という存在すら許容することができない私が、何故かアデル様は平気だった。
アデル様……どうか……どうかっ……!
私は祈るようにアデル様の口にポーションを流し込む。
それを一昼夜繰り返し続け。
「ふう……とりあえず、峠は越えたようですね……」
アデル様の呼吸が安定し、ゆっくりとその胸を上下させる。
「良かった……良かった……!」
安堵した私は、アデル様にもたれかか……っ!?
——バキッ!
……どうやら私のこの義手と義足の重みで、ベッドの脚が壊れてしまったようだ。
「うふふ、アデル様のお世話はこのハンナにお任せくださいませ」
「……いいえ、私がアデル様のお世話をします」
静かに眠るアデル様の前で、私とハンナは譲れない闘いを夜明けまで繰り広げていた。
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