豚の末路
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「さて……ライラ様、残すはあと一人です」
「あは♪ そうですね、アデル様♪」
僕達は頷き合うと、たった一人頭を抱えてうずくまるジェイコブへと視線を向けると。
「ヒ、ヒヒ……ヒイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」
ジェイコブは思わず絶叫した。
それは、これからやってくるであろう自身の末路についての絶望なのか、それとも、終始嗤いながら百人もの兵士達を容易く屠り、辺り一面を血と肉片で飾り立てたライラ様への恐怖なのか……。
ただ、これだけは言える。
全ては、この男の因果応報であると。
僕は転がる執事の髪の毛をつかんで頭を持ち上げると。
「ムグ!?」
口の中に拳大の石をねじ込んだ。
それこそ、執事の歯が全て折れてしまおうがお構いなしに。
そして執事を肩に担ぎ上げ、ゆっくりとジェイコブの元へと歩を進める。
「あ……あわわ……」
汚らしく涙とよだれ、そして大小の汚物を垂れ流しながら、ジェイコブは後ずさりする。
どこにも逃げ場なんてないのに、どこに逃げようというのだろうか。
「ジェイコブ」
「ヒッ!」
名前を呼ぶと、ジェイコブはビクッと身構え、またガタガタと身体を震わせた。
「オマエが賊……と偽った兵士によってライラ様や先代伯爵様夫妻を襲撃し、夫妻は殺害、ライラ様には暴行の上その手脚を切断、左眼をくり抜き、放置させた。間違いないな」
「わわ、私は……「間違いないな?」……はは、はい……」
「目的はカートレット伯爵家の簒奪、これも間違いないな?」
「(コクコク)」
僕の問い掛けに、ジェイコブは首を大きく縦に振った。
「次。オマエにカートレット伯爵家の簒奪をそそのかした奴がいるね。誰?」
「…………………………」
「ライラ様」
「あは♪」
「まままま、待て! 言う! 言うから!」
「早く言え」
「わわ、私に伯爵家の乗っ取りを持ちかけたのは……「うううーっ! ううーっ!」」
ジェイコブの言葉を遮ろうと、執事が大声で唸る。
「うるさいですね」
「カッ、カカ……ッ!?」
ハンナさんに鳩尾を蹴られ、執事が息を吸えずにもがいた。
「続きを」
「そ、その、持ちかけたのは“ゴドウィン卿”だ!」
「“ゴドウィン卿”!?」
「……ご存知ですか?」
僕は、思わずその名を叫んだハンナさんに尋ねる。
「はい……“ゴドウィン卿”は王国でも屈指の名門貴族で、王都の東側に広大な領地を持つ侯爵位の貴族です」
「へえ……」
そんな名門貴族が、何でまた人の家のことに関与してきたんだ……?
「それで、その“ゴドウィン卿”がオマエをそそのかした理由はなんだ?」
「しし、知らん! 私は知らん! 本当だ、信じてくれええええ!」
ジェイコブがその醜い巨体を揺らしながら僕の脚に必死に縋りつこうとする。
「あは♪ アデル様に触るな、汚らわしい」
「ぶへえっ!?」
ライラ様は笑顔でジェイコブの顔面を蹴ると、後ろに吹き飛び、鼻と口から大量の血を流した。
「じゃあ、今度はコッチに聞いてみましょうか。おい」
「っ!? ごばば……!」
僕は執事を仰向けにさせると、口の中の石を【加工】で小さな石に変えた。
すると執事は、その石を喉につめてしまったようで、まるで溺れたようにもがいていた。
「ゲホッ、ゲホッ……!」
「それで、オマエの本当のご主人様……“ゴドウィン卿”は何を企んでいる?」
「…………………………」
「黙っていたら分からないよ」
「アデル様……ここはこのハンナにお任せください」
ハンナさんは恭しく一礼すると、ククリナイフで執事の右耳を切り落とした。
「ギイ……ッ!」
「おや、これではバランスが悪いですね」
そう言ってハンナさんは執事の顔を反対側に向け、今度は左耳をそぎ落とす。
「ガガ……!」
「どうです? 話したくなってきませんか?」
「…………………………」
「強情ですね……では、男の大事な部分でも切り落としてみましょうか」
ハンナさんは脚と一緒に切り落とされて短くなったズボンをずり下ろす。
「あは♪ 私がやります」
嬉々とした表情を浮かべ、ライラ様が鎌の先端を執事の股間に合わせると。
——ゴリ。
「~~~~~~~~~~!」
執事の股間は無残にもえぐり取られ、声にならない声で悶絶した。
「あははははははは! このままではこんな恥ずかしい恰好で死んでしまいますね!」
股間から血を垂れ流し、執事は身体をビクン、ビクン、とけいれんさせる。
「それで、“ゴドウィン卿”は何を企んでいる?」
「…………………………殺せ」
ここまでされても、なおも拒否する執事。
「……まあ、裏にいるニンゲンが誰なのかは分かったんだ。ソイツに直接聞けば分かる話ですけどね」
僕はライラ様とハンナ様を交互に見て肩を竦めた。
「ところで、この二人をどうしますか?」
僕はライラ様に尋ねる。
正確には、どう殺すのか、と。
「たた、頼む! 私は正直に話したではないか! もうこんな真似はせん! どうか……どうか命ばかりは……!」
「あは♪ 豚がブーブー鳴いてますね!」
「ライラ様……私は豚料理が得意ですが?」
二人はニタア、と嗤いながら、ジェイコブを眺める。
「あは♪ アデル様はどうすれば一番良いと思いますか?」
「そうですね……」
僕は顎に手を当て、思案する。
この復讐はライラ様のものであり、僕は彼女に命を懸けて寄り添うと決めた。
だから。
「……この復讐は、他の誰のものでもない、ライラ様のためだけのものです。やはり、ライラ様自身が決めるべきです」
そう言うと、僕はライラ様に一礼した。
僕は、ライラ様がどんな復讐を望もうとも、それを受け入れよう。
ライラ様の身体を【製作】したあの時から、この生命は彼女に差し出したのだから。
この、輝く白銀と、どこまでも深い漆黒を併せ持つ“死神”に。
「あは、そうですね♪ でしたら……うん! 豚もこの執事と同様に全てを切り落とし、この敷地にロープで吊って鳥の餌にしましょう!」
「お嬢様、それは妙案です。では私は、この二人ができる限り長く苦しめるように、ギリギリまでポーションで生き永らえさせてみせましょう」
「あはははは! いいです! いいですね!」
ケタケタと嗤うライラ様に、ハンナさんは優雅にカーテシーをする。
その光景は滑稽でもあり、もの悲しくもあり……僕は、胸を詰まらせた。
「あは♪ では、切り落としていきましょうねー♬」
スチャ、と鎌を構え、ライラ様はゆっくりとジェイコブに歩み寄る。
「ひひ……ひ……ひ……」
「あは♪」
——ザシュ。
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