残るは一人
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「あはははははははははははははははははははは!」
「「「「「ぎひゃああああああ!?」」」」」
ライラ様に滅多切りにされ、悲鳴がとどろく。
とはいえ、もう残されている兵士は少ない。
残るのは逃げ惑う数人の兵士と、頭を抱えてガタガタと震えるジェイコブを取り囲むようにして守っている執事と四人の男だけ。
「あは♪」
——ズパン。
真横に払う鎌の刃に、恐怖で引きつったままの顔が宙を舞った。
「あはははは! 後は貴様等だけだ!」
鎌の先をジェイコブ達に突き付け、ライラ様が嬉しそうに嗤う。
「…………………………」
執事は無言でライラ様を睨む。だが、これ程の惨劇を目の当たりにしながら、少しも動揺や恐怖の色は見られない。
それは他の四人の男も同様で、勇敢にもその手に持つ武器を構えた。
「あは♪ 貴様達は念入りに壊してやる」
そう言うと、ライラ様が男達に突撃した。
「いけ」
「「「「ハッ!」」」」
執事の合図とともに、男達がライラ様を囲むように四方に展開した。
そして。
「シッ!」
男の一人がライラ様に向けてナイフを投げる。
だが、そのナイフは当然のようにライラ様に当たることは……何っ!?
まるでその動きを見計らったかのように、別の男が鎖の分銅でライラ様の脚を絡め取った。
さらに、もう一人の男が剣の切っ先を向け、ライラ様に突撃してきた。
残る一人は……あれは魔法の詠唱か!
「ライラ様!」
「あは♪」
僕はライラ様に警戒するよう声を掛けるが、ライラ様は連中のそんな連携を全く意に介さず、そのままナイフ使いに肉薄する。
「くっ!」
ナイフ使いの男は続けざま何本ものナイフを投げるが、やはりライラ様は全て避けるか払うかで、その刃が届くことはない。
「あは♪ 死ね」
死神の鎌を振り上げ、ナイフ使いの男に襲い掛かろうとした、その時。
「【火炎弾】!」
詠唱を終えた魔法使いの男が、直径一メートル程の炎の塊をライラ様の背中へ向けて放った。
だが。
「あはははははははははははははははははははは!」
ライラ様はその【火炎弾】をまるで無視して。
「ぐへ!?」
ナイフ使いの男の脳天に鎌の先を突き刺すと、その威力で男の身体がグシャ、と潰れた。
そして、ライラ様はそのままの勢いで前転で宙を舞い、真後ろに来ていた【火炎弾】を鎌で真っ二つに切り裂いた。
「っ!? 魔法でできた炎を!?」
驚愕の表情を浮かべ、思わず魔法使いの男が叫ぶ。
だけど、別に何も不思議なことじゃない。
だって、僕はそういう風に【製作】したんだから。
「アデル様……これは一体……」
「ああ、実はお二人の武器と防具にはミスリルを編み込んで、魔法に対する耐性を高めてあるんです」
そう……僕は[魔法使い]との戦闘も想定し、ミスリルがまだ大量に残っていたこともあって鋼の中に網の目のようにミスリルを張り巡らせておいた。
ミスリルには魔法を伝導させる特性があるから、そうすることで魔法を構成する魔力を分解させ、四方に逃がす構造にしたんだ。
「ですので、お二人は防具で覆われていない部位への魔法攻撃だけ注意していただければ、余程の魔法でない限り大きなダメージを受けたりはしません」
「す、すごい……」
ハンナさんは僕を見てそう呟く。
だけど本当にすごいのは、あの両腕と両脚を含め、十全に使いこなすライラ様に他ならない。
元々の才能もあったんだろう。
でも、今ではその才能も復讐のためだけに使われるんだ……。
「……ライラ様は、復讐を終えたらどうされるんでしょうか……(ポツリ)」
「アデル様……?」
「ああいえ……ただの独り言です……」
「そう、ですか……」
僕の呟きを拾ったハンナさんが声を掛けてくるが、僕は静かにかぶりを振り、またライラ様へと視線を向けた。
悲しそうに僕を見つめるハンナさんに気づかないフリをしながら。
「あはははは!」
「クソッ! こうなったら同時に押し込むぞ!」
剣を持つ男が大声で叫ぶと他の二人が頷き、三方向からライラ様へ同時に突撃する。
「あは♪」
だが、ライラ様はまるで舞踏会でダンスを踊るかのように、その場で軽やかにスピンをすると。
——ザザザンッ!
三人の身体が、綺麗に宙を舞った。
もちろん、腰から上の部分だけが。
その時。
「くっ!?」
執事がジェイコブを見捨て、ものすごい速さで敷地の外壁の傍に向かった。
このまま逃げる気か!?
執事の逃走を阻止しようと、僕は慌ててボウガンを構えて矢を放つが、それよりも早く壁を駆け上が……っ!
「行かせませんよ」
いつの間にか僕の傍を離れ、ハンナさんが二本のククリナイフを抜いて執事を待ち構えていた。
「どけ。死にたいか」
「まさか、死ぬのはあなたですよ。それも、お嬢様の手で」
執事はタキシードの内側からダガーを抜くと、ハンナさんへ向けて突きを繰り出す。
「フッ!」
ハンナさんもサイドステップで軽快に躱し、ククリナイフを斜めに振り下ろした。
執事は後ろに飛んで素早く間合いを取ると、ライラ様とハンナさんのちょうど中間の距離にある壁に向け踵を返した。
だけど、その先には……この僕がいる。
僕はボウガンを構え、執事に狙いを定める。
「……っ!」
充分な射程に入った瞬間、僕は引き金を引き、矢は一直線に執事へと向かって行った。
でも、その矢は執事にあっさりと撃ち落されてしまう。
続けて二の矢を放とうと矢を番えるが、それよりも早く執事が僕の目の前までやって来て、そのダガーを構えた。
「「っ!? アデル様!」」
必死で執事を追いかける二人が、悲鳴に近い声で僕の名を叫ぶ。
「……【加工】【製作】」
地面に両手を当て、僕は目の前に土を加工して作った壁を出現させた。
「なあっ!?」
執事は驚きの声を上げるが、もう遅い。
逃すまいと、土壁は執事を囲むように次々と現れる。
そして。
「あは♪ 終わり」
「なっ!? グア!?」
追いついたライラ様がその鎌を払うと……土壁ごと執事の両脚を太ももから切断した。
「アアアアアアアアアアアア!?」
痛みからか、執事はもんどり打って絶叫する。
「あはははは! 私と同じ痛みを受けた気分はどうですか♪」
その口の端をさらに吊り上げ、ライラ様は満面の笑みを浮かべた。
さらに鎌はうなりを上げ。
「ガッ! ギャッ!?」
今度は執事の肩から両腕をズタズタに切り離した。
「あはああああ……♪」
恍惚の表情で執事を見つめるライラ様。
僕は大量の血を流しながら芋虫のようにうねうねと悶える執事の元へと行くと、ポーチから取り出したポーションを執事へとふりかけた。
まだ、この男に死なれちゃ困るからね。
「さて……ライラ様、残すはあと一人です」
「あは♪ そうですね、アデル様♪」
僕達は頷き合うと、たった一人頭を抱えてうずくまるジェイコブへと視線を向けた。
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