二つのクエスト
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「ですので、豚の調査は知られていない僕がやります」
「「アデル様が!?」」
そう言うと、二人が驚きの声を上げた。
「はは……“役立たず”は“役立たず”なりに、調査も含めて雑用は全部こなしていましたし……意外と得意なんですよ?」
僕は自嘲気味に苦笑する。
だけど。
「「いいえ、アデル様は“役立たず”なんかじゃありません」」
二人は口を揃えて、それを否定してくれた。
「はい……今はお二人のお陰で、自分を“役立たず”だとは思っていませんよ」
僕は二人に感謝しつつ、そっと目を閉じた。
「ですので、これから僕達がすることですが……」
僕は今日の方針を二人に伝える。
まずギルドに行ってクエストを受け、二人に魔物相手に武器の性能確認と慣れるための練習をしてもらい、その間、僕はジェイコブについての情報収集などを行う。
最低でも酒場で聞き込みをするとして、あとは……。
「ところで、豚の屋敷は街のどの辺りにあるんですか?」
「ああ……豚は街の北側の門の近くです」
僕が尋ねると、ハンナさんが顔をしかめて教えてくれた。
でも、北門の屋敷といったら……。
「……ひょっとして、あのやたらと飾り付けられた派手な建物……ですか……?」
「……(コクリ)」
あー……やっぱり。
アレ、ギルド内でも趣味が悪いって評判だったけど、ジェイコブが住んでいると聞いて妙に納得する自分がいる。
「ありがとうございます……では屋敷周辺、できれば屋敷の使用人をつかまえて話を聞きたいところですね」
「アデル様……ご無理なさらないでくださいね……?」
ライラ様が、心配そうな瞳で僕を見つめる。
「あはは、もちろんです。ヤバくなりそうでしたらすぐに退散しますよ」
「絶対ですよ……?」
「ええ、約束です」
ライラ様の言葉に、僕は強く頷いた。
◇
僕達はギルドに着くなり、依頼紙が貼られた掲示板を眺める。
「さて……今日はどのクエストを受けましょうか?」
「そうですね……できればゴブリン以外で」
僕がそう言うと、ライラ様が無表情で答えた。
「ええと……それは何故ですか?」
「何というか、その……あのゴブリンの視線が……」
ああ……アイツ等、女性だと見境なしだもんなあ……。
「分かりました。ビッグベアですらライラ様の前ではあの有様だったんです。今日は……」
僕は、掲示板にある依頼紙を一枚取ると。
「この、リザードマン討伐にしましょう」
そう言って、ライラ様に微笑んだ。
「ハンナさんもよろしいですか?」
「はい。むしろ、リザードマンの鱗は、いただいたナイフの切れ味を試すにはうってつけですね」
ハンナさんは腰に佩いている二振りのククリナイフの柄を持ち、口の端を少し持ち上げた。
「では、それでいきましょう」
「「はい!」」
そして、僕達は受付に行ってクエスト受注を……………………あ!
その時、掲示板の隅にあった一枚の依頼紙が目に留まった
「これなら……!」
「? どうなさいました?」
手に取った依頼紙をジッと見つめていた僕に、ライラ様が不思議そうに尋ねてきた。
「はは……どうやら、色々と上手く行きそうです」
「?」
首を傾げるライラ様をよそに、僕は軽い足取りで受付に向かう。
「あ! 待ってください!」
そして、その後をライラ様が慌ててついてきた。
「はいー! いらっしゃ……いませー……」
僕の顔を見るなり、サラが露骨に顔をしかめた。
「クエスト受注の手続きを」
「は、はいー!」
僕が二枚の依頼紙を差し出すと、サラはかっさらうように素早く受け取ると、そそくさとカウンターの向こうへと行ってしまった。
「な、なんだよアイツ……」
そんなサラの後ろ姿に、僕は思わず首を捻った。
「うふふ、私達に関わり合いになるのが嫌なだけですよ。まあ、こちらとしても願い下げですが」
「ですね……」
ハンナさんの言葉に、僕は大いに頷く。
「……まあ今度、ギルドマスターにでも人員の見直しについて忠告しておきましょうか」
「ええ! それがよろしゅうございます!」
サラの向かった先を睨みつけながら、ライラ様がポツリ、と呟くと、ハンナさんが激しく同意した。
……サラがこのギルドから消える日も遠くないようだ。
しばらくすると、サラとは別の女性職員がやって来た。
「お、お待たせいたしました……受付が完了いたしましたので、こちらの依頼紙をどうぞ」
緊張した面持ちで、女性職員が依頼紙を手渡してくれた。
「あ、はい、ありがとうございます。では行きましょうか」
「「はい!」」
僕達はギルドを出ると、リザードマンのいる森を目指した。
◇
「ハアッ!」
「ジャアアッ!?」
ライラ様が放った鎌の一閃は、リザードマンが持つ槍や盾を粉砕しながら、そのままその首を刈り取っていった。
「はは……中級冒険者でも手こずるリザードマンを瞬殺ですか……」
僕はといえば、そんなライラ様を眺めながら、思わず乾いた笑みを浮かべた。
「……これは素晴らしい切れ味ですね」
ザシュ、とリザードマンの首を切り裂く音と共に、ハンナさんが感嘆の声を漏らす。
いや、なんでそんな簡単にリザードマンの背後を取っているんですか!?
「お、お二人共、本当にお強いですね……」
この辺りのリザードマンの群れを一掃したところで、僕は二人にそう声を掛けた。
「い、いえ! それもこれも、アデル様が与えてくださったこの“翼”のお陰です!」
そう言うと、ライラ様は白銀の腕を優しく撫でた。
「ふふ……既にお気づきかもしれませんが、私の職業は[暗殺者]ですので……」
「ああ、やっぱり……」
まさに納得の答えではあるけど、それにしてはその、動きに無駄がないというか……侍女なのに。
「と、とにかく、武器の扱いや性能についても問題なさそうですね」
「「はい!」」
僕の言葉に、二人が元気よく返事をした。
「うん。では、僕はそろそろ……「まま、待って下さい!」」
僕はその場を離れて次のクエストに向かおうとすると、ライラ様に慌てて呼び止められてしまった。
「え、ええと、何でしょうか……?」
「あ、あの! わ、私はまだ少ししっくりしないというか、防具の性能は試してませんし、その……」
手をわたわたとさせながら、色々と理由を述べるライラ様。
「あはは……でしたら、もう少し確認しましょうか」
「っ! は、はい!」
そう言うと、ライラ様が嬉しそうに返事をした。
うん、表情は変わらないけど、その仕草や声、瞳の色だけですごく感情豊かな人だな……。
僕はそんなことを思いながらライラ様を見つめていたら、気がつけば口元が緩んでいた。
「さ、さて……私もこのナイフの重心がずれているような気がしないでもなくはないというか、ですね……」
ハンナさん、おかしな独り言になっていますよ……。
「プッ……あはは! ならちゃんとチェックしないとですね!」
「あう……お、お願いします……」
そんなハンナさんの様子がおかしくなり、僕は思わず吹き出してしまった。
ハンナさんはといえば、恥ずかしかったのか頬を赤く染めていた。
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次回は明日の夜更新!
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