愚王の末路
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■エドガー=フォン=アルグレア視点
「た、大変です!」
リューズの街が壊滅してから三日。
余が国王として政務に勤しんでいる中、近衛兵の一人が議場に飛び込んできた。
「何事だ?」
「ハ……ハッ! その……」
「早く言わぬか」
「ハッ! お、王都近郊にて、一匹の巨大な“紅き竜”が目撃されたとのことです!」
「「「「「っ!?」」」」」
議場で余と共に政務を行っていた大臣や侍従達の表情に、動揺の色が浮かぶ。
「へ、陛下! これは一大事ですぞ!?」
「そ、そうです! 先日のリューズの街の一件をお忘れですか!?」
皆が狼狽え、口々に余の判断を仰ぐ。
そんな中、余とアーガイル卿だけが冷静さを失っていなかった。
「皆の者、落ち着くのだ!」
見かねたアーガイル卿が大臣達を一喝する。
そして、あのことについて皆に話すよう、アーガイル卿が目配せしてきた。
「……陛下」
「うむ」
アーガイル卿に促され、余は一歩前に出ると。
「聞け! 先日来より王国を騒がせている“紅き竜”、これこそ、我が王国の伝承に伝わる“神の眷属”が一柱、“ア=ズライグ”である!」
「「「「「な、何ですと!?」」」」」
余の言葉に、アーガイル卿を除く全員が驚きの声を上げた。
「な、なら“神の眷属”は、今度はこの王国を滅ぼそうとしているのですか!?」
大臣の一人が前に出ると、何かに縋るような瞳で余に尋ねる。
まあ、民間に伝わる『アイザック王の伝説』では、王国に脅威をもたらした“神の眷属”はアイザック王によって封印されたと、間違って伝わっておるからな。
「心配せずともよい……今こそ、王家のみに伝わる『アイザック王の伝説』の真実を語ろう」
余は訥々と皆に語ってみせた。
真なる『アイザック王の伝説』を。
「……つまり、“神の眷属”こそ王国に繁栄をもたらした、アイザック王に仕えし存在。いよいよ“神の眷属”が幾年の時を経て余の代にて封印が解かれたのだ」
「「「「おおおおお……!」」」」」
先程まで動揺の色を隠せなかった大臣達の表情が、今では期待と不安が入り混じったものに変わる。
ふむ……では、あと一押ししてみようぞ。
余はアーガイル卿を手招きし、傍に控えさせると。
「皆の者、しばしここで待つがよい」
余とアーガイル卿は議場を退室し、宮殿へと向かう。
「陛下……それで、聖剣“カレトヴルッフ”はどちらに……?」
「フフ……まあ着いてからのお楽しみだ」
余は薄く笑みを浮かべると、宮殿内に秘密裏に設置した部屋を目指す。
そして。
「ここは……?」
「うむ。ここが、聖剣“カレトヴルッフ”を祀ってある、“英雄の間”である」
余が右手を上げると、侍従達は部屋の扉をゆっくり開くと。
「おお……! あれが……!」
厳かに装飾された部屋の中央に、伝説を忠実に模した岩の台座に、一本の剣が突き刺さるように鎮座されていた。
そして、それを見たアーガイル卿が、感嘆の声を漏らす。
「これこそが、かのアイザック王が女神“ティティス”から授かったとされる、聖剣“カレトヴルッフ”である」
余は台座へと歩を進める。
台座の前に立つと、そっと聖剣の柄を握り締めた。
「ぬん!」
柄に力を込め、一気に剣を引き抜くと、聖剣の刃が光を反射して輝いた。
「フフ……この輝きこそ、聖剣の証」
口の端を持ち上げながら聖剣を眺めていると、一人の侍従が恭しく一礼し、一本の宝飾された鞘を差し出した。
「陛下……どうぞ」
「うむ」
鞘を受け取ると、聖剣を収める。
「では、議場へと戻ろうか。大臣達も首を長くしているであろうからな」
「ハッ!」
余は聖剣を携え、意気揚々と議場へと戻った。
「皆の者、待たせたな」
「「「「「陛下!」」」」」
余は居並ぶ大臣達を一瞥した後、右手に持つ聖剣“カレトヴルッフ”を高々と掲げた。
「刮目せよ! これこそが覇者の証、聖剣“カレトヴルッフ”である! そして、余こそがこの世界の覇王である!」
「国王陛下、万歳!」
「「「「「国王陛下、万歳!」」」」」
余の宣言と共に、アーガイル卿の音頭によって余を讃える大合唱が沸き起こった。
とくと見るがよい。
余こそがアイザック王の伝説を引き継ぐ者である。
◇
「ご報告します! “紅き竜”は“ラムトン城塞”を破壊し、この王都目前まで迫っております!」
「「「「「おおおおお……!」」」」」
近衛兵の報告に、側近達が色めき立つ。
王国最大の要塞、“ラムトン城塞”が破られたのだから、由々しき事態である筈なのに、皆の者のその期待と興奮に満ち目はどうだ。
「フフ……皆、逸っておるわ」
「仕方ありますまい。この日をもって、アルグレア王国が世界に覇を唱えるのですからな」
そう語るアーガイル卿自身も、興奮を隠しきれずに顔を紅潮させていた。
その時。
「陛下! “紅き竜”を確認しました! もう目前です!」
「うむ。さて……では、“ア=ズライグ”を盛大に迎えようではないか!」
余が右手を上げると、控えていた楽団が一斉に演奏を始める。
その雄大な音色は、アルグレア王国の……覇王となる余の門出に相応しいものであった。
「さあ! “神の眷属”よ! この聖剣“カレトヴルッフ”とエドガー=フォン=アルグレアの前に忠誠を誓うがよい!」
鞘から聖剣を抜き、その刃先を天に掲げた。
“ア=ズライグ”は王都上空に飛来し、余の目の前にその姿を現す。
まるで、この覇王に従う忠実なる下僕であるかのように。
すると、“ア=ズライグ”がその大きな口をさらけ出した。
そして。
——目の前が、閃光に包まれた。
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