『天国への階段』からの脱出①
ご覧いただき、ありがとうございます!
——オオオオオオオオオオオオオ……。
穴の底から聞こえるあの声が、さらに大きく、激しく聞こえる。
それも、さっきまでとは異なり、まるで歓喜に震えるかのような、そんな印象を受けた。
「……一体、この底にはなにがあるんでしょうか……」
僕は穴の底を覗き込みながら、ポツリ、と呟く。
「決まっています。主神ファルマのいらっしゃる“神の住まう地”へ至るための路、ですよ」
ボクの呟きを拾ったソフィア様は、ハッキリとした口調で言い切る。
その表情には、瞳には、一点の曇りもなかった。
すると。
「アデル様……何かが来ます」
死神の鎌を構え、ライラ様が正面を見据える。
「またあの連中ですか?」
「いえ……今度は二人、ですね」
「二人?」
僕達が遭遇した赤い帽子を被った連中は、常に五人一組で襲い掛かって来た。
となれば、あのゴブリンもどきとは違う何か……つまり。
「“黄金の旋風”……?」
こんな場所にいる人間なんて、僕達を除けば “黄金の旋風”以外に考えられない。
……僕達が追ってくることを想定して、誰か待ち伏せをしていたか?
「アデル様、私が先行して突撃しますか?」
「……いえ、ハッキリと姿が確認できるまで、ここで待ち構えます」
「……分かりました」
そう言うと、ライラ様が少し不満そうに返事をした。
できれば、連中からなんでこんな真似をしでかしたのか、問い質したいからね。
暗闇の向こうから、少しずつ輪郭が見えてくる。
そして。
「……カルラ?」
「アデル!」
現れたのはカルラだった。
つまり……カルラは、今でもまだ“黄金の旋風”の一味だということ、か……。
「君は、僕達を裏切って何を……「それよりアデル! 早く逃げるわよ!」……え?」
カルラが焦った様子で大声で僕に告げる。
逃げる? カルラは何を言ってるんだ?
「ど、どういうこと?」
「いいから! それは走りながら話すから!」
必死の形相で訴えるカルラに、僕は思わず後ずさった。
「カルラさん……あなたは一体、何を見たのですか……?」
ソフィア様が僕の前に出ると、訝し気な表情でカルラに尋ねると。
「何ですって!? あんなのがいるだなんて、聞いてないわよ!」
逆にカルラは、ソフィア様に詰め寄った。
「ああもう! とにかく、今はそんな問答をしてる場合じゃないの! 早く逃げないと全員死ぬわよ!」
「「「「っ!?」」」」
必死に訴えるカルラの言葉に、僕達は思わず息を飲んだ。
死ぬ? 本当にどういうことなんだ!?
「ここから無事に出られたら全部説明するから! とにかく行くわよ!」
「うわ!?」
カルラは僕の腕を引っ張りながら、無理やりにでも連れて行こうとする。
カルラとは長い付き合いだけど、こんな焦った様子のカルラは見たことがない。
だとすると、本当に……!
「ライラ様! ハンナさん! ソフィア様! カルラの言う通り今すぐ撤退しましょう!」
「「「アデル様!?」」」
僕がそう叫ぶと、三人は驚きの声を上げた。
まさか、カルラの指示に従うとは思ってもみなかったようだ。
「今は考えている余裕はありません! すぐに行動に移さないと!」
「「わ、分かりました!」」
ライラ様とハンナさんは、戸惑いながらも僕の言葉に頷いてくれた。
だけど。
「で、ですが! 『天国への階段』の終点は目の前なんですよ!? そこには“神々の住まう場所”が! 私には人々を導く使命が……!」
やはりソフィア様にとってはこの『天国への階段』は大切なもので、どうしても譲れないようだ。
「アデル! 残りたいなんて言う奴のことなんて放っておきなさい!」
カルラは声を荒げて言う。
何だか、ソフィア様に対して怒っているようにも見える……。
でも、だからってソフィア様をここに捨て置く訳にはいかない。
「ライラ様、ソフィア様を無理やり連れて行ってもらってもいいですか……?」
「え、ええ……それは構いませんが……」
「お願いします」
そう頼むと、ライラ様はソフィア様の傍に寄る。
「では、失礼しますね」
「ちょ、ちょっと!? 離しなさい!」
暴れるソフィア様を担ぎ上げ、ライラ様は階段を昇っていく。
僕もそのすぐ後を追いかけ、ハンナさんと一緒に階段を駆け上が……っ!?
「な!? 師匠!?」
「クハ! 早く逃げるぞ!」
ハンナさんの師匠で、ヘイドンの街で一戦交えたあの“ジャック”という男が、ハンナさんと並走していた。
「な、何でオマエがここにいる!」
「クハハ! 決まってるだろ? 仕事だよ!」
「仕事!? ひょっとして、僕達を暗殺する気か!」
「バーカ、違えよ! 今回は『天国への階段』の探索だ! オマエ等じゃねーよ!」
ジャックという男はそう言っているが、そんなの到底信用できない。
だけど。
「アデル様……恐らく師匠の言う依頼内容は嘘だとは思いますが、それでも、私達を狙っていない、ということは本当です」
ハンナさんは真剣な表情でそう告げる。
「……それはどうして?」
「はい。もし師匠が私達を狙っているのであれば、わざわざ私達にこうやって姿を見せる筈がありません。殺すのであれば、もっと効率的に行います」
僕は疑うような視線を向けながら尋ねると、ハンナさんが淡々と答えてくれた。
……確かにハンナさんの説明は一理ある。
でも、僕はその言葉を素直に受け入れられず、思わずプイ、と顔を背けてしまった。
多分、僕は嫉妬しているんだと思う。
大好きなハンナさんが……僕じゃない男のことの全てを知っているかのように話したから。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




