愚者の窮地
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■エリアル視点
「(……お前達、ここまで来ればカルラにはもう用はない。手筈通り、俺の合図で一斉にやるぞ)」
「「「っ!?」」」
俺の指示に、三人が一斉に息を飲む。
だがそれも一瞬で、三人は覚悟を決めた表情になった。
俺は口の端を吊り上げたまま、三人からも離れ、カルラと一定の距離を保つ。
他の三人も、カルラを中心として三方向に分かれた。
手筈としてはこうだ。
まず、俺がたいまつをゆっくりと回すのを合図に、レジーナがカルラに見つからないように小声で魔法を詠唱し、準備が整ったらたいまつをカルラに向けて投げる。
次に、セシルが盾を構えてカルラに突進し、それを躱そうと動いたところで、ロロがナイフを左側に投げつける。
カルラはロロのナイフを右に躱すだろう。
そこへ、狙い澄ましたようにレジーナが最大火力の攻撃魔法をぶつけるのだ。
これでカルラは瀕死の状態になるだろうが……なあに、ちゃんと問題なく使えればそれでいい。
後は、この『天国への階段』っていう皮肉のきいた場所で、カルラに天国を見せてやろう。
……色々と、な。
三人が配置に就き終わったのを確認し、俺はたいまつをグルグルと回す。
すると、レジーナが強く頷き、その場でジッと立っている。恐らく魔法詠唱しているのだろう。
そして……レジーナがカルラに向かってたいまつを投げた。
「「シッ!」」
それを合図に、セシルとロロがカルラに向かって一斉に飛び出す。
セシルは前面に盾を構え、ロロは両手にナイフを持った。
「……へえ」
そんな中、カルラはゆっくりとした動作で剣を鞘から抜く。
セシルがカルラと肉薄する、その時。
——ガキン!
「なっ!?」
カルラは思い切りセシルの盾に剣を叩きつけると、セシルの身体が泳いでその突進を逸らされた。
その結果、セシルはカルラに無防備な背中をさらけ出す。
——ザク。
「ああああああああああっ!?」
セシルは悲鳴を上げてその場で倒れ込む。
「っ!? コノ! くらえーっ!」
一瞬目を見開いたロロだったが、すぐにカルラに向かって二本のナイフを投げつけた。
だけど。
「あっ!?」
カルラはそのナイフを剣で簡単に弾くと、一気にロロに詰め寄る。
「……馬鹿ね」
「あうっ!?」
剣の柄でカルラに首元を殴られ、腹ばいで床に打ちつけられた。
「フン! 終わりよ! 【風刃……「させねえよ」……え!? キャアアアアアアアアア!?」
レジーナが【風刃】を発動させようとした瞬間、突然暗闇から長身の男が現れ、ナイフでレジーナを切りつけた!?
「クハ! 殺さねえように手加減して切るってのは難しいな、オイ!」
「……しょうがないでしょ? まだコイツ等にはやってもらうことがあるんだから」
「違えねえ」
カルラが冷たい視線でレジーナを見ながらそう言うと、長身の男はケタケタと嗤う。
というか、何が一体どうなってるんだ!?
「クハハ! このバカ、まだ分かってねえみてえだぜ!」
「……仕方ないわ。最近は自慢の剣を振らずに、下の粗末な剣ばかり振ってるんだもの」
「クハハハハハハハハハハ!」
余程面白かったのか、男が大声で笑いながら腹を抱えて床に転げまわった。
「さて……それで? 私を襲った理由は……って、どうせここでの手柄を自分だけのものにして、私は不慮の事故で死亡ってところかしら?」
カルラは剣の切っ先を俺の眉間に合わせ、こちらへゆっくりと歩いてくる。
「クハ! その前にオマエとよろしくヤルつもりだったんじゃねえの?」
「ハア……まあ、多分そうよね……」
男の言葉に、カルラが溜息を吐く。
そして、とうとう剣の先が俺の目と鼻の先に来た。
「ま、待て! カルラ! お前は誤解しているぞ!?」
「誤解?」
「そ、そうだ! 俺が仲間のお前を襲ったりする筈がないだろ!? おお、俺も驚いたよ! まさかレジーナ達がお前を襲おうとするなんて!」
俺は手を前に出して愛想笑いしつつ、じりじりと後ろへと下がる。
「……そうなの?」
カルラが怪訝な表情を浮かべつつも、その剣の切っ先をス、と下ろす。
「あ、ああ、そうだとも! ただ、まさかみんながそこまでカルラと溝があったなんて……俺自身も驚いてるよ……」
言い逃れするならここしかないと思った俺は、カルラに必死で弁明する。
まだだ……まだもう少し、距離をとれば……!
「こ、今回の件は俺からみんなに言い聞かせてカルラに謝罪させる……だからカルラ……みんなを許してやってくれ……」
「…………………………」
——ここだっ!
「俺達……仲まっ!?」
後ろに飛び退いて剣の柄を握ろうとした瞬間、突然後頭部に衝撃が走り……目の前が真っ暗になった。
◇
「……………………なさい」
ん……誰かが何か言ってる……?
「起きなさい」
「グハッ!?」
突然腹に衝撃が走り、俺は慌てて目を開ける。
「ふう……本当にグズね」
「カ、カルラ……?」
目の前には、残念なものでも見るかのような表情で見下ろすカルラがいた。
「え……? え……!?」
というか俺……なんで縛られてるんだ!?
状況が分からず困惑しながら両隣りを見ると、同じようにレジーナ達も縛られて座っていた。
「さて……アンタ達は“レッドキャップ”を撃退したこの私に不意打ちしてきた訳だけど……何か言うことある?」
「い、いや……というかその“レッドキャップ”とは何なんだ!?」
「……アンタ達も見たでしょ? 階段で私達を襲ってきた、国王直属の暗殺部隊よ」
「「「「はあ!?」」」」
カルラから返って来た答えに、俺達は悲鳴に似た声を上げる。
な、何だって俺達が国王陛下に狙われたんだ!?
「……当然でしょ? この『天国への階段』って場所は、それ程ヤバイところなの……ねえ? “ジャック”」
「クハ! ま、そうだな」
“ジャック”と呼ばれた男は、カルラの問い掛けにニヤニヤしながら頷いた。
「お、お前……この男と知り合いなのか……?」
「知り合い……というか、お互い協力関係にあるってだけよ」
「クハハ、違えねえ」
い、いつの間にこんな男と知り合いに……?
「まあ、そんなことは置いといて、私を襲ってきたアンタ達を殺さずに、こうやってまだ生かしてる理由……何だか分かる?」
「い、いや……」
無表情で尋ねるカルラに、俺はかぶりを振った。
すると。
「んふ♪ 簡単よ、アンタ達に手伝って欲しいことがあるの。もちろん協力してくれるわよね?」
カルラはニタア、と口の端を吊り上げ、今まで見たことのないような表情で嗤った。
「あ、もちろん嫌だなんて言わせないわよ? だって、アンタがそそのかしたせいで、私はアデルに拒絶されてしまったんだもの」
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