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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第14章・魔深き初冬
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第278話・新しい研究


 セルギウスは愕然とした思いを抱きながら、すぐさま音断の魔法を掛け直し、声が聞こえる範囲を自分とクレイドルとルーリアの三人だけに絞った。


 ……たった一度、感覚を共有しただけで魔法を覚えてしまうとは。


 ルーリアの説明では、感覚を共通させて何度か補助魔法を使えば、少しは覚えやすくなるのでは? という試み程度のものだった。

 実際に魔法の効果を目にして手本とした方が効率的であることを、セルギウスも知っている。

 しかし、ルーリアがもたらした結果は、セルギウスの予想を遥かに超越したものであった。


 今の魔法に気付いたのは──。


 素早く周囲を見回し、他の者の位置を確認する。ウォルクスとナキスルビアは手合わせ中で、リュッカとエルバーはタイムボックスから料理を出して食べている。


 ──よし、見られていない。


「レイドは今の魔法をある程度学んでいたのか?」

「いや、知っていたのは詠唱名と効果くらいだ」

「……そうか」


 これはルーリアだから成せることなのか、他の者でも同じことが起こるのか、今までこのやり方を試した者はいなかったのか。

 そう考えるセルギウスには思いつきもしなかった方法だ。


 そもそも無償で他人に魔法を教えること自体、自分の優位性を保ちたいと思う者が多い地上界では有り得ないことだ。

 ルーリアでなければ、この教え方を思いつくことはなかっただろう。


 ……いったい、どこから検証すればいいのか。


 考えがまとまらないセルギウスは、無事に魔法を教えることが出来たことを喜び、次はどれにするかクレイドルに尋ねるルーリアを即座に止めた。


「待て、ルリ。この場で、その方法を続けるのは危険すぎる。今のは周りに大して影響が出ない魔法だったから問題なかったが、強い魔力の流れや効果が表れれば、ルリたちの存在に気付く者が出てくる」


 本当は存在に気付かれることより、この方法を他人に知られることの方が危険なのだが、明言は避けておく。余計な混乱を招くかも知れないから、ウォルクスたちにも隠しておいた方が良い。


「もし続けるのであれば、場所を移した方が良いのだが」

「……他の場所、ですか」


 いくら音と姿を消していても、使う魔法の影響までは消せないと言われ、ルーリアは頭を悩ませる。

 人目につかず、安全に魔法の練習が出来る場所なんて学園にあるだろうか? 闘技場の地下の音断部屋では魔法の効果までは防げないから駄目だと思う。


 ……う〜ん。そうなると、大丈夫な場所って限られてきますよね。


 それなら薬学学科の研究室はどうだろう?

 本来の使い方からはかけ離れるけど、あそこなら、どんなに無茶なことをしても大丈夫だったはずだ。記憶もしっかりと残る。

 建前上、何か薬を作る必要はあるけれど、ちゃんと許可さえ取れば、助手や実験体となる人を中に入れても良いとされている。


「じゃあ、理部の研究室を使いますか?」

「……理部の研究室?」

「ちょっと海の家に似ていて、研究室の中で起こったことは記憶以外、外に影響を残さないんです。前日に使用申請を出さなければいけないから、使えるとしても明日からなんですけど」


 研究室について簡単に説明すると、クレイドルから「なるほど。ルリはそこで研究をしていたのか」と、ひんやりする笑顔を向けられた。


 ……しまった! 怒られる!?


 そういえば最初の頃、リンチペックは危険だから手を出すな、忘れろ、と言われていたことを思い出した。解毒方法や排除の仕方を、どこでどんな風に知ったのか、ちゃんとクレイドルに話したことはない。

 自分の中ではすっかり終わったことだったから、つい口が滑ってしまった。

 約束を破って、こっそり研究していたことを、うっかり自白してしまうなんて、間抜けにも程がある。


「あぁあ、あのっ、でも、研究室を使うなら、何でもいいから薬の作り方を調べたりする必要があるんですけど、何か作って欲しい物とかありますか?」


 叱られたくないルーリアは慌てて頭と口を動かしたが、じろりとクレイドルに睨まれる。


「そんなことを言われても、いきなり過ぎてすぐには思いつかないぞ」

「……で、ですよね」


 だったらミツバチの巣から採れた蜜蝋で何か作れないか調べることにしようかな、とルーリアが考えていると、クレイドルはハッとした顔で口を開いた。


「薬と言えば、ちょっと変わったレシピがあるという話を聞いたんだが……」


 そう言いかけたクレイドルは一緒に話を聞いていたセルギウスに目を向け、「これもここで大っぴらに話すことじゃないな」と口を噤んだ。

 薬のレシピということは、薬屋のヨングからの情報だろうか?


「……いろいろ制限があってやり辛いな。ルリ、あとで手紙を送るから、それで良かったら明日の午後の授業に、その研究室とやらを押さえておいてくれ。詳しい話は、その時にまとめてしよう」

「分かりました」

「私も二人に話したいことがあるから参加しても良いだろうか?」

「もちろんです」


 ここまで協力してもらったのに、途中から仲間外れにするつもりはない。薬の研究は別だとしても、魔力の扱いに慣れているセルギウスには、いてもらった方が安心できる。


「じゃあ、今日はここまでにして、話の続きはまた明日ということで」

「はい」

「了承した」


 その後は姿を消したまま、みんなに料理を試食してもらい、休み中の話を聞きながら、いつものように感想を聞かせてもらった。



 少しだけ早めに帰宅したルーリアは、学園へ送る紙ヒコーキ用の紙に必要なことを書いていく。

 するとそこへ、クレイドルから魔術具の手紙が届いた。


「……クレイドルの手紙は羽根の形だったんですね。初めて見ました」


 ふわりと手に乗った羽根は、すぐに手紙へと変わってしまった。綺麗だったから、ちょっと勿体ない。


「えーと、アルヴェパルフのお香?」


 手紙に書いてあったのは、魔虫の蜂の巣で作る魔力回復薬のレシピだった。


「へぇー。飲まない回復薬なんて物もあるんですね」


 アルヴェパルフのお香は焚いた煙を吸わせて魔力を回復させるアイテムで、魔力を枯渇させて意識を失った重症者などに使う物らしい。

 ヨングの店で扱っていたのだが、とある事情で今は品切れとなっているそうだ。


 なんと、花の受粉を手伝ってくれていた虫たちを殺し、花蜜だけを奪っていく魔虫の蜂に激怒した花の妖精(メリボイア)があちこちで討伐を行い、材料の魔虫の蜂の巣が手に入らなくなっているという。


「……魔虫の蜂の天敵が花の妖精って……」


 花の妖精にとっての益虫を殺してしまう魔物の蜂は、駆除しなければならない害虫のようだ。

 農業学科で畑の手入れをしてきたから、害虫に頭を悩ませる花の妖精の気持ちはよく分かる。

 けど、花蜜を分けてもらえなかったら魔虫の蜂は絶滅してしまうのでは、と心配にもなった。

 もしかしたらこの森にいる蜂たちも、結界がなかったら討伐対象とされていたのかも知れない。


 ……妖精って怒らせると怖い!


 この森では春になると、毎年たくさんの女王蜂候補が誕生する。いつもなら、自分たちで管理できる数の女王蜂候補だけを残し、他はユヒムに結界の外の人が住んでいない地域に放ってもらっていた。


 ……来年の春は外に放たない方がいいかも。


 すぐに害虫として討伐されてしまうくらいなら、花畑を増やしてこの森で育ててあげたい。

 そうなってくると、セフェルの手伝いを増やすことは必須だ。ラメールたちに相談するより、クレイドルからヨングに尋ねてもらった方が良いような気がした。


 ルーリアは研究室の利用申し込みと、薬の材料の要望や助手を入れることを紙ヒコーキで学園に送り、クレイドルには、セフェルの手伝いが出来る妖精がいないかヨングに尋ねて欲しい、と返事を出した。




 そして、次の日の午後の授業。

 ルーリアとクレイドルとセルギウスの三人は、理部の研究棟に来ていた。ラスの姿はなく、付き添い人はフェルドラルだけだ。


「えっと、2-8、と」


 割り当てられた研究室の扉にルーリアが手をかけると、カチリと鍵が外れたような音がした。

 足を踏み入れた室内には自動で明かりがつき、研究台の上にそろえられた道具や材料が目に映る。


「フェル、今日は二人から個人的な話を聞くので、魔法で音と姿を消したいと思っています」

「それは構いませんが、それでしたら武器を外し、こちらの台に置いてもらいましょうか」


 魔法を使うのはフェルドラル抜きで話がしたい、という意味だけど、研究室内であれば何かあっても身に危険が及ぶことはないと知っているからか、あっさりと許可を出してくれた。


外界音断(カーシャ・エイク)外形隠遁(ルジオラ・フィルグ)


 クレイドルとセルギウスが真剣な顔を見合わせ、どちらが先に話すか互いに窺う様子を見せる。

 だが、先に口を開いたのはルーリアだった。


「セルギウス、わたしの本当の名前はルーリアです」

「!」

「……? どうした、突然?」


 ルーリアが名乗ると、セルギウスは軽く目を見張り、クレイドルは首を傾げる。


「え? わたし、クレイドルにセルギウスの名前と魔族であることを教えてもらいましたけど、自分の名前はちゃんと名乗っていませんでしたから。あ、クレイドルが伝えてくれていたんですか?」

「いや、オレはそんな勝手なことはしない」


 とっくに名乗り合っているものだと思っていた、とクレイドルは言い、この際だからと、誰が何を知っているのか確認し合うことになった。


「あの、せっかくなので、ここでは本名で呼び合いませんか?」

「分かった」


 クレイドルは即答し、セルギウスも躊躇った顔をした後、ゆっくりと頷く。今さら感が強いけど、ちゃんと確認しておくのは大事なことだ。

 自分が知っているのは、クレイドルとセルギウスが魔族であること、クレイドルの故郷と今住んでいる国がサンキシュであることくらいだ。


「セルギウスは魔族領の領主の子だから、特待生だったんですね」

「ああ、子と言っても実子ではなく養子だがな。入園を申し込んだ時、学園からそうするように勧められたらしい」


 基準さえ満たせば、どの種族の者でも学園に入れるが、ダイアランはそうではない、とセルギウスは言う。


「特に魔族は自力で人族の目を欺くことが出来なければ、首都であるダイアグラムに足を踏み入れるのは難しいだろう」


 昔、魔族と人族が争っていた頃の弊害だと、少し切なそうな表情を見せたセルギウスは、すぐに昨日の補助魔法の練習へと話題を切り替えた。



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