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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第14章・魔深き初冬
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第276話・魔力を扱う練習


 次の日の最後の授業時間。

 今日のこの時間は、クレイドルから魔力の抑え方を習うことになっている。

 ルーリアは畑の手入れを先の授業時間で終わらせ、言われた通り、人目につかない畑の隅の方に座ってクレイドルが来るのを待っていた。


「ルリ、待たせたか?」

「あれ? どうしてセルまで?」


 なぜかセルギウスも一緒だ。

 本人は全く気にしていない顔で立っているけど、セルギウスのような騎士服で畑に立つのは似合わないのだと初めて知った。綺麗な靴が汚れてしまいそうで、すごく気になる。


「魔力の扱いはオレよりセルの方が詳しい。少しだけ手伝ってもらおうと思ってな」

「えっ、そんな、悪いですよ」

「ルリにはいつも差し入れをしてもらっている。その恩を少し返すだけだ。私は補助のようなものだから気にしなくていい」


 二人掛かりでにこやかに言われてしまえば、断るのは難しい。教わる側であるルーリアは素直に従うことにした。


「ちょっとだけ場所を移動するぞ」

「どこへ行くんですか?」

「この奥にある森だ。そこなら誰も来ない」


 付き添い人を二人引き連れ、三人は木々の生い茂る手つかずの森の中へと分け入る。

 魔物は出ないけど、ちょっとした冒険のようだ。


「この辺りでいいだろう、ラス」

「かしこまりました」


 整った道もベンチもないような場所で何をするのかと思っていたら、セルギウスの付き添い人のラスが懐中時計のような物を懐から取り出した。

 ラスがカチリとボタンを押すと、草の上に一瞬で円形の大きな絨毯と丸テーブルと椅子のセットが現れる。


「わぁっ、すごい! 海の家のランプみたい!」

「座る場所などがない時に外で使う魔術具だ。この絨毯の上は音断の魔法が掛かっているから、会話の内容も外に漏れることはない」


 これだけでもセルに声をかけて良かった、というクレイドルの呟きを聞きながら、ルーリアたちは椅子に座った。

 セルギウスの魔法で姿を消し、ラスとフェルドラルには人が近付かないように周りを見張ってもらっている。


「まずは、ルリが魔力を見るところからだな」

「は、はい。よろしくお願いします」


 クレイドルは少し考えを巡らせた後、右手の人差し指を立ててルーリアの目の前に持ってくる。


「指の先を見ていて少しでも変化を感じたら言ってくれ」

「はい」


 じっと見つめていると、一瞬だけユラッと指先が揺れたように見えた。


「今、揺れました」

「そうか。これなら案外早く終わるかも知れないな」


 クレイドルがホッとしたように微笑み、感知能力は問題ないと告げる。魔力がはっきり見えるようになると、人の持つ魔力の属性の色も見えるようになるらしい。


「あの、これって自分の魔力も見ることが出来るようになるんですか?」

「なっ!?」


 何気なく口にした疑問に、クレイドルとセルギウスは驚いて目を見張った。

 そんなに変なことを言ってしまったのだろうか、と不安になる。


「ルリは人の魔力だけじゃなくて、自分の魔力も感知できていなかったのか」

「それでは魔術具の作製も苦労しただろう。回復の目安はどうしていたのだ?」

「……それは、その、何となくで……」


 ちょっと叱られているような気分になりながら、そろそろと話すと、二人から信じられないと呆れられてしまった。

 それが分からなければ生命に関わることもあるから、自分の魔力を感知することは魔力を持つ者なら出来て当たり前のことなのだそうだ。


「そういうことなら、まずはルリに自分の魔力を認識させないといけないな」


 クレイドルはルーリアの前に右手を差し出し、手の平を上に向けた。


「ルリの利き手を乗せてくれ。ちょっと荒っぽいが、これが一番手っ取り早いと思う。自分の魔力に他人の魔力が干渉することで感じる忌避感を利用しようと思う」

「は、はい」


 何をするのか分からなくて怖いけど、左手をクレイドルの手の平の上にそっと重ねる。


「ルリは自分の手をしっかり見ているように。途中で離れそうになったら掴むかも知れないが、痛むようなことではないから慌てなくてもいい。自分の魔力の色が見えたら教えてくれ」

「はい」


 手を乗せて少しすると、クレイドルの手の平から体温が伝わってきて、ほんのり温かくなる。見た目の変化は何もない。

 ドキドキしながら、しばらくじっと見つめていると、ゾワッと自分の手を何かが伝ってくる感触があった。


「──ッ!?」


 人の指先がゆっくりと這ってくるような感覚に、思わずビクッとして手を引きそうになる。

 けれど、クレイドルはしっかりとルーリアの手を掴んでいて離さない。


「もう少し我慢してくれ」

「──っ」


 じっくりと、ゆっくりと。何かが左手から腕を伝って肌の外側をじわじわと覆い、少しずつ身体の中に入ってこようとしている感覚がある。


「……や……っ」

「もう少しだ」


 左手が痺れたように鈍くなり、耐えようとしてもじっとしていられなくなる。息が自然と荒くなり、涙がじわりと込み上げてきた。


「──も、う……っ」


 これ以上は無理だと右手で左腕をぎゅっと掴み、涙をにじませた目を自分の左手に向ける。

 すると、淡い赤色のクレイドルの魔力が見えた。

 自分の左腕の肘から先をクレイドルの魔力が包み込んでいるのを、必死に耐えて震えながら目に映す。


「レイド、ルリの様子が……!」


 セルギウスがクレイドルの腕を掴んで無理やり止めるのと、ルーリアが意識を失うのはほぼ同時だった。




 ──……んぅ……っ。


 気がついたルーリアは、ズキッとする頭痛とくらくらと揺れる感覚に表情を歪める。まるでひどい魔力酔いを起こしてしまったかのようだ。


 ……うぁ、地面が、回、る……。


 魔力酔いは短時間に魔力の増減を繰り返した時に起こるもので、酒の二日酔いに似ている。

 起き上がるどころか、目を開けるのも辛い。

 くらっとする感覚に目を閉じて耐えていると、額にひんやりとする手が乗せられた。


 ……あ、気持ちいい。


 すぅっと熱が引いていくようだ。


「……核でもない場所から魔力供給をするなど、いったい何を考えている?」


 心地好い感覚に身を委ねていると、頭上からピリッとしたセルギウスの声が聞こえてきた。

 冷静な口調なのに怒っているような雰囲気で、どうやらクレイドルに説教をしているようだ。


「波長の合わない魔力を無理やり身体に流せばどうなるか、知らない訳ではないだろう? 波長が合えば魔力を回復させられるが、合うのはせいぜい血の繋がった者くらいだ。波長が合わなければ、ただ苦痛を与えるだけになる」


 何をしようとしていたのか問い詰めるセルギウスの声に、クレイドルは慌てたように反論する。


「いや、あれは魔力供給じゃない。オレの故郷では、幼い子供に他人の魔力との反発を教える時によく使われていた方法だ。ついでに自分の魔力を感知しやすくなるんだが……」


 うん、あれは魔力供給ではなかった、とルーリアも心の中で頷く。魔力供給はエルシアから何度も受けたことがあるが、魔力の流れる場所が違う。

 血の流れに似た部分に干渉するのが魔力供給で、クレイドルが触れたのは皮膚のような表面的な部分だ。

 クレイドルを庇いたいけど、まだ目の前がくらくらしてルーリアは声が出せなかった。


「お前が今、ルリにしようとしたことは子供向けの方法ではない。ルリの魔力に合わせて自分の魔力を込めていただろう?」

「……あ」


 セルギウスの指摘に気まずそうな声を上げ、クレイドルは口を噤む。


「あれだけの魔力を流せば、外部からの魔力供給と同じだ。すぐに止めなかった私も悪かったが、次からは何をするのか先に説明して欲しい。こんな形でルリを苦しめるのは、お前の望むところではないだろう?」

「……分かった。済まない」


 二人のそんなやり取りを、ぼーっとする頭で聞いていると、左右で入れ換えるように、またひんやりとする手が額に乗せられた。すごく気持ちいい。


 ……って、これ、誰の手?


 クレイドルの手は温かかったから違うと思う。


 ……え、まさか。


 それに気付いてしまったら、自分が今どんな状態にあるのか気になって仕方がなくなった。

 床に寝かされているようだけど、椅子から落ちてしまったのだろうか。

 意を決して薄く目を開くと、心配そうにこちらを覗き込むセルギウスの姿が目に映った。

 跪くように腰を落としたセルギウスの手が自分の額に乗っている。


 ……ひ、ひいぃっ、やっぱり!?


「! ルリ、気がついたか?」

「まだ無理に身体を起こさない方がいい」


 声の聞こえ具合からクレイドルも近くにいるのは分かるが、頭が動かせないため、その姿は視界に入ってこない。

 左手はまだ痺れたような感覚が残っており、右手を動かすと身体の下に布が敷いてあるような手触りがあった。


「セル、頼む」

「分かった」


 あらかじめ目を覚ました後のことを決めていたのか、セルギウスは迷いなくルーリアの左手を取り、脈を測るように軽く指を添える。


「まだレイドの魔力が体内に残っているな。このままでは辛いだろう。ルリ、少し腕に触れるが、いいか?」

「……は、い」


 何とか声を絞り出して返事をする。

 セルギウスはルーリアの服の袖を軽くまくり、左手首に触れようとして、びくりと手を止めた。

 そこにあるのは、先代勇者のお守りだ。


「──……」


 一瞬だけ躊躇った後、セルギウスは何事もなかった顔で左手の指先を袖の中に入れ、お守りを避けてルーリアの肌に触れた。

 ひやりとするセルギウスの指に、ルーリアの手がピクリと反応する。


「…………はぁ……」


 強ばっていた身体から力が抜け、ルーリアの口から吐息が漏れた。

 セルギウスの指が触れている場所から鈍い感覚が抜け、身体がすぅっと楽になっていく。

 ディアスに毒を抜いてもらった時とよく似ていた。


「……これは、治癒魔法ですか?」


 ルーリアは驚いた目でセルギウスを見上げた。

 今までの魔力酔いの経験から言えば、治るまで二日くらいはかかると思っていたのに、少しの怠さを残すだけとなっている。


「特に考えたことはないが、治療に使えるのであれば、そうなのかも知れない。……少しは顔色が良くなったようだな」


 袖から指先を抜いたセルギウスは、もう一度ルーリアの左手を取り、指を添えて魔力の流れを確認した後、安心したように息を吐いた。


「あの、セル、ありがとうございました。お蔭で、かなり楽になりました」

「魔力の流れは安定しているが、今日はもう無理をせずに帰った方がいいだろう。レイド、門まで送って行くのは任せる」

「ああ、分かった。ルリ、本当に済まなかった。まだ歩くのが辛いなら、門まで抱えて行くが……」

「…………へ?」


 体調がだいぶ良くなって、クレイドルの声がどこから聞こえてくるのか分かったルーリアは、バッと自分の頭の上に目を向けた。

 心配そうに自分を見下ろすクレイドルと目が合う。


「………………ふぇえぇぇーっ!?」


 一瞬、固まった後に毛を逆立てて飛び退くと、身体の下に敷いていた布はセルギウスのマントで、今まで頭を置いていたのは、胡座(あぐら)をかいたクレイドルの足の間にマントを丸めて置いただけの場所だったことが分かった。なんて所に寝かせているのか。


「お、おおお、お構いなく~~!!」


 そう叫んで全力ダッシュで逃げ出したものの、すぐにコケて倒れてしまい、結局、自分のマントで人目から隠すように包まれ、門までクレイドルのお姫様抱っこで運ばれてしまった。


 ……し、死ぬ! 恥ずかしくて死んじゃう!


 魔力酔いなんてしてる場合じゃなかった。



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