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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第14章・魔深き初冬
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第271話・神敵討伐


()れ者め! エルシアに横恋慕して気でも狂ったか!?」


 一方的にエルシアに想いを寄せたガインが暴走しているのだと、ゴズドゥールは決めつける。

 すぐさま参列者たちの後方にいる騎士たちに向かい、怒声を浴びせた。


「えぇい、何をボサッとしている! 早くこの無礼者を捕らえんか!!」


 周りはシンと静まり返っているため、ゴズドゥールの声が届いていないということはない。

 しかし、騎士たちは冷やかな目を向けるだけで、誰も動こうとはしなかった。


 騎士に限らず、この場にいる者は皆、今回の討伐へと至った真相をすでに知っている。

 何も知らないのは神敵となった者たちだけだ。

 ただ、それとガインがエルシアのことを『俺の女』と口にしたことは別問題であった。


「……まさか、神官と騎士が!?」

「次期当主の相手が獣人だなどと……」

「しかし、エルシア様に触れてもフェルドラルに弾かれておらぬぞ」

「フェルドラルと言えば神具であろう? テイルアーク様がお認めになられたということか!?」


 騎士と神官がそのような関係にあるなど、前代未聞。多くの者が驚きに満ちた顔で、ことの成り行きを見守っていた。


「何たる無法者。エルシアを放しなさい!」


 騎士も神官も、それぞれに思うところがあり動けないのだと判断し、ベリストテジアは自らガインに攻撃魔法を放つ。

 だが、それを防いだのはガインの胸に寄り添い、軽く片手を上げたエルシアであった。


「エルシア! まさか、本気でそのような下賎の者と……!? もしや操られているのですか!?」


 憤るように声を荒らげるベリストテジアに、しっかりと意思のこもった瞳を向け、エルシアは静かに首を振る。


「ガインを伯母様と一緒にしないでください。私は自分の意思でガインの隣にいるのです。……それに私の夫を下賎などと、例え伯母様であっても許せません!」


 エルシアの怒りから漏れ出た魔力が大気を震わせ、風の刃へと変わる。

 その様子に顔色を変えたベリストテジアは身に着けていた魔術具に触れ、防御壁を張った。


「ッ!」


 しかし、エルシアの持つ膨大な魔力との差から、攻撃を防ぎ切れなかったベリストテジアの頬に細く赤い線が引かれる。


「…………」


 そっと自分の頬に触れ、手の平に付いた血を目にしたベリストテジアは愕然とした。

 今まで自分の言葉に逆らうことなく従順であったエルシアからの攻撃に、ベリストテジアの目が大きく見開かれる。


「……ゴズドゥールのどこに不満があると言うのです? これほどまでに純血で血筋の確かなエルフは他にはいないでしょう?」

「伯母様。私が婚姻相手に求めるものは、血統や同じ種族であることではありません」

「では、何を求めると言うのです?」


 心を落ち着かせるように深呼吸し、エルシアはまっすぐにベリストテジアを見据えた。


「私が求めるものは、嘘偽りのない心です」


 予想外の答えを返された顔でベリストテジアは呆然となり、「……心」と呟く。

 その隙に、エルシアはスキルの神の眼を使い、ベリストテジアの記憶と心の中を覗いた。

 知りたいのは、自分の母を死に追いやるほど憎んだ、その理由だ。


 エルシアの瞳が虹色に輝き、意識がベリストテジアへと移る。ここから先は、エルシアにしか踏み込めない領域だ。

 ガインはエルシアの守りをフェルドラルとクインハートに任せ、ゴズドゥールを一発殴り飛ばし、キースクリフに鋭い視線を向けた。


「神敵の討伐を開始する!」

「はっ!」


 号令と共に、ガインは剣を床に突き刺し、魔力を流す。すると、神敵となった者たちの足下へ、次々と動きを封じる魔法陣が浮かび上がった。


「何だ、これは!?」

「う、動けん!!」


 愕然とした声を上げる神敵にキースクリフは水の精霊を差し向ける。美しい人魚の姿をした精霊たちは空中を泳ぐように進み、神敵に近付くと、その姿を恐ろしい海獣へと変貌させた。

 鋭い爪で切り裂き、大きな牙で骨を噛み砕き、丸呑みにする。


「わざわざテイルアーク様が罪を示されたということは、同じ目に遭う覚悟があったのか問うほどの罰が、お前には必要だということだ。オレは男には優しくないから、楽に死ねると思うなよ」


 神が見せた映像の中で、幼子の生命を削るように(もてあそ)んでいた者を見つけ、キースクリフは甘く微笑む。


「ひッ! ひいぃッ! く、来るなァアッ!」


 キースクリフの容赦ない神罰により、リストからは徐々に神敵の名が消えていった。

 ガインが拘束の魔法陣を発動し終えた後、騎士たちによって神殿の魔術具であるハープスローの輪を手と足にはめられた神敵たちは、合流したトルテとリーフェに引き渡され処分される。


 心の準備はしていても、実際に濃い血の匂いが館中に広がると、戦闘経験のないエルフたちは顔面蒼白となり、具合を悪くする者も多数出てきた。

 騎士たちを駒として見下していた神官の中には、自分よりも格上のエルフが為す術もなく騎士の手によって生命を散らす様を見て、考えを改める者もいた。


 エルシアが事前に仕込んでいた拘束の魔法陣に加え、フェルドラルによる風の縛りがあったにも関わらず、それでも複数の魔術具や配下の生命を犠牲にして、当主の館から逃げ出したエルフが数名いる。


「その者たちは恐らく自分の屋敷に逃げ込むはずだ。どんな手を隠し持っているか分からんから、深追いはするな。ダジェットの指示に従って行動しろ」

「はっ!」


 ミンシェッド家の者にとって自分の屋敷とは、どこよりも信頼できる場所である。逃げ込む場所と言えば、この界層ではそこしかなかった。


 式場にいた騎士の半数をダジェットの所へ向かわせ、ガインは残った神敵の処分に加わる。

 他の者には生身の惨殺現場のように見えているだろうが、神兵には神敵が腐った死体のようにしか見えていない。その異質な姿を目の当たりにすれば、剣を向けることに一切の迷いも浮かばなかった。


 館内にいた神敵があらかた片付き、リストに残った名前が10名ほどとなったところで、ガインはクインハートと交代する。


 ゴズドゥールにチラリと目を向けると、拘束の魔法陣に捕らわれ、床に手と膝をついてブツブツと何かを口にしていた。

 ベリストテジアとゴズドゥールの処分は、エルシアの確認が済んでからとなっている。

 神官長の座に長く就いていたためか、さすがにベリストテジアの記憶量はそれなりに多いようだった。


 エルシアはベリストテジアの記憶にじっと目を凝らす。


 ……これは、記憶が途中で途切れている?


 ベリストテジアの記憶には、切り取られたような不自然な箇所がいくつかあった。

 しかし今は一つずつ、じっくり考えている余裕はない。エルシアは全て残さず、記憶を見ることだけを優先させた。


 与えられた機会は、この一度だけ。

 ベリストテジアの記憶を(さかのぼ)り、その罪やミンシェッド家について隠匿(いんとく)されていることを(つまび)らかにしなければならない。


 ベリストテジアの記憶を探る中、エルシアは一人の女性を目にする。上品で淑やかに微笑む、優しい雰囲気のエルフだ。

 記憶の中のベリストテジアが、その人物を妬ましく思いながら名前を呼ぶ。


 …………この方が、お母様。


 どんなに触れたくても、これは過去の記憶。

 伸ばしかけた手を胸の前でぎゅっと握り、自分によく似た母の姿を、エルシアはしっかりとその目に焼きつけた。



 あともう少しで全てを見終わるという時、エルシアの視界はガインの手で覆われ、強制的にスキルを解除される。


「──……ガイン!?」

「済まない、エルシア。突然、バカ息子の方が暴走した」

「……暴走?」


 言われて、ガインが見ている先に目を向けると、拘束の魔法陣の上にゴズドゥールのものと思われる(くるぶし)から下の足首が二つ、千切れたように残されていた。


「ッこれは!?」

「俺にもよく分からん。バカ息子にリーフェがハープスローの輪をはめようとしたら、急に様子がおかしくなった」


 エルシアが神の眼を使っている隙に、トルテはベリストテジアの手足にハープスローの輪をはめ、魔力などの攻撃の元となる力を封じた。

 こちらは何も問題なかった。

 同じように、リーフェがゴズドゥールにも枷をはめようとすると、突如、その身体から黒いモヤのようなものが立ち昇ったのだ。


 危険を感じたリーフェが距離を取るのと、黒いモヤが一気に膨れ上がるのは、ほぼ同時だった。

 そして黒いモヤはベリストテジアも呑み込み、一瞬で消えたかと思えば、跡にはゴズドゥールの足首だけが残されていた。


「……いったい何があったのでしょう?」

「さぁな。どちらにしても、ヤツらも自分の屋敷に逃げ込んだと思った方がいいだろう」


 ゴズドゥールの暴走は予想外だが、ベリストテジアが屋敷に逃げ込むことは想定していた。

 当主の館で決着のつかなかった神敵については、順に屋敷を攻める予定となっている。

 大切なのは、こちらに被害を出さないことだ。



 館の片付けを他の神官や騎士に任せ、ダジェットの所へ向かう途中、ガインたちはリューズベルトと合流した。


「危険なことを任せて済まない。そっちはどうだった?」

「罠の解除が出来る騎士がいたから、特に問題はなかった。言われた屋敷の地下にいた者は牢から出してある。見張り役などは捕らえて騎士に渡して、ケガ人の治療は神殿にいる神官に任せてきた」

「そうか、ありがとう。助かった者がいるなら良かった」


 神敵の神官を当主の館に呼び出している間、リューズベルトには生存している人狩りの被害者たちを救出してもらっていた。

 人探しが得意な鼻の利く獣人の騎士たちもいたから、そこまで苦労はしなかったらしい。


「……そういえば、気になったことが一つあるんだが」

「何だ?」

「助け出した者の中に、ひどいヤケドを負った男がいたんだが、ケガ人を神殿に運んだ者に後で尋ねたら、そんな男はいなかったと言われたんだ」


 その男は牢の中で手足を魔術具の鎖で繋がれ、生きているのが不思議なくらい全身が焼けただれ、顔の判別も出来ない状態だったという。


「そこまでひどい状態でしたら、その場である程度は治療されたのではないでしょうか? その後で神殿に運ばれていたら、ヤケドと言っても分かる者がいなかったのかも知れません」

「そうか。それならいいが」


 ずっと神殿にいてケガ人の対応をしていたトルテの言葉にリューズベルトは納得したように頷く。


「とにかく、ここからは長丁場となるはずだ。ダジェットと合流したら、今後のことを話し合いたいと思う」

「分かった」

「かしこまりました」


 その後、ガインたちは神敵となった神官の屋敷を一つずつ、着実に攻め落としていった。



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