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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第7章・波乱の創食祭
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第94話・神の声と課題発表


「消えるとは、どういうことだ?」


 そんな話はユヒムから聞いていない。

 今さら呼び戻す訳にもいかないから、ガインは戸惑った顔になった。


「えーと、なんて説明したらいいのか分からないんですけど。たぶん発表の間だけ、神様によって課題を聞く人は、みんなどこかに移動させられるんじゃないかと思います。1人1人、別のどこかへ」


 別のどこか……。


「みんな離れ離れになるってことですか?」

「……まぁ、そういうことになるのかな? たぶん。よくは分からないの。私は課題発表を聞かずに残ったことが一度もないから」


 聞かずに残る?

 聞く人は神に移動させられる?


 シャルティエの言おうとしていることはよく分からないけれど、祭りに来た人たちの目的が神の声を聞くことにあるのなら、残る者はほとんどいないということだろう。

 そうなると、課題を聞かないで残る方が危険なのかも知れない。


「お父さんはどうするんですか?」

「うーん、そうだなぁ……」

「わたくしは残りますわ」

「……だったら、俺も残るか。俺が課題発表を聞いても意味がないからな。それに、もし身体が移動していなかったとしたら、そっちを守る必要もあるだろう」


 フェルドラルとガインは会場に残ることを選んだ。


「ルーリアもシャルティエも決して油断しないように。もし何かあったとしても、焦らずにユヒムの屋敷に戻るようにするんだぞ。いいな」

「はい」

「分かりました」



 そしてついに課題発表が行われる時間となった。街の中心にある大広場へと向かう。


 細い通りにも、大きな通りにも。壁のように立ちはだかる石造りの建物が並ぶ。

 その建物は通り抜けることが出来ないから、それに沿って歩くのが街の歩き方になるそうだ。ルーリアはその様子を迷宮のようだと感じた。


 等間隔に植えられた街路樹。土がなく、石材を敷き詰められた地面。人に作られた水の流れ、そして噴水。風が自由に出入り出来ない街、ダイアグラム。


 遠くには高台の上に建つダイアランの王城とその城壁が見え、街の中には背の高い時計台や、荘厳な大聖堂といった立派な建造物があちこちに見受けられた。


 そんな中、ルーリアたちがいるのは人の多い所を避けた、会場の端っこの方だった。

 大広場といえど、これだけの人が全員入れるほど広くはない。そこから放射状に広がる通りに人々が溢れていた。


 広場内は見渡す限りが人で埋め尽くされていて、そこだけ周りと温度が違うように感じられる。

 冬なのに、暑いと思ってしまうほどだ。



 そして、その時は唐突に訪れた。


「「──!!」」


 ガインとルーリアが息を呑む。

 ガヤガヤと絶え間なく聞こえていた音が一瞬で掻き消され、それと同時に周りに溢れていた全てのものの色が消えた。その場が白と黒だけの世界に染められていく。


 ──えっ……。


 聞こえない声で呼ばれたように、その場にいた誰もが自然と空へ目を向けた。

 誰に何を言われた訳でもないのに、皆が同じ空間を見つめている。それは、とても不思議な光景だった。


 全員が見つめるその先に、真っ黒な眩しい光が走る。その光は30センチほどの幅の輪となり、その場にいた全ての者の身体を通り抜け、隅々まで広がっていった。

 人々を囲うように広がるとピタッと動きを止め、そして今度はゆっくりと横に回転を始める。これは瞬きをするほどの、ほんの一瞬の出来事だった。


 それが終わるとザッと音を立て、全員がその場に跪く。顔を上げ、空の一点を見つめる。


 ──これは!?

 気付けば、身体が勝手に動いていた。


 その時、バサッと。

 音のない世界に、鳥が大きく羽ばたいたような音が響いた。


「!!」


 そこに舞い降りたのは、白と黒の2人の女神。

 光の女神・ライテと闇の女神・シルヴァ。

 それぞれの色の鎧をまとい、長い髪をなびかせている。


 ルーリアは初めて目にしたはずなのに、ひと目見た瞬間に、この2人が光と闇の女神であると理解した。周りにいる他の者たちもそうなのだろう。


 神秘的な美しさを持つ2人の女神は、腕を高く掲げ、互いの剣を交差させた。透き通る金属音が鐘の音のように響く。

 するとその剣先に、黒色透明な四角い石版のような物が現れた。


 その石版のような物には、知らない文字が刻まれている。ルーリアはそれに見覚えがあった。フェルドラルの魔法陣にあった文字だ。

 そしてその文字列の一番上には、この世界の言葉でこう書いてあった。


『さうんどおんりー』

 読めるけど意味は分からない。


 けれど、その石版のような物がこの場の主役なのは誰の目にも明らかだった。全員がそこに熱い視線を注ぐ。

 すると突然、頭の中に直接声が響いてきた。


『あーあー、テステス。やぁ、みんな。ボクの声はちゃんと届いているかい?』


 ──!? 男の子、の声……?


『今年もまた、この季節がやって来たね。みんな準備はいいかい? すぐに始めるよ? 今、キミたちの目の前には2つの選択肢がある』


 目の前に、赤と青の5百エンコインほどの丸いボタンが浮かび上がる。


『青はYES(イエス)、赤はNO(ノー)。青は「はい」、赤は「いいえ」だ。分かったかな? じゃあ、まずは最初の質問だ。キミは木工の課題を見る? 見ない? さぁ、ボタンを押して』


 えっ? 木工の、課題?

 突然の質問にルーリアは戸惑った。


 ……で、では『はい』で。

 目の前の青いボタン、YESに触れてみる。


「!!?」


 すると次の瞬間、ルーリアは1人。

 知らない世界の、知らない場所にいた。


 ──なに、ここ……。


 真っ白な世界。

 足元には謎の物体が置いてある。


 ルーリアの身体は独りでに動き、謎の物体に触れた。これは何だろう?

 四角い板の下に布が何枚も重ねられている。

 ルーリアはその布をめくり、足を入れて長座布団に座った。……足先が温かい。


 今度はそこに身体を伸ばして寝そべった。

 自分の身体が何をしているのか、さっぱり分からない。


『これはね、コタツって言うんだよ』


 さっきの男の子の声が響いてきた。


『足を温めたり、身体を伸ばして寝たり。テーブルにもなる優れ物なんだ。まぁ、この世界には似合わないだろうけどね。ボクが欲しいんだ』


 ……は、はぁ。そうですか。

 つい、そんな返しを心の中で呟く。


『今年の木工の課題は「コタツ」。これを作って欲しいんだ。じっくり見てもいいよ。満足がいくまで見たら、また青のYESボタンを押してね。そしたら元の世界に戻れるから』


 独り言にも聞こえる声が途切れると、身体を自由に動かせるようになった。


 これが……課題発表……?


 ルーリアはもう一度、コタツという物に足を入れてみた。……温かい。

 魔術具だろうか? どんな仕組みになっているんだろう? ルーリアは布をめくり、中に潜ってみた。


 コタツの天板と本体部分は木材で出来ているようだ。木工の課題だから当然か。温かい熱は真ん中の細工から出ている。足の短いテーブルに何枚も布を重ね、熱を逃さないようにしているように見えた。椅子は使わないのだろうか?


 ルーリアはコタツの中に入ったまま丸まった。

 このぬくぬくした感じは、セフェルが好きそうだ。じっとしていると眠くなってくる。


 ………………って!


 こんなことをしている場合ではなかった。

 今は課題の発表中だ。

 ルーリアは慌てて目の前のYESを押した。


「──っ」


 一瞬だけ視界が白くなり、気がつくと元の世界に戻ってきていた。色は白黒のままだ。


 ……今のが、木工の課題?

 周りは自分も含め、みんな同じように跪いている。


『じゃあ、次にいくよ。次は鍛冶だ。課題を見る? 見ない?』


 また男の子の声が響いてきた。

 これが……神の声、なのだろうか?

 ルーリアはYESを押した。


 木工の時と同じように、白い空間で課題の品を見る。またも不思議な形の物体だった。


「ア゛ア゛~~~……」


 なぜか課題の品の前に座り、声を出している。

 どうやら風を送る物らしいのだが……。


「ワレワレハ、ウチュージンダ~~」


 これは何の呪文だろう?

 鍛冶の課題は『扇風機』という物だった。


 その次は料理。課題は『マルゲリータ』。

 クツクツと焼き立ての料理が目の前に出され、勝手に動く手がそれを口に運ぼうとする。


 いやぁっ! そんな状態で口に入れたら、絶対にヤケドする!!


 心の中で絶叫したけれど、食べてもそれを熱いとは感じなかった。むしろ熱々の料理を美味しいと感じている。自分の身体なのに、自分ではないような。

 そういえば深く考えないでYESを押していたけれど、もしこれが肉料理だったら……。ルーリアはサァッと青ざめた。


『じゃあ、最後の課題だ。次は菓子だよ。キミは見る? 見ない?』


 ルーリアは迷わずにYESを押した。


 現れたのは、皿に乗った薄茶色の塊。

 手の平にちょうど収まるくらいで、ちょっといびつな形。それに白い粉がかけてある。焼き菓子だろうか?


 ルーリアの手は、それをそっと掴んだ。

 持つと、ふよっと柔らかい。ちょっと力を入れただけで潰れてしまいそうだ。中に何か入っているような……。


『それはね、シュークリームっていうんだ』


 男の子の声が課題の名前を告げる。

 ひと口噛じると、中には淡黄色のクリームと白いクリームが入っていた。甘くて美味しい。


 すぐに白い方は生クリームだと分かった。

 黄色い方は何だろう? とても甘い香りがする。

 ルーリアは身体が自由になると、真剣にシュークリームを観察した。


 外側の皮はパイに似ている。

 横に空いている小さな穴は、クリームを入れた時に出来たものだろう。上にかかっているのは粉砂糖だ。黄色いクリームの香り、これは──……。


 何度も食べて、じっくり考える。

 満足するまで試食を繰り返し、ルーリアはYESのボタンを押した。


『これで今年の課題発表は終わりだよ。じゃあ、課題を受けるみんな。春まで精一杯、頑張ってね』


 男の子の声が響き渡ると、光と闇の女神が互いの剣を交差させ、もう一度、高い金属音を響かせた。

 辺りの景色は色と音を取り戻し、いつもの見慣れた世界に戻っていく。2人の女神は白と黒のまばゆい光の粒となり、淡く揺らめいて空に溶け込むように消えていった。


 ッワァアアアァァ──────ッ!!


 街中に一斉に沸き上がる、大きな歓声。

 その声で、課題発表が無事に終わったのだと、ルーリアはホッと息をついた。

 終わったら、すぐにこの場を離れることになっている。ルーリアはシャルティエの手を握り、ガインたちのいる方へ振り返った。


「…………え、」


 しかし、そこにガインとフェルドラルの姿はなかった。代わりに騎士のような姿をした者たちが、ルーリアたちを取り囲むように立っている。


 …………な、んで。お父さんたちは……?


 ルーリアは頭の中が真っ白になった。

 そんな中、騎士の1人が厳しい口調でルーリアに話しかける。


「キミたちには逃亡中の犯罪者の仲間である疑いがかけられている。大人しく我々に付いて来てもらおうか」



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