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君と見る夢  作者: 夏河蛍
2/26

プロポーズ



 「先生」



 静かな教室で一人の少年が手を挙げ結を呼んだ。

 結はその声に反応して顔を上げると少年のもとへと歩み寄った。



 「ん?」



 少年は結に一度顔を向けると静かに机の上の用紙へと指差した。

 眉間に皺を寄せ、難しい顔をする少年を見て、その不格好な愛くるしさに結はクスリと笑みを浮かべ用紙に目を移した。


 横から陽が射し込み、結は少しばかり目を細めて用紙を確かめようと前屈みになった。少し垂れる髪を和がれる様に指で耳の少し上へとかき上げ、言葉を選ぶように一拍ずつ置きながら、丁寧に紡ぐように説明し始める。


 その姿は、陽だまりの中で淡く美しくあり。

 優しく綺麗な女性だった。




 「先生」



 少年に説明していると窓際の方から呼ばれた。

 結はその声に反応して目線を向けた。


 すると少女は窓の外へ視線をやったまま、もう一度「先生」と呼び視線を結へと移すと、窓の外を指さした。


 その姿に結は何かと思い少女を見つめたまま体を起こすと少女はもう一度視線を外へと移した。

 結は少女へと歩み寄りながら外へと視線を向けた。


 少女の隣まで来ると窓から射す陽の光に目を細めながら窓の外を見た。




 校舎を見渡す事のできる校庭の真ん中。そこには一人の男がいた。

 男は前屈みになりながら遠目でもわかる程に肩をゆらすと体を起こしその場をウロウロと歩き出した。



 「・・・・健ちゃん?」



 結は男を見て小さく呟いた。






 天沢(あまさわ)(けん)はその場を歩きながらゆっくりと息を落ち着かせると空を仰ぐ様に大きく深呼吸した。

 そうして息を整えると、足を止め校舎へと向いた。



 そして、胸に手を当て小さく笑うと大きく息を吸い込んで大声で叫んだ。



 「本日、映像コンクールにて賞を頂き、次回作及び監督デビューが決まりました」



 そこで区切ると、手に持っていたジャケットとトロフィーを地面に置いた。


 健の声があまりにも大きかったため学校中の窓から生徒や教師が顔を出した。

 生徒はざわめきだし、教師は注意をする。

 声が学校中に広がり騒がしくなる中、健はもう一度息を吸い込むと再び大声で叫んだ。



 「佐々(ささき)(ゆい)さん、結婚してください」



 笑みをうかべてまだ白い夕日に照らされながら言い切ると学校中から大きな歓声が上がった。



 一瞬時が止まった様に呆ける結。


 ゆっくりと胸に手を当て早くなる鼓動を感じながら健を見つめ呆けていると、


 「先生?」



 結を見つめ少女が声をかけた。


 結は少女の方へゆっくりと顔を向けると、少女は結を見つめながら窓の外を指さした。



 「返事しないと」



 少女の言葉に結はハッと我に返り窓の外を見るとすぐに振り返り教室を飛び出した。


 だがすぐに戻ってきて生徒達を見ると


 「自習してて!」



 と慌てて言って、また飛び出して行った。

 生徒達は一瞬キョトンとしたが軽く笑って窓の側へと集まっていった。





 廊下には『走るな。危険。』と書いてあるポスターが目に着くがそれを無視して全力で走り、階段は一段二段と飛ばし、終いには六、七段。飛ばすと言うより飛び降りる様になった。


 結が廊下を走っていると生徒達や教師達から視線や言葉を浴び、恥ずかしさで自然と頬が朱くなったが、不思議と笑みも溢れた。


 廊下を走り抜けて職員玄関に着き、急いで靴を履き替えていると、校長と教頭が同じく職員玄関にやってきた。

 そして、結に気づくと慌てたように近づいた。



 「佐々木先生。何をやっているんですか!教室に戻ってください!ちょっと!」



 結は靴を履き替え「すみません」と一言だけ謝ると外へととびだした。


 外に出ると学校中から様々な声が結と健に向けられた。

 ほとんどが生徒達の声、教師達は自分達の生徒に注意しているようだがあまり本気で注意している様に聞こえない。


 結は声を浴びながら校庭へと走り健の姿が見えて来た。

 徐々に近くなりスピードも少しずつ緩め、健の数メートル前まで来ると歩みに変り、ゆっくりと健の前で止まる。


 そして健を睨む様にして口を尖らした。



 「何やってんのよ」



 軽く結が怒ると、健は少しオドオドとした。



 「いや、その・・・サプライズ・・みたいな?」



 と言い頬を少し朱く染めながら笑顔を見せる。

 それを見た結も顔を朱くして軽く呆れた感じで笑うと「バカ」とだけ呟いた。


 すると健は急にしゃがみこみ、地面に置いたジャケットをまさぐり、いそいそとポケットの右、左と手を突っ込んだ。


 そこから小さな箱を取り出すなり立ち上がると、結の手を取り、その小さな箱を手のひらに乗せた。


 健がゆっくり手を離すと結はその小さな箱を見つめながら両手で持ちフタに手を掛けて一瞬止まり健を見た。

 健が笑顔で頷き、結はもう一度目線を戻してゆっくりとフタを開けた。



 そこには銀色の指輪があった。

 2つのリングが交わる様な形をしていて交わる場所には花のように一粒のダイヤモンドが咲いていた。


 止まった様に指輪を見つめる結を見て健は優しく笑むとその場から一歩下がった。


 結はそれに気づき、健の顔を不思議そうに見つめた。

 健はそんな結の目を見つめて微笑んだ。



 「結さん。俺と結婚して下さい」



 健は穏やかにそう言うとゆっくりと頭を下げた。

 少し赤みがかった夕日を浴びて顔が朱くなる結は優しい笑顔になった。



 「よろしく、お願いします」



 結が静かにそう言うと健は顔を上げて満面の笑みになり、そして結の手から指輪を取ると結は左手を差し出した。


 健はゆっくりと結の左手くすり指へ指輪をはめた。


 二人が目線を合わせると健から結を優しく抱き寄せ、そのまま自然に唇をあわせた。

 そしてゆっくりと顔を離し二人は互いの顔を見て照れながら笑い合った。


 瞬間、学校中から声が上がった。拍手や指笛もあり、二人は多くの人に祝福され歓声に包まれていた。




 「佐々木先生!」



 二人が笑い合っていると声がした。

 二人は声のした方を見ると怒った様子の教頭と笑顔の校長がこちらに駆けてきていた。



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