プロローグ
夏の残り香が漂う中、幾許か涼しくなってきた。
それでも陽の光が、夏の暑さを思い出させる。
青く広がる空に赤い群れが散らばっていく秋の入口。
息も絶え絶えに男は街を走っていた。
暑さのせいか、はたまた運動のせいか、汗が止めどなく流れる。
すれ違う人達が横目に男を見ていくが男は気にも止めずにただ、そんな人達を掻き分ける様に走り抜けた。
今にも溢れそうな笑みも隠そうともしない。
手には、先程まで着ていたジャケットと「金色のトロフィー」を握りしめていた。
道の途中、一件の店の前で止まると前屈みになり肩で息をして、少し緩んだネクタイを更に緩めた。
そして2、3回大きく息を吸って呼吸を落ち着かせると、ゆっくりと店の扉を押し開けて入っていった。
ものの数分で店から出て来た男は、大きく空を仰ぐと、息を吸い飲み込み自分だけに聞こえる声で小さく「ヨシッ」と呟いてもう一度空を見上げた。
そして、前を見据え、また走り出す。
もう夕方近くの街には、学校終わりの学生が笑いながら、くだらない話をして歩きふざけ合っている。
ギターを片手に持ち路上ライブの準備をしている若い男性は真剣ながらもとても穏やかに見える。
喫茶店でノートを開き、耳にイヤホンをさす大学生は風景に同化している様に思える程静かで謙虚な雰囲気だが二つの瞳は強く意思を持っている。
今見たばかりの映画の話で盛り上がる若いカップルはまるでいつもの決まりごとのように無意識に手を絡め合う。
相手を支えるように、寄り添い合うように歩く老夫婦の指には金の指輪が光るがそれは煌びやかでも鈍くでも、ましてや下品でもなく。慎ましく、凛と光る。
街には、様々な色や形をした夢があり、それらを見る多くの人々がいる。
男はその中を「自分の夢」だけその手に握りしめて走り抜けた。
瞳には希望と夢、そして未来が色鮮やかに映し出されていた。
夢を叶えられない人はいない。
叶わない夢はない。
きっと叶える事のできなかった人の多くは、自分で線を引いてしまったのだろう。
そして自分自身で諦めてしまっている。
どんなに惨めでも夢に執着し続ければきっと叶う。
道は無数にあって、方法も一つではない。
それに一人でもない。
一人で叶えられる夢なんてないから。
人は夢を叶える時、誰かと共に夢を見る。
それは、もしかしたら大切な人と・・・
君と見る夢なのかもしれない