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クロッシングワールド  作者: たぬきいぬ
第二章     アビス
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第二十話    この世界の楽園

「んっつあ〜〜、つっかれた〜」


蓮がベッドの上で伸びをする。


「人型のアビスがいるとは思わなかったな」


雅人は畳に座り手をついてくつろいでいる。


俺も自分のベッドに座り、二人の話を聞く。


「アビスも強くなってるし俺達も強くならないとな〜」


蓮はなんの恐怖も抱いていないような、気の抜けたような感じで話す。


「お前もうちょっと迫真な感じで話せよ」


雅人も同じような事を思っているようだ。


「迫真って、もう集会でそんな感じのしただろ」


「持続させろよ、リーダーなんだから」


「まあなんとなくリーダーだからな〜、変わってくれよ雅人」


「変わってくれってお前な〜」


雅人は呆れ首を傾ける。


「集でもいいぞ、なるかリーダー」


急に話を振られる。


「俺がリーダーになんてなれるわけないだろ」


そう、俺がリーダーになれることなんてない、なるつもりもないが。


「何でだ?」


「そりゃ無能力者だからな」


俺は少し素っ気なく言った。この世界で、この拠点でリーダーにふさわしい人間は能力者として強く、そして統率力のある人間だ。その素質は俺にはない。元を辿れば無能力者の俺がここでリーダーになったとして、ただここで何もせず眺めていることに耐えきれないと思った。


「無能力者だからってリーダーになれないなんてことはないだろ」


蓮は俺のそっけない返事にも特に声色を変えることはない。


「何より大切なのは仲間を思う気持ち、そんだけだ。 それがあれば誰だってリーダーになれる」


「まっそういうことだ、だからお前も無能力者とかそんなこと言ってないで、自分に出来る事を全力で探し出せよ。 何もしないで押しつぶされるよりマシだぜ」


雅人の言うことは間違いなく、無能力ということを嘆くよりも今できることをするしかないのだ。


「だけどここで俺に何が出来るんだ? 仲間のために戦うこともできない、能力でサポートすることもできない、そんな俺がここで何が出来るんだ?」


気持ちの焦りと自分に積もる何もできない無力感、仲間にぶつけてしまう感情、どうしようもなく自分が嫌になる。


「そうなだ、ちょっとこっちこい」


雅人が部屋の扉の前に立つ、そしてドアノブを握り扉を開く。俺はそれに続き部屋を出た。


「お前ここにいる仲間の人数何人か知ってるか?」


雅人は廊下を歩きながら話しかけてくる。


「今は30人弱ってところだったか? 詳しい人数は分からないけど」


「33人、お前が来たのが最後で33人だ」


生存者の人数は正確に聞いていたかもしれないが、環境の変化についていけず全てを把握できていなかった。


「さっきの集会さ、あの場に何人いたか知ってるか?」


雅人は後ろを振り向かず、そのまま歩いていく。


「33人じゃないのか?」


さっきの会話からすれば、人数の確認をした次点で何人が集まっているのかなんてわかり切っている。


そして俺たちの部屋から少し離れた別の部屋の扉の前で止まった。


「あの集会に集まってた人数は26人だった」


「26人?」


明らかに人数が足りない、今の会話でしかも放送で集会は告知していた、だからこそあの集会は全員来ているはずだ。だけどあの集会に来ていた人数は26人、明らかに人数が足りなすぎる。


「さっきさこの世界に来て怖いとかそんな話してただろ? 集はそんなに恐怖を感じなかったって言ってたけどさ、他のやつは違うんだよ」


雅人は扉に手を当てそのまま話を進める。


「この世界に来て急にあんな化け物に襲われて、死の恐怖を感じて、そして何とか生き残り助けられここに逃げ延びた」


「ここに逃げ延びた?」


「そう、逃げ延びた。 逃げ延びたこの場所は何とか逃げ延びた生存者からしてみれば楽園に見えるだろ」


楽園、俺たちが元いた世界が子供の楽園、エデンだったように。ここは生存者の楽園なのかと思った。


「そしてここにいれば命の危険はない。だけど外の世界に恐怖し、外の世界に触れることにさえ恐怖するヤツもいる」


だからこそこの拠点、この部屋からすら出られなくなるのだ。俺はそれに納得した。硬く閉ざされた扉、向こう側から開くことはないとすら思えるこの扉、こちら側から無理やりなら開けられるであろうこの扉、だがこの扉を開けて仕舞えば中にいる者は恐怖しか感じないだろう。


「だから俺たちは無理に引きずり出そうとしない、戦わせようなんてしない」


メインでこの世界の探索を行なっているメンバーは皆同じ考えなのだろう、雪菜も言っていた通りだ。こんな世界に連れてこられ、その中でこの世界から脱出するために戦う。アニメや漫画の世界のような内容。俺からしてみれば能力を行使できること自体漫画やアニメの世界のことだが。


「皆そうなんだな。 ここで戦う皆んなはそうなんだな」


誰かに戦う事を強制なんてしない、誰かに任せたりしない。自分たちが道を切り開こうとする、そんな事が出来るこのメンバーは本当に凄いと思う。



そうか、俺に出来ることはきっとこんな仲間達を、能力が使えなくてもサポートしていくことなんだ。無能力者の俺がこの世界でできることは少ない、この世界で命をかけることも、ましてやここでの生活を著しく良くするとこもできない。だがそのサポートをすることくらいはできる。

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