第十九話 死の恐怖
「皆忙しいところすまない、これから主な作戦を報告しておこうと思う。これからは此処を拠点とした放射線状の探索ではなく、ここより北に進むことにする」
壇上の上で話している蓮の声は、校長室で話すフレンドリーな雰囲気ではなく、皆をまとめるリーダーそのものだった。
「此処より拠点を移しながらの行動になる、皆移動準備を始めてくれ、作戦行動は明日12:00より開始する。これから先激しい戦闘にもなるかもしれない、だからその時は頼むみんなの力を貸してくれ」
体育館にいる全員が静かにうなずいた。
「ありがとう、それとここ最近の調査で分かったことを報告しようと思う、葉風頼んだ」
蓮は葉風さんにその後のことを任せた。
「私から今回の調査について説明させてもらう、今回の探索で分かったことは新種のアビスの存在だ」
壇上下で話を聞いていた才人がポケットからリモコンを取り出し操作した。壇上の壁には映像が映し出される。
集が放送室から見ていた、蓮達の探索の映像が映し出された。
そこに映し出された映像には進むにつれ強くなるアビス、そして最後には人型のアビスが映し出された。
「人型のアビス?」
「何だよあれ」
「怖い」
それぞれがそんな言葉を漏らした。
蓮視点の映像では難なく人型のアビスを倒している。だがそれは蓮が強いからだろう。ここにいる全員が突然の奇襲に対応できるわけでは無い。とっさの直感で攻撃を受け止め、そして反撃している。こんなこと普通の能力者ではできない。
この世界で獣型のアビスでも出会えば死を感じずにはいられないのに、それ以上の存在がいることに、ここにいる生存者全員が恐怖を感じずにいられなかった。
「これからの戦闘において皆んなには今まで通り戦闘の強制はしない、この世界から抜け出すために俺達は全力を尽くす。 だからこれから先俺達の中に死者が出るかもしれない」
蓮は表情を変えずに話し出す。
「今まで通りメインの探索班は俺、雅人、雪菜、香澄、凪の五人でいく」
蓮が話すメンバーの中に俺や葉風、才人はいない。戦闘向けの能力者でない者を戦わせる気は全くないのだろう。
(この先この五人だけじゃ負担が大きすぎるだろ)
俺はそんな事を考えてしまう。 ここにいる約三十人ほどのメンバー全員が戦闘向けの能力者が使えるわけではないだろうが、それでも戦える者はいるに違いない。なのにここに誰もが五人に頼っている。
(何でだ…… なんで戦おうとしないんだ)
確かに戦闘能力の無い能力者は足手まといになる。だがそれにしても一緒に戦おうとする人がまるでいない。
「雪菜ひとつ聞いていいか」
俺は隣にいる雪菜に話しかける。
「どうしたの?」
雪菜は俺の方を向き話を聞く。
「どうしてここにいる皆は戦おうとしないんだ? この世界から抜け出すためには戦うしか無いだろ?」
「ん〜そうだね、集くんはアビスを見てどう思った?」
「俺は驚いた……かな?」
俺は最初にアビスを見た時ただ驚いた誰だってそうだと思う。あんな全身真っ黒な獣がいれば誰だってそう思うはずだ。
「本当にそうだった? 他には何も感じなかった? アビスに襲われて何も?」
雪菜は真っ直ぐ俺を見ていう。
(アビスに襲われて……か……。 そうか)
雪菜が言いたい事が何かわかった気がする。確かに俺もアビスに襲われたときに確かに感じた事がある。
「死の恐怖か?」
死の恐怖…… そんなもの元の世界では感じたことのない感覚。
「そう死の恐怖……私達が慣れてしまった、だけど確かに私たちの近くにあるもの。 だけどここにいれば死の恐怖は避けられるから」
「だからここにいる皆は戦わない人を責めないのか……」
「そいうことだね、でもその中でもこの世界から早く抜け出したいと思っている仲間がいる。 そしてこの世界に、アビスに恐怖しながらも抗う仲間がいる」
俺がこの拠点にいる中雪菜達はその恐怖と戦っていた。
(なんて無責任な事を言ってしまったんだ俺は……。 戦おうとしないなんて、そうじゃないだろ)
戦えないんだ、怖くて。怖くて怖くて怖くてたまらないんだ。その中で俺は無能力だからと言って安全地帯で安心していた。命懸けで戦っている仲間をただ見ているだけの俺が言える事じゃない。
「ゴメン……」
俺は謝ることしかできなかった。
「だから集くんは変に戦おうとしないで欲しいの、元の世界みたいにグラトニーがあるわけじゃ無い。あったとしても、あの諸刃の剣じゃ生き残る事が難しくなってしまうからね」
雪菜に直接的では無いにしても言われてしまった。俺はここにいろと…… 戦わないで欲しいと、無能力者の俺にこの世界で戦う事をしないで欲しいと、そう言っているのだ。
「っ……」
言葉が出なかった。
そして集会は終わりそれぞれが部屋に戻っていった。




