第七話 救いの光
店での仕事を終え帰路につきいつもの帰り道を通ろうとした時、数人の男が道に輪を作り集まっていた。
よく見るとその中心には女の子が立っており、ナンパされているようだった。
(助けても何のメリットもないしな~)
内心損することは分かっていたが、女の子が絡まれているなかただ見過ごすことは出来なかった。
「すいません、その子嫌がってる見たいなので辞めてあげてくれないですかね? それじゃ行こっか」
絡まれていた女の子の手を引き、その場から立ち去ろうとしたがそう上手くは行かなかった。
「てめーよく見ればさっきの店員じゃねーか。さっきはよくもバカにしてくれたな」
バイト中に喧嘩を売ってきた長道の友達に囲まれてしまった。この場に長道はいなかったが相手は俺のことを覚えていたようだ。
(やばいな、後ろにも回られてるじゃねーか)
逃げようと試みるも道は塞がれている。こんな時間にこの道を通る人がいれば良かったのだが、バイトの帰り道必ず通らなければならないこの道は、この時間になるとほとんど人気はない。
「さっきのお返しってわけですか、お返しとか全然いいんで、俺はこの後用事があるので失礼しますね」
ガラの悪い連中の間を抜け、逃げ出そうとするが肩を掴まれる。
「なに逃げようとしてんだよっ」
女の子だけは、少しだけ空いた隙間からから逃がすことが出来たが、俺は上手く抜け出すことが出来なかった。
「早く行って、全力で走って!」
女の子は少し強引に長道たちの間を抜け逃げることができた。女の子は男たちの間を抜けた後俺のことを心配するように振り向いたが、自分では足手まといになると思い、その場から走って逃げていった。
残された俺は男に囲まれる。大柄の男が俺の前まで迫ってきた。
「何してくれてんだよっ!!」
男は急に殴りかかってきたがギリギリのところで回避することに成功し距離を置く。
人数差もある上に、道をふさがれているという最悪の状況、これを打開する策を考えなければならない。
「おいおい、お前避けられてんじゃねーか」
道を塞いでいる不良達が男を煽り、煽られた男はさらに怒りをあらわにし、開いた右手が鈍く光り棒状の物体が現れる。
「てめー、絶対後悔させてやる……!!」
(アーツ使いかよ)
能力には2種類存在し、心器を使うアーツ能力者とアーツを使わないトランス能力者が存在する。アーツを使うアーツ能力者はそれぞれが違う形で武器や道具を扱うことが出来き、トランス能力者は火や風を何もないところから出現させ行使することが出る。この男は棒状のアーツ持ちらしい。
(なんて不運だよ、こんなことになるならガーディアンに通報してからにすればよかった)
なんの能力も使えない俺にとって今の状況は相当不利になる。
自警団でもあるガーディアンは戦闘に特化した能力者が多くいるためこういった状況ではかなり重要になる。だがガーディアンが来ることに期待できないとなるとそうとう不利になる。
囲まれたこの状況からは抜け出せないと思い、俺は両腕を構え戦闘態勢に入る。男は俺が両腕を構えた途端、男勢いよく距離を詰めてくる。
「無能のテメーが何いきがってんだよ!!」
男は長道から話を聞いたのだろうか、俺が無能力者なことを知っているため、躊躇なく襲いかかってくる。
俺は寸前で攻撃を回避し、男に蹴りを入れる。男はアーツを振りかざした勢いで俺に蹴られたため、そのまま壁に叩きつけられる。
「やりやがったなこのやろーが!」
男は怒りの形相で俺を睨み、再度攻撃を仕掛けてくる。再度襲いかかってくる男攻撃を避けようとするが、地面に窪みがあったのかバランスを崩してしまった。
男の攻撃をとっさに右腕でガードするが、フルスイングの攻撃を直に受けてしまう。ガードしても、攻撃を受ける以上は痛みになる。
(こいつ、ダメージ調整してないのかよ)
アーツでの対人への攻撃は全てが痛みや精神へのダメージとなり、体に傷が付くことはない。
これは各個人が威力を調節出来るため、加減をすればお互いの戦闘訓練などで役立つ仕様になっている。
だが今回はこいつはそのダメージ調整を全くしていない。俺は鉄の棒で殴られた感覚をもろに受けているのだ。
ガードしているとはいえアーツでのフルスイングを受けた俺はそのまま倒れてしまうまう。
俺の右腕に激しい痛みが走りそのまま地面にうずくまってしまう。
(クソ!! このままじゃヤバイ!)
俺は痛みをこらえ立ち上がろうとするが、それより先に男が俺の目の前に現れアーツを振り下ろす。
「アーツも使えねー無能が、調子乗ってんじゃねーぞ!」
そして男がもう一度アーツで俺に襲いかかる。だが、その攻撃は俺には当たらず甲高い音だけが鳴り響いた。
「こんなところで何をしているのかな? 怪我はない?」
きれいな声だった、目をつむっていてもわかる。さっきまでの男達の怒りに染まった声とは違い、きれいにそして優しく響く声だった。
一度だけ聞いたことがある、そして俺が探していた女の子 雪菜がそこにいた。
先程はその場にいなかった女の子が俺を庇うようにして男のアーツを片手剣でで受け止めていた。
男たちに塞がれていた隙間を抜け俺の目の前に現れたのだ。よく見るとそこにいたのは俺が探していた女の子柊さんだった。
「君たちアーツを許可なく学外で使用するのは島則違反のはずだけど。ガーディアンには通報させてもらったよ。逃げるなら今だけどどうする?」
柊さんは男たちに言い放ちここから去るよう促す。
「ガーディアンが来るまで時間はある。今のうちにボコボコにしてやるよ」
男は柊さんの言葉を無視しアーツで再度襲いかかる。
だが男のアーツは雪菜に当たらなかった。またもや甲高い音を上げ男のアーツ空を舞っていた。俺は男のアーツに何か石のようなものが当たるのを見逃さなかった。
「そこまでにしとけ」
さっきまでいなかった長道がそこにはいた。いつの間にか後ろにいた男達の中心に立ち、手を前方にかざしていた。
「何すんだよ道長!」
「今やってたらお前確実にやられてたぞ」
トランス能力を使う道長は、石を作り出し前方に向け放ったのだろう。
アーツを扱わない者は、何もない空間から火や風・石などを作り出すことができる。
その能力で道長は男のアーツを弾いたみたいだ。多分道長はあの男より強い。一撃で手に持っているアーツを弾けるほどの威力だ。
「相手が悪い。ガーディアンが来る前に行くぞ」
長道は柊さんの実力を知っていたため、反撃するようなことはしなかった。
ガーディアンに捕まることが嫌だったのか長道達は急いでこの場を去って行く。
「続きは今度してやるよ」
だが去り際に長道は俺と雪菜の方を見てなにかを言い放ったのを俺は聞き逃さなかった。