第九話 世界の仕組み
「蓮、俺にも茶入れてくれよ。集もいるか?」
「いいのか?」
「いいぜ」
蓮が机の上にあるコップに粉のお茶を入れ、ポットの中に入ってるお湯を入れる。
「作るのは俺なんだけどな」
蓮はそいう呟きふたり分のお茶を準備してくれた。
「んで、この施設のことは分かったか?」
蓮がお茶をすすりながら聞いてくる。
「ある程度はな、ここにいる皆んなにもある程度は挨拶できたと思うし。ここにいる皆んな優し奴ばかりで助かったよ」
「本当皆んな優しくてよかったよ、だけどここでの生活に満足できなかった奴もいてな、そういう連中は皆んな出ていったよ」
「皆出ていった?」
この世界においてこんな環境の良い場所はないと俺は思っていた、だけどそう思わない人もいたらしい。
「この施設はこの世界ではかなり良い状態の場所なんだと思う、だけどココでの生活に慣れてしまうとココから出ようとする気がなくなるんだ、ここにいれば死ぬ事はないかららな」
「だからこの世界から脱出することを一番に考えなくなる、それをよく思わない人もいるしな」
「そういうことか」
俺は二人の話を相槌を打ちながら聞く。
「一応ここにいる皆、担当というか班で分けられてる、俺や雅人みたいな戦闘向けの能力者は周辺を調べて脱出の糸口を探し、生存者がいれば救出しここに連れ帰り安全を確保する。探索中はアビスと遭遇することがあるからそのアビスの討伐と生存者の救出を目的とする戦闘向けの能力者を探索班としてるんだ」
探索班、多分この話を聞く限り雪菜も探索班なのだろう、あの時俺を助けてくれたのはその活動の一環なのだろう。
「そしてもう一つが、援護班。援護班は基本ここでのサポートになる。そうだな、博士いるだろ、博士の能力はテレポートなんだよ。自分自信を別の場所に移動することもできるし、触れた相手を別の場所に移動させる。この能力で俺たちは生存者のいる場所まで楽に移動できる」
能力者の能力にも色々あるんだな、テレポートなんて能力は実際に見たことがない。アーツ系統の能力者ではなく、トランス系統の能力者なのだろう。
「援護班はそれと別に俺達の生活のサポートもしてくれているからな」
「さっき風呂出た後ジャージ置いてあったろ、あれは援護班の人が用意してくれたもんだ」
雅人は自分のジャージの首元を掴み軽く引っ張る。
「この世界でどうやって食料やこんな服を準備してるんだよ」
俺はここでの生活に疑問を感じていた。この世界で生活するための何もかもが足りていない気がしていた。食料の調達やジャージなどの衣類の原料、この世界で調達しようと思えばかなり苦労しそうだ。
「集気付いてないのか?」
雅人が驚いた顔で俺を見ていた。
「何がだ?」
「集、ここに来て腹減った感覚あったか?」
雅人に聞かれ俺は自分の腹を抑える。今まで感じなかったが、この世界に来てお腹が全く空いていない。と言うよりも何かを食べたい飲みたいなんて言う感覚にならない。今出されているお茶も飲みたいから飲むというより、出されたから飲むといった感じだ。
「全くないな……。どう言うことだ?」
「この世界は確かに時間は進んでいて、俺たちはその時間の流れに乗ってる」
蓮はお茶を飲みほし湯飲みを机に置く。
「だけど俺達自身の体の時間は止まってる、アビスとの戦いで戦闘技術や能力自身の向上は出来ても俺達自身の成長はない」
この世界は不思議な事で溢れている、アビスの存在そして自分達の時間。まだまだわからないことばかりだ。
「何か全然わからないなこの世界のことは」
俺は畳に寝そべりくつろぐ。この世界に来てアビスに遭遇して誰かの死を目の前で見てしまった。雪菜に助けられ俺は万一を逃れることができた。あの時雪菜が来てくれなければどうなっていたのだろう……。あの黒い狼に殺されていたら俺はここにはいない。今生きていられていることに実感を抱く。
「まっ話はこんなところだな、また詳しい話はまた明日するとしてとりあえず今日は遅いし寝るか」
蓮は立ち上がり入り口の方へ向かう。
「そうだな今日は寝るか」
雅人も自分のベッドなのだろう、使用感のあるベッドに潜り込む。
「集のベッドはそっちな、これからはそこの一角が集の場所になるから」
雅人はそう言いいつのまにか寝息を立てていた。
「寝るのはやっ」
俺は自分のベッドの中に入る、布団の中は少し暖かく心地いい。
「早いだろコイツ、こんな早く眠れる奴なんて雅人くらいだな」
蓮は立ち上がり入り口にある部屋の電気を入り切りするボタンを押す、部屋は一瞬で真っ暗になり蓮はその中を感覚だけで自分のベッドまで歩く。そして数分と経たないうちに蓮も寝息を立て始めた。
(なかなか眠れないな)
いつもと違うベッドで眠れないなんてことはない、中学時代の修学旅行でも問題無く眠ることができただけど今は違う。いつのまにか異世界に来て、アビスに襲われ命の危機にさらられた。今でも心臓の鼓動は早く、意識しなくても感じるほどだ。そのせいで全然眠りにつけなかった。




