第五十一話 隣にいるために
試合会場へ向かう途中の廊下、見知った顔がそこにはあった。
「阿知賀さんじゃないか、こんなところで何してるんだ?」
阿知賀さんは俺に駆け寄りにこりと笑う。
「昨日ぶりですね集殿、集殿にこれを渡したくて待っていたんですぞ」
阿知賀さんは俺に手を突きつけてきた。
「手を出してくだされ」
俺は阿知賀さんに手を差し出した。阿知賀さんは俺の掌にリングを落とす。
「これって擬似アーツか?」
「そうですぞ、前回はいとも簡単に壊されてしまいましたからな、私の評判が落ちるのも嫌ですが、集様になんとしてでも勝っていただきたかったので今回はもっと強力な擬似アーツを作らせて貰いましたぞ」
前回貰った擬似アーツと形が全く同じものを阿知賀さんは俺にくれた。
「今回は一回限りではなく耐久値も有りますが、第二位階の能力でも3回程度なら攻撃を防げますぞ」
形は同じだけど中身はより強化されたものになっているらしい。流石はクリエイター先頭向けの能力者でなくても日々成長している。それぞれの能力者が自分自身を高めるために努力している。
(俺ももっと頑張らなきゃTOEなんて届かないぞ)
「ありがとう阿知賀さん、グラトニーといい色々ありがとな。 俺この試合に勝ってこの学園の生徒に強い能力なんて無くても戦えるってことを証明してみせるよ」
俺は阿知賀さんに笑いかける。緊張と不安そして阿知賀さんからの期待を背負った笑い顔はとてもじゃないが良い笑顔なんて言えない。
「期待しておりますぞ、 それでは頑張ってくださいですぞ。 雪菜殿も頑張って下さいですぞ私も聞いてはいますがBクラス代表の道長殿はあまり良い戦いをしないと聞きますからな」
俺は道長の戦いを知らない、自分に能力が無いと分かってから俺は能力から目を背けていた。だからこの学園での戦いに関する全ては俺にとって初めての経験になる、はずだ。
「道長くんの戦い方は知ってるよ、相手を動けなくなるまで攻撃してから確実にとどめを刺すタイプだから、あまり戦いたく無いタイプではあるけどね」
雪菜は苦笑いを浮かべる。AクラスとBクラスは合同で練習試合をすることが多い。近いレベルどうしの戦いでお互いを磨く目的があるらしい。俺の在籍するFクラスはEクラスと合同練習することが多い。逆にFクラスとAクラスが合同練習することはない。実力が開きすぎているクラスどうしでは戦いにならないからだ。
「私は日向殿達を全面的に応援しておりますゆえ、全力で挑んできてくだされ」
「ありがとう阿知賀さん」
雪菜と阿知賀さんの会話が終わり、俺達は阿知賀さんと別れた。
会場に向かう道を俺達は無言のまま歩く、お互いが決意を決め最終戦に挑む。この戦いで雪菜の願いの近道にもなる学区代表入りが目の前に迫っている。俺の願いも雪菜の願いを叶える事だけだ。ただそれだけの願い。
「只今より模擬試合最終戦を開始します。 参加者は準備して下さい」
会場内に最終戦のアナウンスが流れる。もう俺たちの出番がすぐそこまで迫っている。
コツコツと靴が地面を叩く音が廊下に響く。アナウンスが流れてから靴の音が大きく聞こえる、今まで気にしていない、気にすることの無かった音でさえ耳が拾ってしまう。掌には汗がにじみ自分が緊張していることに気づく。ドクドクと心臓の音が早くなる、苦しいほどに心臓は早く、大きく鼓動を鳴らす。
(こんなに緊張したのはエデンに来て初めてか)
今までの模擬試合ではこんなふうに感じることはなかった。それはなぜだか分からない。勝ちたいという気持ちが今まで以上に膨れ上がっている。その気持ちが強く膨らむほど緊張は大きくなった。
会場の入り口にたどり着き俺たちの模擬試合最終試合が始まろうとしていた。
「頑張ろうね最終戦」
「絶対に勝とうな」
俺達はお互いに拳を合わせ決意を固める。こんな事を雪菜と出来るなんて昔の俺からは想像もできなかった。力のない俺では隣に立つ事も出来なかっただろう。だけど今は雪菜の隣に立ち共に戦うチームにまでなることまで出来た。
この模擬試合が俺と雪菜がチームでいられる最後の戦いかもしれない。
TOEで勝ち抜くには多分無能力者の俺ではダメだと分かっている、雪菜の隣にいられるのはもっと強い能力者でないとダメなんてことくらいわかっている。だから俺はもっと強くなって雪菜と共にこれからも戦えるように、能力者よりも強くなる。




