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クロッシングワールド  作者: たぬきいぬ
第一章     序章
47/151

第四十六話  世界が色をなくしても

「ーーーー!」


 水の能力者は俺に何かを言い放ったがなにも聞こえない。


 聴力を取り戻すまでにラグがあり、視界もいつのまにか白黒の世界になっていた。


 今に至るまで気づかなかった。集中しきった体は徐々に世界に順応する。だが世界に馴染むほど体が重くなる。


 世界徐々に色や音を取り戻し、俺はようやく水の能力者の声を聞くことができた。


「もう手加減はできない! さっさと倒れてもらうぞ」


 水の能力者の周りに水の塊が浮かび上がる。雪菜に使った攻撃と同じか、それ以外の攻撃だろう。


(ヤバイ! 体が動かない)


 俺の体はグラトニーの反動と集中の反動を同時に受け、まるで体が動かない。倒れることもできずその場で硬直する。


 水の能力者は水の塊を俺に放ち、水の塊は寸前まで迫っていた。


(これは避けられない!!)


 確実に当たる距離まで水の塊は俺に迫っていた。俺は反射的に目を瞑る、真っ暗な世界で攻撃が当たるのを待つしかなった。だが水の塊は俺に当たる瞬間にはじけて消えた。


「油断してたよ、もう起き上がってくるなんて……」


 水の能力者の声が聞こえ俺は目を開いた。水の能力者の横には雪菜が立っていた。


「試合終了!! 勝者 柊 高坂ペア!!」


 俺たちの勝利の合図が聞こえた。


 そして雪菜の声が聞こた。


「ゴメンね?」


『何が?』と声を出したかったがもう声すら出ない。俺の動かない体を雪菜は優しく抱きしめた。


(え?)


 どうしてこうなっているのかわからない。ただ雪菜の柔らかな体に抱きしめられた瞬間俺は意識を失った。






 観客席で日向と風音は集達の試合を見ていた。


「風音、アレ、あの人の……。 風音が教えたのか?」


「私が練習して教えたのは力のコントロールと脱力だけです、まさかあそこまで」


 日向と風音は集のあの一撃を見て驚いていた。


「能力者でもない集が使えるわけないのに」


 日向は拳を強く握りしめた。









 遠くで放送の音が聞こえる。俺はいつの間にかまたベッドの上にいた、というかいるのだろう。また試合で意識を失ったのだ。なんて弱いんだと自分でも思う。


「集くん起きた?」


 また同じ光景、また俺は雪菜に助けられた。一瞬にして俺の頭は雪菜への謝罪で頭がいっぱいになる。


『ゴメン』と言葉を発しようとしたが、声が出ない。体を起こそうとするが起き上がれない。自分の体を動かそうとするが全身に痛みが走り、体を動かすことをやめた。


「ゴメンね集くん……。 私がムキになって飛び出していったから集くんに負担をかけちゃって」


 確かにあの時の雪菜はいつもと違った。何かを焦るあまり周りを見ずに行動してしまったとも思えるような動き方だった。


「だいじょうぶ……」


 そこまでは声が出た。だがその先まで声が出ない、自身の疲労が限界を迎え体が言うことを聞かなくなっている。


 体を起こすこともできない状態で大丈夫なんて言葉意味のない言葉だと思ってしまう。だけど雪菜の前では強がっていたかった。


 雪菜は体を近づけ俺の背中に手を回し体を起こしてくれる。この動作だけでも体は悲鳴を上げた。だが軽く抱かれている状態になっている為少し得した気分になる。


 雪菜は俺の体を支えながら喋りかける。


「もうあの技は使わないで……。  あれじゃ集がもたない」


 雪菜は目に涙を浮かべた。


 俺がしたことは雪菜に涙を流させるほどのことだったのか?


 斧の能力者を倒すことで精一杯でそんなこと考えもしなかった。俺の体を心配してくれている雪菜の事を何も考えていなかった。


 下を向き涙を流す雪菜の頭に手を乗せる。ぎこちなく痛みが走る体を動かし優しく雪菜の頭を撫でた。


「悪い、雪菜がそんな風音に泣くなんて思ってなかったんだ。ただあの斧の能力者に勝たなきゃって思ったんだ」


「なんで私も涙が出るのかわからないの、集が遠くに行っちゃう気がして」


 遠くに行く? 俺はどこにも行くことはない。いつまでも雪菜の側に居たいと思っているのだから。


 体は徐々に調子を取り戻してきた、声も確かに出るようになってきた。


「俺はどこにも行かないよ、出来るならずっと雪菜の側に居させてくれ」


 恥ずかしい事を言っているのはわかっている、だけど伝えなければならない事だ思った。



 俺は雪菜の頭から手を下ろしベットに体を預けた。


「もう大丈夫だから雪菜も体を休めてくれ」


「わかったよ、集くんもゆっくり休んでね」


 雪菜は俺が居た病室から出ていく、俺はまた一人病室に残された。


 一人窓の外を眺める。俺が雪菜を泣かせてしまうなんて思ってもいなかった。

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