第三話 ペンダントの少女
もう夕方になり街には灯が燈り出す。夕方にこの街に来ることはあまりないが、久しぶりに来てみると中々に雰囲気も良く、何かいい出会いなどありそうなそんな風に思わせられる。
漫画が売っている店までの道を歩いていると、デパートに備え付けられた大型のモニターに目がいった。
そこに写っている映像はエデンで年に一回行われている大会の告知だ。
〈トーナメント オブ エデン〉通称TOEと呼ばれている。
TOEは能力者の中で一番を決める大会だで、能力者のド派手な試合が観れるとありなんかも絶大だ。
このトーナメントの優勝者は可能な限り何でも願いが叶えられるとあって、学生達は能力を鍛えTOEに挑戦する。
この大会には本島からも観戦客が訪れ大会を観戦しに来るほどに人気がある。
能力者が能力を使い一番を競い合う大会のだ。能力者は自分の能力を鍛えこの大会に向け努力している。
皆が高校生時代に一番力を入れ、勉強以外で頑張る場所がこの大会だ。
だが能力の使えない俺には関係のない。
皆が汗水流し努力している中、なにもできずにいる自分が、何の力も持っていない自分が、たまらなくつまらない人間にに思えて仕方がなかった。
小さい頃は能力に憧れ、高校生になった時にはこの大会に出場し優勝することが小さい頃の俺の夢だった。
だがそんな夢も、中学校を卒業する頃には絶たれたが、無能力者のまま憧れだったこの島に来ることになってしまった。
一度は夢を抱き憧れたこの島も、今の自分には何の価値もなく、ただ自分を閉じ込めておく為の箱でしかない。
モニターから目を離し目的の本屋に向かおうとしたその時、誰かと肩がぶつかってしまった。
「すいません。怪我はないですか?」
「すいません。お怪我はありませんか?」
お互いが同じことを言い顔を合わせる。
ぶつかった相手は黒髪の綺麗な女の子だった。相手の女の子には怪我は無くお互い無事で済んだみたいだ。
よく見ると同じ学園の制服を着ていた。
俺は私服を着ていた為相手は俺が同じ学園の生徒だとは気づいていないかもしれない。だが無能力者で有名な集はある程度の生徒には知れ渡っているが、相手の反応を見るからに特に、そんな様子はないようだ。
「ごめんなさい私急いでいるので」
そう言って女の子はその場から走りさっていった。
だが走り去っていった後の地面にはペンダントが落ちていた。さっきの女の子が落とした物だろうか。
そのペンダントはロケットだろうか中に何かを入れられるようになっているみたいだ。流石に中を覗くことはせず、そのペンダントを拾い女の子を追いかけようと走り去った後を目で追いかけるがもう姿はなかった。
そのペンダントをポケットにしまい女の子が消えた方向へ走り出す。このペンダントは何故かあの女の子にとってとても大切な物だと思い、街中を走り女の子を探し回る。
だがどこを探しても女の子を見つけることができなかった。俺はそのままペンダントをポケットにしまったまま家に帰ることにした。
そして家に着きシャワーを浴び夕飯を軽く済ませベッドに入った。そしてあることを思い出す。
(あれ?俺漫画買うの忘れてね?)
女の子を探すのに夢中で自分が何をしに街まで出かけていったのか忘れてしまっていた。
それほどまでに女の子にペンダントを渡すことに集中していたみたいだ。パーカーのポケットにしまっていたペンダントを取り出し、ベッドに寝転がりながらペンダントを眺めた。
何故か懐かしい感じがするこのペンダントをどうにかしてあの女の子に届けたいという思いが増していった。
ペンダントを眺めているうちに一つの女の子への小さな手がかりが見つかる。そのペンダントの裏側には〈Y・S〉と刻まれており女の子を名前のイニシャルなのだろうか、それとも誰かと女の子の頭文字のイニシャルをとったものなあのだろうか、それはこのペンダントの持ち主である女の子を見つけるまではわからないことだ。
そんなモヤモヤとした感情を抱きながら俺は眠りについた。