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クロッシングワールド  作者: たぬきいぬ
第一章     序章
36/151

第三十五話 暴食のグラトニー

「そうか……ならこいつは俺に預からさせてくれ。阿知賀さんが求める結果になるかは分からないけど頑張るからさ」


 俺は擬似アーツをキューブの形に戻しポケットにしまう。阿知賀さんの表情は一瞬で喜びの色に変わっていく。


「その子の名前はグラトニーと言いますですぞ、大食いですからね、だけど使うときは注意してくださいですぞ、気づいたら体力無くなってるかもしれないですからね」


「注意して使うよ、グラトニーか……。いい名前だな」

「グラトニーはキューブ型ですが他のアーツと違って名前を呼べば手元に現れますぞ」


 名前を呼べば手元に現れる? そんな擬似アーツは聞いたことがない。俺はためにし意思をグラトニーに送りながら名前を呼ぶ。


「来い、グラトニー!!」


 するとポケットに入っていたグラトニーはいつのまにか手元に現れ黒剣になる。


「なんだこれ! すごいじゃねーか!!」

「まあこれもわたしの技術ですぞ」


 本当の能力者になった気分だ。能力者は何もない場所からアーツを出現させることが出来る。俺が今体感した感覚もそれに近いものがあるのだろう。


「本当に気をつけるのですぞ、グラトニーは暴食。使い過ぎればいつのまにか倒れてるなんてこともあり得ますから」


 グラトニー暴食を意味する言葉。七つの大罪でそんなのあったっけな、でも暴食か……。こりゃ使うのに苦労しそうだ。


「グラトニーの感想を聞きたいので使ったら感想いただけないかですぞ? 出来ればコネクトを交換していただきたいのですが」


 阿知賀さんはポケットにしまっていたデバイスを出す。俺も自分のポケットからデバイスを出し阿知賀さんに見せる。


「それならいいぞ、ハイ俺のコード」


 俺はデバイスでコネクトのコードを表示する。コネクトはこうしてお互いの連絡先を交換できるのだ。デバイスに映されているコードをカメラ機能で写せばコネクトは交換完了だ。


「これで情報は交換できましたな、貴方はわたしのお得意様だ、それとこれはサービスですぞ」


 阿知賀さんは俺にリングを渡してきた。


「なんだこれ?」

「それはおまけですぞ、即展開型のシールドアーツですぞ。キューブ型は持ち運びが大変ですが、リング型は指にはめておくだけですから、ですが限りなく耐久値は低いので使用には注意ですぞ」


「こんなんまで貰ってもいいのか! まじサンキューな!」


 俺は阿知賀さんから貰ったリングを指にはめる。今日の模擬試合でピンチの時には使わせてもらおう。


「それでは健闘を祈りますですぞ」

「また感想報告するよ」


 俺は阿知賀さんと別れ試合会場である試験場へ向かった。それまでの道をグラトニーの使い方について考えていた。


 グラトニーは今までにはないタイプの擬似アーツだ。これは使いどころを間違えればすぐに自分の体力を失ってしまう。まずは普通の擬似アーツで戦っておいた方がいいだろう。


 試験場に着くなり模擬試合が行われる会場は人だかりで一杯になっていた。


(人多すぎだろ)


 能力者の試合は野良試合でもギャラリーが集まるほど人気がある。その中で正式な試合としてこの会場で試合が行われるとなれば、見にくる観客も多くなる。


 皆それぞれがどの試合で誰が勝つなど、様々なことを話している。


 俺は徐々にこれからの戦いに緊張していく。雪菜の足を引っ張らない戦いをしなければならないと思うとどこまで出来るのか心配になってきた。


 人だかりと緊張でいっぱいになっていると、誰かに後ろから肩を叩かれる。俺は首だけ後ろを振り向き相手を確認しようとしたが、よくあるイタズラの振り向いたら指で頬をつつかれるイタズラをされてしまった。


「引っかかった引っかかった」


 日向が俺に指を頬に刺しながらケラケラ笑っている。


「お前な〜、こっちはメッチャ緊張してんだぞ」

「だろうな〜、だからほぐしてやったんだろ」


 日向はそのまま会場の方に歩いていく。


「おはようございます集様」

「おっおう、おはよう」

 日向が俺を追い越していくと同時に風音も後ろにいたらしく、日向の後ろを風音が付いて歩く。

 突然の風音の挨拶に歯切れの悪い挨拶を返してしまった。


「集も行こうぜ、もうすぐ第一試合始まんぞ」


 日向はそのまま歩きながら喋る。いろいろな経験を積んだ日向は俺とは違い、いつも通りだ。緊張はしているだろうが不安ではないように見える。


「悪い俺雪菜とまちあわせしてるから、後でな」

「なんだ待ち合わせしてたのかならまた後でな」

「それでは」


 俺は日向と風音二人と別れ俺は入り口で雪菜を待つ。そして数分もしないうちに雪菜は試験場の入り口に現れた。


「おまたせ集くん。待ったかな?」

「全然待ってないよ。行こうか」


 俺たち二人は会場に入る。


 俺は俺の隣を歩く雪菜の横顔を見る。俺とは違い緊張している様子もない。


(足引っ張るわけにはいかないな)


 俺は雪菜の負担にならないように戦う決意をした。

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