第三十三話 新擬似アーツ
俺は雪菜が待っているロビーに戻る。日向達と長話をしてしまったから雪菜を長く待たせてしまった。
俺は急いでロビーに戻る、だがもうそこには雪菜がロビーの椅子に座っていた。俺は雪菜の元に急いで駆け寄る。
「ごめん、待たせた」
「本当だよ集、何してたの?」
「もの凄い音がすると思って訓練場の使用者の名前を見に行ったら、日向と風音が使っててさ、話し込んじゃったんだ」
俺はさっきあったことをそのまま伝えた。
「私のことを置いておいて他の女の子のとこに行ってたんだ」
雪菜はジト目で俺を見てくる。
「待たせたのは悪かったよ、ホントごめん」
「まっいいけどね、特に何時に集まるとか言ってなかったし」
雪菜は椅子から立ち上がり扉の方に向かう。俺は雪菜の後ろについて行く。
「日向と風音はどうだった? やっぱりあの二人には勝てそうにないかな?」
雪菜も聞こえていたのだろう、あのとてつもない振動と音が。あれを聞いて何も感じない人なんて多分いない。雪菜も一人のTOE優勝を目指す者としてさっきの振動と音は気になったはずだ。
「正直まるで勝てるとは思わなかったよ、無能力者だからとか関係なくあの二人はとてつもなく強い」
俺は拳を強く握りしめる。あの戦いを見て正直今までの自分の甘さを自覚させられた。無能力者の俺が、日向に一撃入れられたから何とか戦えるなんて思っていたが、日向は少しも本気を出していなかった。
「そっか…… 。あの二人には勝つには相当な努力が必要そうだね」
雪菜はこちらを振り向かずに答える。雪菜の表情は全く見えない。
あの二人に努力すれば届くなんて俺は全く思えなかった。雪菜なら強くなれば何とか追いつけるかもしれないが、俺があの二人に届く日は来ないだろ。
雪菜と優勝すると誓ったにも関わらず俺の心はあの二人の戦いを見て折れてしまっていた。
「明日は模擬戦一回戦だから張り切らないとね」
雪菜は俺に向け拳を向けてきた。
雪菜は俺の方に振り向き笑っていた。その笑顔に俺は顔が少し赤くなる。雪菜の何の屈託のない笑顔、それだけで俺の心は少し救われた気がした。諦めていた心が何とか立ち上がる力を与えられた気がした。
「そうだな、まずは明日絶対に勝とうな」
俺も雪菜の方に拳を向ける。二人の拳は軽くぶつかる。ただのお互いの頑張ろうの合図。
(ダメだな俺、ホント雪菜にはかないそうにないわ)
俺と雪菜は訓練場を後にしそれぞれの家に帰った。
模擬戦一回戦当日、俺は擬似アーツの複数貸し出しのため職員棟に向かっている。
一本は護身用にと持たされているが、それ以上になると職員棟か研究棟にしかない。
「ねえねえそこのお兄さんちょっといいかな?」
誰かに後ろから声を掛けられた。声からするに女の子だろうか、俺は声の方へ振り向いた。
俺は振り向きまず一番にこの女の子の身長に驚かされた。身長は140センチほどだろうか身長はとても低い。ぱっと見迷子か何かかと思ったが、服装は学園の制服を着ている。
「なんか用か? 俺今から職員棟に用事があるんだよ」
「もしかして擬似アーツを借りに行くのでわ?」
女の子は何故か俺の行動を知っていた。初めて会ったし初めて話す、そんな女の子が何故か俺の行動を知っていたのだ。俺は気味が悪くなり一歩後ろに後ずさってしまう。
「そんな驚かないでくださいよ無能力者さん」
俺はこの言葉で何となく察した。
「何だ、無能力者って知ってたから声を掛けたのか? 悪いが暇じゃないんだ後にしてくれないか」
俺はまたいつものイタズラだろうと思い、女の子を無視して歩き出す。だが女の子は俺の前に回り込み話を続ける。
「違いますですよ! そういうことではなくて、貴方に私が作った擬似アーツで模擬戦に出て欲しいですぞ!」
私が作った? 擬似アーツは専門の職人しか作ることは出来ないはず。なのにこの子は私が作ったと言った。
「君は擬似アーツが作れるのか? だとしても何で俺に?」
「貴方が無能力者だからですよ、無能力者の貴方が、私の作った擬似アーツで能力者を倒す、爽快じゃないですか? それより君なんて呼び方やめてください、私の名前は阿知賀 悠 ですぞ」
擬似アーツは所詮はアーツの模倣品、本物のアーツに確実に劣る、耐久値もあり刃こぼれのしないアーツと違って使い続ければ劣化してくる。破壊される前に修理に出せば直せるがまずアーツとぶつけ合った時点で壊れてしまう。
「なら阿知賀さん? 俺の名前は高坂 集よろしくな、爽快かどうかはわからないけど、どんな擬似アーツか見せてもらう事は出来るのか?」
「はい勿論ですぞ! はこれをどうぞです」
阿知賀は俺に擬似アーツのキューブを渡す、俺は擬似アーツに意思を送る。キューブは激しい光を放ち剣の形に姿を変える。
だが剣の形に変わっていく瞬間俺はいつもと違う感覚を受ける。
(何だこれ……なんかいつもと違う……!!)
剣と体が何かで繋がれる感覚、今までに味わったことのないそれに俺は驚きを隠せなかった。




